66話 みんなが来るってアリですか!?
場所は変わり、カルディラ傭兵団。
ヴィーナたちが去って数週間が経過した寮内は、以前のような活気がまるで見られない状況に。
ほとんど部屋から出てこないライラ。
庭で一日ボーッと過ごしているリース。
シルフィの側に控えているが、ほとんどの時間を屋根裏で過ごしているユノ。
ヴィーナがいる頃は食事だけは全員揃って取っていたが、今となっては見る影もない。
「はあ……」
その現状に、シルフィは重い溜息を吐く。
仕事を受けても失敗ばかり、培ってきた傭兵団としての信用は、今となっては地に落ちている。
「…………」
全員をクビにすることを考えたこともある。
そもそもヴィーナがいないのであれば、傭兵団を立ち上げた意味もない。
なのに何故まだ残しているんだろうと、シルフィは自分自身に疑問を投げかけるが、答えは返ってこない。
というよりも、認めたくないのだ。かつて過ごした傭兵団の日々に、未練があることを。
今となってはライラは生まれ故郷であるヴランの鉱夫たちに認められ、帰ることも出来る。
リースも同様だ。ストレニア村は彼女を必要としている。
ならば、解散してもいいはずなのに。
「……踏ん切りが、つかないのよね」
傭兵団の書類の束を机の上に広げ、もう一度溜息を吐いた。
そこにあるのは、ヴィーナがいた頃に受けた依頼の報告書。そしていなくなってからの報告書。
成功の印と失敗の印が左右に綺麗に分けられていた。
「シルフィ」
「……ビックリした。どうしたのユノ」
「わたしなりに調べてみた」
「調べてみたって、何を?」
「これ」
そう言って手渡したのは、分厚い封筒だった。
中を確かめると、びっしりと書き込まれた紙の束。
シルフィは封筒から取り出して中身を改めてみる。そこには、過去にあった魔物の侵攻によって滅んだ村の情報が書かれていた。
ユノが空いた時間で資料館に通い、似た時期に起こった事件を調べていたのだ。
「一年という時期で調べたら、滅んではいないけど襲われた村っていうのは五十件くらいあった。そのうち、同じ日に似た時間に襲われて滅んだ村は三つ」
紙に書き込まれた文字、三つを指で示す。
「うち一つはメール村。シルフィとヴィーナが住んでた村。後は西にある神聖国と、東にある海洋国が一件ずつ。つまり、離れた場所で別にもうニ件同じ侵攻があったっていうことになる」
「……そう、これもヴィーナが封印を壊した影響なのかしら?」
「それにも疑問がある」
これは紙には書かれていないことだ。
何故なら、調べても調べてもその事実は出てこなかったのだから。
「どうして、工芸品が盛んなだけの村に、封印があるって思ったの?」
「え……?」
「軍事的に重要な場所でもない……まあ今は、近くに砦が建ってるけど。誰か偉い人が避暑地として立ち寄るような村でも無かった。ただ魔族の領域の近くにあるだけの、ただの村」
メール村には封印が施されており、それがあるおかげで魔族の侵攻を食い止めていた。
シルフィ、そしてヴィーナはそうなのだと信じ切っている。
ユノはその前提が間違っていると思い、様々な資料を見て調べてみたが、封印が施されているという記事は一つとして見つからなかった。
「仮にそんな便利なモノがあったのだとしたら、どうして今は使われてないの? 二度と作れないほどの技術の粋を集めた封印なんだとしたら、どうして厳重に守られてなかったの?」
「そ……それは……」
ユノはいわば、誰でも見られる資料を見て辿り着いただけに過ぎない。
金も、情報網も、人脈もあるシルフィであればもっと詳しいところまで調べられるだろう。
だがそうしなかった。それは何故か?
「ヴィーナのせいにしておいた方が、気持ちが楽だったんだよね」
「そんなこと!?」
「今までは魔族のせいにしてきた。それがヴィーナの告白で気持ちが揺れて、感情の置き場所がなくなった。イライラを収めるには彼女のせいにしておくのが、ちょうどよかった」
「ち……違う……あたしは……」
「なら、カルディラ商会の力を使って調べてみればいい。わたしなんかより深く詳しく調べられる」
「…………」
「そうしないのは、逃げてるだけ。ヴィーナを追い出した責任を負いたくないだけ」
間違っていない。ヴィーナに対しあれだけのことを言った手前、今更『違いました』なんて言えないのだ。
真実を知るのが怖かった。悲しみがまたやってくるのが怖くて、商会を立ち上げたときですら詳しく調べようとはしなかった。
目を背けた結果、ヴィーナの言い分を鵜呑みにして、またも真実を知ろうとはしなかった。
「本当にヴィーナのせいなら、それでいい。逃げ出すようなことをしたってことだから…………でも、本当は違ってて、無意味にヴィーナを追い出しただけなら、わたしはシルフィを、軽蔑する」
「ユノ……」
「あんな陰気な傭兵団に帰りたくない。前みたいな、明るい場所が良い」
それはユノの精一杯の要望だった。
結局はシルフィが決めることだ。彼女が雇い主であり、ここカルディラのトップなのだから。
「用はそれだけ。じゃ」
「あ、ちょ……!?」
ユノは姿を消す。残されたのは彼女が調べた分厚い紙の束だけ。
手に感じるのは重量感。それが紙の重さなのか、それとも彼女の気持ちの重さなのか。
「…………」
文字を読み進めるのが怖い。ページをめくるのが怖い。
自分が思っていたことが、まるで違う現実を見るのが怖い。
しかし、ユノが自主的に動いて自分の気持ちをストレートにぶつけてきたのは初めてかもしれない。
「それに……」
ヴィーナのいない毎日は、つまらない。
口に出そうとして、やめた。
まずは知るところから。
自分の常識と世界の真実を照らし合わせ、どちらが間違っているのか。
知らなければならない。
そう判断したら、行動はすぐだった。
ユノが用意した紙をすごい速度で読み進めていく。商会長の時の仕事モードのようだ。
「ふう…………誰かいる?」
ドアの向こう側に声をかける。
現れたのはメイドの一人、ドアを開いてうやうやしく頭を下げる。
「調べてほしいことがあるんだけど」
………………。
それから数日。シルフィは久しぶりに傭兵団の寮へと訪れていた。
ホコリだらけのリビング。
いつにもまして髪がボサボサのライラ。
いつもの元気がないリース。
いつもと変わらないが、目を伏せたままのユノ。
三人の前に、シルフィは一枚の紙を持ってきた。
「仕事を受けてきたわ。今回はあたしも同行するから」
「…………いいよ、そんな気分じゃないし」
まず拒否を見せたのはライラ。紙を見ることもなく、目を背けたまま小さく呟く。
「残念だけど、これは商会長としてのあたしの命令。三人全員強制的に連れて行くわ」
紙を三人の前に叩きつけるように置いた。
三人は渋々、といった風に紙に目をやる。
そこに書かれていたものは……。
「――サハギン退治。この時期になると大量発生して観光客に迷惑がかかるみたいでね。信用のないあたしたちにもお鉢が回ってきたってわけ」
「東の国……ウルシーラ?」
「ええ、海水浴で有名な国よ。さっさと仕事を終わらせて――全員で、遊ぶっていうのはどう?」
そこまで言った後、シルフィはユノを見た。
「――全員で、ね」




