60話 まさか会うなんてアリですか!?
今日もお昼を過ぎた辺りでお店は終了。
だけど今日は店長と二人じゃなく、私の知り合いが二人いる。
シルフィさんに雇われていた盲目の鍛冶師フェンさんと、目が見えないフェンさんの身の回りのお世話をしているメイドさん、エレナさんがいた。
詳しく話を聞きたかったけれど仕事中だったため、終わるまで待ってもらったわけだけれど……。
「……それで、どうしてフェンさんたちはここにいるんですか?」
「いやしかしあのヴィーナくんが水着で接客とは。重ね重ね目が見えないことが悔やまれるよ」
「聞いてます?」
「観光大国ウルシーラ。噂には聞いていたけれど、賑わいが凄いね。大陸一人が集まる国、と呼ばれるのもわかる気がするよ」
「あの……?」
……答えたくないのかな?
乾いた笑いを見せていたフェンさんだけれど、唐突に笑みは消え失せ。
「辞めたよ」
「え!?」
とんでもないことを、言い放った。
……いや、辞めたのは私も同じだけどね。
「考えてもみたまえ。私は何のために呼ばれたんだい?」
「あー……私が使っても、砕けない剣を作ること……」
「そう、エレナくんもリースくんもそうそう頻繁に壊れることはないからね。あそこで私が出来る仕事は無くなったんだよ」
なるほど……確かにそうかも。
だけど、私が逃げたせいでフェンさんの職まで失わせてしまうなんて……。
「ごめんなさい、フェンさん」
「謝罪の言葉を向けるのは――私にじゃないだろう?」
言いながら店の外に目を向けるフェンさん。
…………まさか!? 私は慌ててフェンさんの視線を追いかける。
………………。
だけど誰も入ってくる様子はなくて。
「ヴィーナ様、別に誰も来ませんよ」
「なんなんですか!」
皆がいるのかと、少し期待してしまった。
「今のキミはどんな気持ちだったかな? 会いたかった? それとも会いたくなかった?」
「…………それは」
「ま、それはいいさ。キミの行動を咎める立場でも無いからね」
そんな……。
私の所為で無職になってしまったんだから、咎める立場にあるはずなのに。
「でもフェンさん」
「……ん、どうしたのかな」
「どうして私がここにいるってわかったんですか?」
同じ国の他の村かも知れないし、反対側の国かもしれない。
なのにどうして、こんな短い期間でここにいるって……。
「ヴィーナくんが深夜に飛び出したあの日、夜に出た馬車はウルシーラ行きのものしか無かったんだよ?」
「……気付いてたんですか?」
「もちろん。目が見えない代わりに耳は良いからね」
「そうなんですか……」
調べればすぐにわかるのなら、逃げた意味なんて……。
でも、今のシルフィさんが調べるとも思えない。私は憎しみの対象でしかないだろうし。
「私にも聞かせて欲しい。どうして逃げたのかな?」
「…………」
「無職になってしまったんだ。罪滅ぼし的な意味で是非とも聞かせてほしいね」
私の罪を隠すべきじゃない。
保身に走った結果が、今の私なんだから。
私は、過去にした過ちを全部話すことにした。
………………。
…………。
……。
「……ふむ」
私の話を全部聞いた後、フェンさんは短く呟いて何度も頷く。
その時間は私にとって針のむしろのような時間だった。けど、必要な時間でもある。
「一つ疑問があるんだけど」
「なんでしょうか?」
「村が襲われたのは、木の像を壊して封印が解けたっていう話だけど……それは間違いないのかな?」
「えっと……はい、おそらく。私が踏み潰して少ししてから、魔物たちがやってきたので……」
「踏み潰したのと魔物がやってきたことが同時にやってきただけという可能性は?」
「そんなことってあり得るんですか?」
たまたま同時に起こっただけなんて……。
タイミング的にも、私がやったと考える方が自然なのに。
「私からしてみれば、ヴィーナくんが踏み潰したから封印が壊れた、と考える方が無理があるよ」
「どうして……!」
「それほど大事な像であれば、祭壇を作るなり祀り上げるなりして設置するだろうからね。野生動物に倒されるかもしれないような、無造作な場所に放っておいたりはしないさ」
「……いや、でも、それは…………でも、それなら山に落ちてた木の像はなんだっていうんですか?」
「さあ……そこまではわからないけど」
裏山に一つぽつんと落ちてたそれは、何だったのか。
ただ落ちてただけ、なんて話を飲み込めるわけなんてない。
「あの、少しよろしいでしょうか」
「エレナさん?」
「ヴィーナ様の生まれ故郷であるメール村って、木工が盛んな村とお聞きしましたが」
「え、ええ……確かそうです」
「誰かの手慰みによって作られた品という可能性はありませんか? 売り物にならず、失敗作であるため裏山に捨てた、など」
……そんなこと、あるんだろうか。
確かに、仮に木の像が封印を司っていたのだとしたら、もっとちゃんとした形で置いておかないといけない。
木の下に無造作に置かれているのは、不自然かもしれない。
でもだとしたら、私が壊したのと魔物が同時にやってきたのを別々に考えるのも不自然だ。
「調べてみる必要があるかもね……エレナくん、頼んでもいいかい?」
「ええ、構いませんが……フェン様は如何なさるのですか?」
「記録を調べるという点では私は役に立てないからね。大人しく留守番してるさ」
……でも、あれは私がやったんだ。私がやった。
だから皆は…………あれが、事故なんて……そんなわけ。
「もういいかい」
「て……店長?」
「いきなりやってきたかと思えば変な話を聞かせてくれて、どうもありがとうよ」
「ど……どういたしまして?」
「皮肉も通じないのかね……」
……ずっと待っててくれたんだ。
変なところで頑固だけれど、根っこは優しいお婆ちゃんだっていうのが、よくわかる。
「やあ、店長さん……ということはこの海の家の持ち主、ということかな。私はフェン、よろしくお願いするよ」
「私はよろしくするつもりはないんだけどね。客じゃないならさっさと帰ってくれないか」
「まあまあそう言わずに。これから寝食を共にする仲なんだから」
「は?」
は? 私も店長も同じ顔をしているに違いない。
「私たちには行く当てがなくてね。知人がいるならちょうどいい、厄介にならせてもらおうかと、ね」
「ね……じゃないよ! なんで私が!」
「今ならエレナくんが水着で接客するけど?」
「私を巻き込まないでいただけませんか」
……それはつまり、私だけに集中していた視線が、エレナさんと半分に分かれるっていうこと?
私にとっては渡りに船の提案かもしれない……!
「……ふむ、まだ足りないね」
「なら私も水着になって店先で座っていよう! 接客は残念ながら出来ないけれど、女性客限定ならこの胸を触らせても構わないよ?」
「そんなことしたら潰れちまうよ!」
自分の胸を持ち上げたフェンさんの手を、ぱしりと叩き落とす店長。
……なんというか、自分のペースに持っていくフェンさんの話術が、少し怖く思えてしまう。
「余ったこの水着をどっちかが着るんだね。なら住まわせてやってもいい」
取り出したのは……例の紐のやつ! まだ持ってたの!?
「店長様……それこそ店が潰れてしまうと思いますが」
見えているエレナさんは、ため息交じりに冷たい目をしながら言う。
フェンさんは水着の形を指でなぞり……そして。
「あっはっはっ!! 実に面白い水着をお持ちのようだね! だが確かに、少しいきすぎな面積ではあるかな? 私の胸のほうが何倍も良いと思うね、この柔らかさは客寄せになるよ」
「だから潰れちまうって! ああもう……わかった、好きにしな、だけどそこのメイドのあんたにはちゃんと働いてもらうからね」
「お給金をいただけるのであれば、なんなりと」
トントン拍子に一緒に住むことが決まった。
…………え、ホントに!?
イヤじゃない、むしろ馴染んだ顔がいるっていうのは嬉しい……けれど。
馴染んだ顔がいると、やっぱり思い出してしまうのは傭兵団のみんな。
「フェンさん……みんなって、今どうしてますか?」
「気になるかい? 気になるよね」
どうしたものか、とアゴに手をやって考える仕草を少し見せた後。
フェンさんは沈痛な面持ちで、こう言った。
「今あそこは……ボロボロだよ、本当に、ひどいものだ」




