表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/71

56話 罪の告白ってアリですか?


「…………」


 コソコソ。

 今日は仕事もなく、オフの日。そんな日に人目を盗んで何をしているのかと言うと……。


「あの、すいません……廃村した資料とかって……?」

「廃村……ああ、あの隅にある場所がそうですね」

「ありがとうございます」


 やってきた場所は図書館。

 理由はもちろん、メール村が滅んだ理由を調べるため。

 私が木彫りの守り神の像を壊した所為で村に魔物がやってきた、っていうのは私しか知らないことで。

 なら周囲にはどう伝わってるんだろう? って考えたら居ても立っても居られなくなってしまった。


「ええと、メール村メール村……」


 号外記事のスクラップのようなファイルを両手に抱えて、机まで持ってきた。

 ペラペラとめくって記事を調べてみるけど……意外と廃村になったところって多いんだ……。


 なになに、若い村人は村を捨て町へと出た限界集落……違う。

 町から遠く、行商人が寄り付かない僻地が……これも違う。

 村の男全員を虜にした一人の女性によるハーレム村…………なにこれ!?


 ………………。


 はっ!? 別のことに興味を惹かれて読みふけってる場合じゃなかった!

 メール村……メール村……。


 あ、魔物暴走の被害による廃村…………あ、でもメール村じゃないや。


「…………見つけた」


 十年くらい前の記事だ。

 突如魔物の大規模破壊活動によって、三つの村が全滅……。

 そのどれもが魔王の領地との国境に近く、魔王の侵攻が懸念されている。

 ラニ村、エンガ村、メール村の三つが、一夜にして全滅。

 ……あの日、三つも襲われたの?


「じゃあ……私が壊したあの像は……?」


 あれを壊したから、魔物がやってきたんだと思っていた。

 けど三つの村が一気に襲われたんだとしたら……私が壊したのはひょっとして……関係ない?


「それとも……壊したから?」


 関係ない、と考えるのは自分に都合が良すぎる気がする。

 それよりも壊したからこそ三つの村が襲われたと……考える……べき……。


「…………」


 胸が痛くなってきた。

 胸元をギュッと握り、意識しながら大きく呼吸する。


 そんな、まさか。

 私の所為で、他にも村が滅んでた……?


 いやでも、あの日を境に魔物の行動は活発化して、私たちの村近くの跡地に砦が建てられた。

 それからずっと続いてる、魔族との戦い。


 偶然なのか……それとも……私の所為で引き起こされたのか。

 記事を読んだだけではハッキリしない。


 震える指で記事の文字をなぞっていく。


 ラニ村は大きな農村、エンガ村はお酒が有名で、宿屋はいつも予約でいっぱい。メール村は木工工芸が盛んな村だった……。

 後はとりとめのない記事と、偲びの文面が並べられていた。

 ……正直、読まなかったほうがよかったかもしれない。


 知るべきだった事実とは思うけれど。

 知りたくなかった事実でもある。

 自己中心的な考え方だと思うけれど、他の村が滅んだ遠因が私にあるとは……思いたくなかった。


 ……どうしよう。こんな私が……何も言わずに、毎日を過ごすなんて……。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう……!


「やっほーヴィーナ」

「っ!? し、ししししシルフィさん!? こんなところで何を!?」

「声デカ。いや、外から姿が見えたもんだから。ヴィーナこそこんなところでどうしたの?」

「いえ! いえいえいえ! 別に何も!!」


 バタン、と勢いよくファイルを閉じる。

 見られた? 見られてないよね? 大丈夫だよね?


「……図書館ではお静かに」

「ですよね! ごめんなさい、じゃあ私は行きますね!」


 司書さんに怒られた私は、ファイルを机の上そのままにして、逃げ出すように図書館を飛び出した。

 逃げ出すように、じゃないね。私は逃げた。


「変なヴィーナ………………ん、これって……?」


 片付けておくべきだった。

 そうしておけば……私はまだ――傭兵を続けていられたのに。


 後悔したのは、夜のこと。

 シルフィさんに呼び出され、私はカルディラ商会へと足を運んでいた。


「…………」

「…………」


 ローテーブル越しに向かい合って座る。会話は特に無かった。

 嫌な予感しかしていない私は、座り心地の良いソファーに腰を沈めているはずなのに、足の震えが止まらない。

 メイドさんがお茶を運んできてくれた。シルフィさんが一口飲んだ後……口を開く。


「廃村を調べて何をしてたの?」

「っ……」


 やっぱり。片付けておけばよかった。

 ごまかすための言葉ならいくつかある。


 けど。


 私の罪は、私の胸だけの中に仕舞って良い罪じゃない。

 罰を受けるべき。それは私が心を軽くしたいがために思っていることかもしれない。

 でも、同郷のシルフィさん……シュシュちゃんには、正直に言わなきゃいけないんだ。


 口が乾く。震える指でカップを手に取り、唇を湿らせる程度に口に含んだ。

 味なんてわからない。きっと良い葉を使ってるはずなのに。


「メール村、のことです……」

「まあそうよね、ヴィーナが調べることなんてメール村くらいしかないだろうし」

「あの日、村にいきなり魔物がやってきて……」

「…………そう、突然だった。全員出来ることなんて、逃げることくらいしか無かった。けど突然過ぎて逃げることすら出来なかった」


 毎日のように夢に見る。何度も何度も見た光景は、忘れることなんて出来ない。

 声にならない声を絞り出し、私は…………。


「……………………私の、せいなんです」

「は?」

「……あの頃、私は毎日のように山に行ってて……その時に、木から落ちたはずみで木で出来た何かの像を壊してしまったんです。すると、村で悲鳴が……」

「………………は? いやいや、ちょっと待って…………は?」

「きっと私が村の守り神様の像を壊してしまったばっかりに……ごめんなさい、本当にごめんなさい……!!」


 溢れ出た言葉は止まらない。謝罪の言葉を口にして、頭を下げる。

 後悔や痛みから涙が溢れ出る。見られないようにもっと深く頭を下げた。


「いや、意味わかんないんだけど……ヴィーナがその像を壊したから……村が滅んだっていうの?」

「……は、はい」

「ヴィーナのせいで……父さんと母さんが…………村の皆が……?」

「………………はい」

「…………なに、それ」


 怒鳴られる、殴られる、それくらいは覚悟していた。

 されて当たり前だと、むしろされなければならないと。

 十分くらい沈黙があった。シルフィさんが口にした言葉は……。


「帰って」

「え、あの……」

「早く」


 短い言葉。

 けどそれは、確かに拒絶の言葉。

 私は何も言わずに、頭を深く下げてから部屋を飛び出した。

 扉越しに泣き声を聞きながら……私は寮に戻り、布団を被って目を閉じた。

 眠れないけど、眠らないと。明日は依頼があったはず。


 ……そして、翌日。

 シルフィさんはいつもと変わらない時間に傭兵寮にやってきた。

 手に持っているのは依頼内容が書かれた書類。


「……んで、今日の依頼だけど。東の国、ウルシーラに大規模な商品輸送が行われるわ。道中の護衛は他の冒険者たちがやるみたいだけど、積み込み終わるまでの間の警護を頼まれたわ」


 淡々と説明するシルフィさん。

 ……だけど、その目は私を見ていない。

 まるで私が存在しないかのように。

 気にしすぎかもしれない、昨夜あんなことがあったばかりなんだし、私が考えすぎてるだけかも……。


「あの、シルフィさん。依頼で聞きたいことが……」

「じゃあ皆、頼んだわよ」


 依頼書を叩きつけるように机に置いて、私の言葉を遮るようにして立ち去っていった。

 そのことにはみんな目を丸くしていた。ユノさんは昨日の話の時いなかったみたいで、彼女すらも驚いていた。

 何かあったの? ってライラさんに聞かれたけれど、言えるわけがない私は曖昧に笑ってごまかすことしか出来なかった。


 そして警護の依頼に行ってる間も、シルフィさんは皆を労いに現場にやってきた。

 もちろん私には無い。嫌われる覚悟もしていたけれど……。

 正直……辛い。

 私が部屋の隅で小さくなっていたのを引っ張り出してくれたのはシルフィさん。

 その救ってくれた人に見捨てられるって……思っていた以上に、辛い。


 積荷を奪おうとする盗賊も出てこず、依頼自体は何事もなく終了。

 けど……今までで一番、疲れた。戦いがあった日の方が疲れてないくらいだ。

 不自然なくらい私とシルフィさんの間に会話が無かったことを、みんなが心配してくれていたけれど。


 ……やっぱり、言えるわけがない。


「…………」


 夜になって、ベッドに潜り込んで天井を見つめる。

 体中疲れているのに、なのに眠気は来ない。

 来るのは溜息ばかりだ。


 ……もう、私はここにいられない。


 そう考えると、行動するのはすぐだった。

 ここにいてもシルフィさんを苛つかせてしまうだけ。

 ならここじゃない何処かに行った方が。

 シルフィさんの目の前から消えたほうがいいんだ。

 少ない荷物をかき集めて、ベッドを整えて……部屋を出る。

 シンと静まった寮の中を噛みしめるように、足音を立てないようにゆっくり歩きながら。


 私は、寮を飛び出した。

 行く当てなんてない。でもここにはいられない。

 夜も更けた、月明かりだけの平原に、文字通り逃げ出してしまったんだ。


「…………やれやれ、こうなってしまったか」


 鍛冶場の横で寝ていた盲目の鍛冶師に気付かず、私は町を後にした――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ