54話 パーティーってアリですか!?
「ブラッドハートが手を引いた?」
私とユノさんがカルディラ商会に戻って報告すると、シルフィさんが、目を丸くした。
それもそのはず、ブラッドハートは絶対に得物を逃さない、ということで有名なのだから。
雇い主はわからずじまいだけれど、それよりもシルフィさんが無事だっていうことのほうが大事。
とはいっても、これから先別の手先に狙われる可能性はある。けど、今は安心していいはず。
「ごめん、シルフィ……わたしのせいで……」
「何言ってんのよ」
「え……?」
「ユノがいたからブラッドハートが依頼を諦めてくれたんでしょ? もしユノがいなかったら、あたしはもう死んでたかもしれない」
そう、偶然だった。
偶然ユノさんがいる商会に、偶然ブラッドハートが依頼を受けた。
そして偶然にもユノさんのお母さんが任務に来ていた。偶然に偶然が重なったから起こった奇跡みたいな話。
まるで誰かがユノさんとお母さんを会わせるように手引きしたような……。
……考えても仕方ないよね。今確かなのは、シルフィさんに安全がやってきた。
今はそれだけを喜ぶとしよう。
「ブラッドハートの雇い主については、あたしの方で調べておくから。報復はしっかりとさせてもらうわ……しっかりとね…………でも! 今はそれよりも、無事に片付いたことを祝おうじゃないの!」
「じゃあ、じゃあじゃあ……ボス!」
「そうよリース……パーティーよ!!」
執務室に沸き起こる大歓声。
ここ数日ずっと気を張っていたから、ようやく肩の力を抜いて椅子に座ることが出来る。
皆が喜んではしゃぐ中、私はゆっくりと椅子に座って大きな息を吐いた。
なのに。
「ヴィーナ休んでる場合じゃないわよ! ちょっと、誰か!」
ドアの向こうに声を投げかけると、程なくしてメイドの人が入ってくる。
恭しく一礼しながらの入室、エレナさんみたいに様になっている姿だった。
「ヴィーナと一緒に買い物に行ってきて、配達には人を使うように」
「かしこまりました」
「私、休みたいんですけど……かしこまりたくない……」
「でもヴィーナには料理してもらわないと……ねえ?」
「私がやるんですか!?」
さっきまで殺される寸前だったのに!? 鬼ですか!?
私だってここ数日ずっとほとんど寝てないし、ようやく……ようやく休めると……!
「でもあたしヴィーナの料理食べたいなぁ」
「リースもー!」
「じゃあアタシもー」
「……わたしも」
…………うぅ。
そんなこと言われたら……断れないじゃないですか!
「わかった、わかりましたよ、もぅ!! でも明日からは休ませてもらいますからね!?」
「ありがとヴィーナ! じゃあ頼んだわよ!」
そうして、メイドの人と商会を後にする。
しずしずと私の半歩後ろを歩くメイドさん。何か言わないと気まずくてしょうがない。
「お気になさらず」
「っ……私、声に出してました?」
「いえ、ですがお嬢様の考えはわかります。むしろ貴女様を休ませるために、買い物に出かけさせたのだと思いますよ」
「……え? どういうことですか?」
メイドさんが言う言葉は、私が思っていた言葉じゃなかった。
私を休ませるために……買い物に行かせて、料理をさせる?
休むってなんだろう。
「お嬢様はすでに、犯人の目星はついています」
「そうなんですか!?」
「はい、ここ数日執務室で行っていたのは、恐らく依頼主の裏を取るためかと」
「でもそれで私が休めるっていうのは……?」
シルフィさんに犯人がわかっているのと、一体何の関係が?
「おそらく犯人は商会で勤める誰かでしょう。雑用かもしれませんし、植木職人かもしれません、ひょっとしたら上の立場にいる人間かも。流石に私程度にはそこまで当たりをつけることは出来ません」
「内部から……!?」
「正しくは、他の商会に寝返った内部……でしょうか。もしくは他の商会からやってきた、かもしれません。どちらにせよお嬢様の味方ではないでしょう」
「スパイみたいな感じ……ですかね?」
私の言葉に頷くメイドさん。そういえば……初めてカルディラ商会に行った時に案内してくれたのもこの人だったかも?
この人はシルフィさんのことが好きなんだろう。絶大な信頼感が、言葉の端々に含まれている気がする。
「お嬢様は基本、皆様といる時は楽しそうにのほほんとしていらっしゃいますが、あの年齢で五大商会の椅子に座るには、のほほんとしてはいられません。その顔を……恐らく貴女様には見せたくないのかと」
「でも、でもそれじゃ……私だけが……」
「自分の良いところだけを、見てほしいんだと思います。ですから私たちは、お嬢様の期待に応えるべく、美味しい料理を用意して迎えるべきではないでしょうか」
……確かに。確かにそうだ。
今商会で何が行われているか、それを知ることは出来ないけれど。
私の知ってるシルフィさんは、ヤキモチ焼きで、怒りっぽくて、表情豊かで、よく笑う。
それでいいのかも。少なくとも今は。
「…………よし、何作りましょうか? もしよければ、参加していきますかっ?」
「御厚意はありがたく思いますが、そこに私の席はありませんので」
「うーん……じゃあ、一緒に味見しましょう!」
「はい、それでしたら」
そうして、私はメイドさんと一緒に色んなお店に回った。
普段なら買わないような、お高い食材を注文して。
目を疑うような金額だったけれど、カルディラ商会で全部もってくれるらしい。
食材は後で寮に全部配達してもらうことにしたので、私とメイドさんは一足先に寮に。
「フェンさん、ただいま!」
「やあやあヴィーナくん! おかえり!」
「おかえりなさいませ、ヴィーナ様」
寮のアーチをくぐると熱気が押し寄せてきた。
鍛冶場にいるフェンさんに、すぐそばで立っているエレナさん。
メイド同士で軽い会釈をしていた。
「その声色、どうやら無事に済んだみたいだね?」
「はい! 今日はそのお祝いパーティーですよ!」
「パーティーか……食事の後のお風呂もセットかな?」
「それは死にかけるからやめた方がいいです」
私がじゃなくフェンさんが。
なんだつまらない、と口を尖らせるフェンさんを尻目に、私は準備に入る。
既に寮にあるモノの下ごしらえをしていると、次々に配達されてくる食材たち。
目が回るような忙しさだけど……無事に終わったことを考えると、その忙しさすら心地良い。
「これどうですか?」
小さなスプーンをメイドさんに手渡す。
黙って口に運ぶその姿を、ドキドキしながら見ていると……。
「……はい、大変美味しいです。ヴィーナ様は料理が大変お上手なんですね」
「ここの皆が喜んでくれるから、でしょうか。嬉しいんですよね」
「そうですね……よくわかります」
すると、外から賑やかな声が。
確認しなくてもわかる。
「お帰りになられたようですね」
「はい、そうですね」
「ヴィーナただいま! お腹すいたー!!」
「……はいっ! もうすぐ出来ますからね!」
疲れた体も、皆の笑顔を見れば吹っ飛んでしまう。
ここからさらに美味しいって言いながら笑顔を見せてくれるんだろう。
皆のためなら、何処まででも頑張れる。
賑やかになったリビングを見ながら、改めてそう自覚する私だった。




