49話 もう帰りってアリですか!?
馬車がガラガラと音を立てて、街道の上を走る。
中で座る私たちの中心にそびえ立つのは、トロフィーだった。
円柱形で、一番上には二頭筋を見せつけるような腕の模型。
筋肉祭の優勝記念トロフィー。
「うーん、優勝したねー!」
「ん、余裕だった」
リースさんが言った後、ユノさんは静かに同意。
そう、お祭りは終わった。
大盛況のままお祭りは終わり、目的を果たした私たちはヒザーク王都へと戻る途中……。
「……たちは?」
「……よね、どう……たちは?」
……なんだけど、俯きがちにブツブツと呟いている人が二人。
「……どうかしました、ライラさん、シルフィさん?」
「……アタシたちの出番は!?」
「もう終わりましたけど……」
「覚えがないんだけど!!」
そう言われても。
ユノさんが勝利して、リースさんも勝った後。
ライラさんが第三種目に出場した。
種目は腕相撲。筋肉自慢の人たちばかりで、これだけは勝ち目がないかと思っていたんだけれど。
予想外のことが起きた。皆満腹で動けなくなってしまったのだ。
一人一種目という特別ルールの私たちだけが出場することになって、ライラさんは第三種目を不戦勝。
「いや、そうなんだけど……そうなんだけどさ、もうちょっと深堀りして欲しかったっていうか……!」
「と言われましても」
「ならあたしは!? あたし頑張ったよね!?」
次はシルフィさん。第四種目の計算問題に出場した。
……なんだけど、皆は脳みそまで筋肉になってたっていうか、なんというか。
簡単な四則演算。それすらも悩みながら書いていた人が多数。中にはわからなくて紙を破いて失格になった人もいた。
「ですけど、正直シルフィさんの独走状態だったといいますか」
「独走いいじゃない! ユノやリースだって独走状態だったじゃない!」
それはそう。
……なんだけど、一つだけ致命的な点があった。それは……。
「紙に向かって黙々と解いている姿、とっても地味なんですよ……!」
「そ……れ、は……っ、どうしようもなくない!?」
「どうしようもないんです、だから端折らざるを得なくなったと言いますか!」
「あ、やっぱり意図的に端折ったんだ!?」
不戦勝、そして地味な絵面。
撮れ高の無さそうなこの絵は、やっぱり飛ばすしかないわけであって。
「でも、私のも端折ってますから!」
「……まー、確かにトリに用意しただけあって盛り上がった種目だったよね」
「それは確かにそうだけど、あの種目じゃヴィーナの勝ちになるのは目に見えてたけどね」
第五、最終種目。武器を使って丸太を叩き切る、という内容。
男の人たちもようやく筋肉を使うときが来たということでやる気は大いにあり、盛り上がりも最高潮。
「皆力任せにへし折るって感じだったよね!」
「うん、その中でヴィーナだけ綺麗に斬り落とした」
「剣は粉々に砕けたのは、さすがヴィナちゃんって感じだったけどねー」
ということで、祭りに参加してみれば、全員が一位。優勝ということで幕を閉じた。
といっても、これは半分ズルみたいなもの。全種目に出ていれば優勝は出来なかったかもしれない。
だって私はかけっこは苦手だし、大食いでもないし力もない。計算も得意じゃないから、勝てる確信を持てるのは最後くらいなもの。
「……んで、どうだった? 人との戦いは」
シルフィさんがライラさんの方を見ながら言う。
……そういえば、ライラさんが何か言ったから祭りに参加することになったんだっけ。
「いやこれ戦いって言うより競争じゃない?」
「まあそうね」
「じゃあ……えっと、勝ててよかった、とか?」
パチパチとまばらな拍手が起こる。
「そもそも、今は人と人が争ってる場合じゃないからね、そういう依頼はほとんど無いの」
私たちが住むヒザーク王国は魔族領と隣接していて、国境では頻繁に小規模な戦いが繰り返されている。
西と東にある国も魔族領と隣接しているため、三国は形としては同盟状態で手を取り合って戦い続けていたりする。
だから依頼は人間相手よりも、魔族を相手にする依頼の方が遥かに多い。
「じゃあ、なんでこの祭りに参加したの?」
「え? そんなの決まってるじゃない」
足を組み直し、少し胸を張って自信げに微笑むシルフィさん。
「みんなと遊びたかったからよ」
「…………あー、なるほどねー」
「うん! リースもボスと遊んで楽しかった!」
「たまには、いいね」
「ヴィーナは?」
「私ですか? もちろん私も、楽しかったですよ。お祭りに行っただけじゃなく、参加も出来て。ちょっと前じゃ考えられないことでしたし」
……うん、最初は『なんでこんなものに!?』なんて思ったものだけれど。
終わってみれば楽しかった。
それに皆でこうして遊びに行ったのって……ひょっとして、初めてじゃないかな。
「そ。なら良かったわ」
「……もしかしてシルフィ、ヴィーナを楽しませたかったから……?」
ユノさんの声のトーンが落ちる。
最後の最後で影が……と思ったけれど。
「そんなわけないでしょ。さっきも言った通り、あたしはみんなと遊びたかった。何気に初めてなのよ? 仕事以外で全員で出かけたのって」
「……確かに」
「でしょ? あんたたちは背中を預け合う仲間、一緒に遊んで仲を深めて支え合う存在になって欲しいの」
シルフィさん以外の全員が視線を交わし合う。
こう言われた後だから少し恥ずかしいけれど……うん、嬉しい。
「……まあ、サボった分後にしわ寄せが来るんだけどね、あー……机に乗ってる書類を考えるだけで頭痛くなってくるわ」
「あはは……頑張ってください」
そればっかりは手伝うことが出来ないしね……。
って、そういえば!
「フェンさんたちのお土産……買ってません!」
「……確かに、忘れてたわね」
「フェンなら、ライラの胸でも差し出せば大丈夫」
「なんでアタシ? ユノちゃんの胸でもいいよね?」
「わたしの胸はそこまで安くない」
「アタシのも安くはないんだけど!?」
ケンカをしているようで、じゃれているだけ。
とても賑やかな帰路。馬車の揺れも気にならないほど、帰り道は笑顔に包まれていた。
私は人知れず思う。願わくば、こういう関係が……ずっと続きますように。




