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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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47話 筋肉祭ってアリですか!?


「そういえばさー」


 リビングで全員がくつろいでいる最中、思い出したかのようにライラさんが言い出した。

 全員の視線がライラさんに集まる。


「アタシたちって、傭兵団っぽくないよね?」

「……どういう意味?」


 眠そうな顔でシルフィさんが問い返す。

 のんびりくつろいでると眠くなるよね、わかる。


「傭兵ってさ、お金を貰って人と人とでバチバチにやりあう、みたいなイメージあるじゃん? でもそういうのがないなーって」

「そうだねー……でもリースは、あんまり戦いたくないよ?」

「アタシだってそうだよ、でも今ってどっちかって言うと、傭兵って言うより冒険者っていうか、なんでも屋っていうか?」


 確かに。

 厩舎の掃除から始まって猪駆除、ゴブリンやコボルトとは戦ったけどこれも冒険者の仕事って感じがする。

 でも、前にシルフィさんが言ってたかも。

 冒険者っていうのは全部が自己責任だけど一攫千金が狙える仕事で。

 傭兵は全部が会社が背負ってくれるけど、固定給。


 とはいえ、現状に不満があるわけじゃない。

 楽しい仲間に囲まれた、充実した毎日。まあ今日は休みだから、みんなだらけてるけど。

 それだって充実してるからこそ、こういう日に全力で休めるわけで。


「……そういうなら、人を相手にする内容を持ってきてやろうじゃない」

「え、ちょっと、シルフィちゃん?」

「任せなさい、あたしの手にかかれば明日には持ってきてあげるわよ」

「ちょっと待って、そういう意味じゃなくて。良い意味でよ? 良い意味で傭兵団っぽくないって言っただけで――」

「待ってなさいライラ! 行くわよユノ!」

「らじゃ」


 ……何かがシルフィさんの琴線に触れたのかな?

 がばり、と起き上がったと思ったらすぐに出て行った。


「……ひょっとしてアタシ、とんでもないこと言っちゃった?」

「まず間違いないだろうね。でも安心してくれたまえ、剣や斧なら大量に作ってあるよ」


 とても安心できなかった。


 ……そして、翌日。

 内容を聞かされることもなく馬車に乗り込み、辿り着いたのは隣の村。

 普段は通り過ぎるだけの村だけれど……今日はいつもと違う雰囲気。

 具体的には、すごく賑やかだった。


「さて、ここであんたたちには……戦ってきてもらうわ」

「シルフィちゃん……マジで?」

「マジよ」


 そういう話になると思ってはいなかったみたいで、ライラさんは脂汗を流しながら相当慌てていた。

 とはいっても、ここって戦うような雰囲気ではないような……?


「上、見て」

「上?」


 ユノさんが言うまま上を見ると、そこにあるのは横断幕。

 柱には沢山の装飾がされていて、横断幕に書かれているのをリースさんが読み上げた。


「『最強の男を決めろ! 筋肉自慢の筋肉祭!』……?」

「男って書いてあるけど、女の人もでれるのは確認済みよ。どうライラ、お望みの対人戦よ」

「え、う、うん……うーん……? 思ってたのと違うけど……むしろ違ったから助かったっていうか」

「あんたたちを本当の戦いにまだ参加させるわけないじゃない」


 村を入ってすぐ辺りに、看板が置かれてあった。

 内容を確認するために近付いてみる。周囲にはムキムキの男の人だらけだった。

 ちょっと暑苦しい。

 私が移動すると全員も移動。男の人だらけの中で、私たちは少し……ううん、かなり浮いている。


 看板には演目が書かれてある。


 1.最速選手権。村一周して最速の男を決めろ!

 2.筋肉育成計画。男なら喰って喰って喰いまくって美しい肉体を作り出せ! 大食い対決!

 3.筋肉を使う時。作り出した肉体は魅せるだけじゃない、使うものだ! 腕相撲!

 4.筋肉計算。男は筋肉を作るだけのバカじゃない! 計算の早さで女を魅了! 計算問題!

 5.筋肉領域。男には武器を持って戦わなければならねばならぬ時がある! 丸太をぶった切れ!


 …………。


「これ全部やるんですか?」

「男の人はね、私たちは特別に一人一種目だけよ」

「…………シルフィさん、もしかして優勝する気満々ですか?」

「当たり前でしょ、どうせやるなら勝たなくちゃ」


 得意分野が浮き彫りに出るほど綺麗にわかれてる。

 シルフィさんが八百長をたくらんでると思えるくらいに。


「じゃあリース計算やりたい!」

「なんでよ、あんたの得意分野は絶対こっちでしょ」

「んじゃアタシはー……最速かな?」

「ライラわたしより足遅いのに」


「じゃ、じゃあ私は……」

「ヴィーナは最後でしょ、どう考えても」


 全員頷く。どうして。

 私が出るやつだけ満場一致で決まっているみたいだった。


 全員の得意分野から考えても、順番は……。


 一番、ユノさん。傭兵団の中で一番走るのが速いからね。

 二番、リースさん。趣味は食べること、って豪語するリースさんにはもってこいだ。

 三番、ライラさん。でもこれだけは……勝てるかわからないかも。

 四番、シルフィさん。商会長のアドバンテージを活かせる種目はこれしかない。

 そして最後は私。というかこれ以外私が活躍できるものが無い気がした。


「今日は受付、本番は明日よ」

「シルフィさん、さっき私たちだけ一人一種目って言ってましたけど……他の人から不満は出ないんですか?」

「出たわよ?」


 出たんだ!?

 そんなあっさりと!?


「でも言ってやったわ『女に勝てなくて何のための筋肉なの』って。そしたら筋肉と泣いてたわ」


 筋肉と泣いてたってなんだろう?

 ま、まあでも……説得できたのなら……いいのかな?


 ……それにしても。


「妙に視線が……集まってきますね」


 筋肉祭、という名前だけあって、村にいるのは男の人ばかり。

 周囲に女の人は…………いない。


「筋肉の押し売りが酷い」

「ユノさんどういう意味ですか?」

「筋肉の波に押し流される前に宿屋に行こっかー」

「ライラさんどういう意味なんですか?」

「あはは! 筋肉!」

「リースさんは絶対わかってませんよね!?」


 …………まあ、皆が浮かれているというのはわかった。

 変わった内容とはいえ、祭りは祭り。

 お祭りに心躍らない人なんていないのだから。


「じゃあ皆さん……宿屋に帰って、英気を養いましょう!」

「そうね、そうしましょう」


 見せつけてくる筋肉を無視するように、宿屋へと向かう。

 宿屋の中も筋肉一色で目が疲れるほどだけど、無視さえしてしまえば居心地の良い宿屋だった。

 そして……翌日。


「始まるわよ……筋肉祭!」

「筋肉ー!」


「皆さん……思ってたよりノリノリなんですね」

「ヴィーナも、筋肉」


「え、えぇー……? きんにくー……」


 筋肉祭が、始まる。

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