46話 村に残るかもなんてアリですか!?
「よかったんですか?」
ゴトゴトと揺れる馬車の中、向かいに座るリースさんに声をかける。
「うん、いいの!」
何の迷いもなく答える。たぶん、嘘偽りない本心なんだと思う。思うけれど……。
泥棒の人たちを捕まえて数日後。私たちはようやくストレニア村を旅立った。
……そんな時の、ことだった。
泥棒の人たち……ううん、厳密には泥棒を止めようとしてた人……ややこしいなあ。
とにかく、あの人たちは村長の意向で村に住むことになった。
もちろん村の人には説明をした。中には難色を示す人もいたけれど、村を守るための力が必要という説明をすると、渋々ながら了承。
それから村の周囲を見張るための見張り台を作るのに、私たちカルディラ傭兵団も手を貸すことになった。
シルフィさんは『そんなことする必要ある?』ってボヤいていたけれど、リースさんの村のために何かをしたい、という言葉を聞かされると首を縦に振るしかなかったわけで。
「リースちゃん! 次こっちに縄ちょうだい!」
「まかせてー!」
村の人たちによるヒヤヒヤとした視線とは裏腹に、リースさんは特に失敗もせず、順調に手伝ってくれていた。
前回の失敗は、人の目を気にしすぎていたせいもあると思う。
それは彼女の過去の傷だし、しょうがないと思う。けれど吹っ切れたのか、周囲の目を気にしなければこの通り、失敗なんて……。
「わきゃー!?」
失敗なんて……。
「ライラちゃん、助けてーっ! 絡まっちゃったーっ!」
「まったく、しょうがないなー…………あれ、どうなってんのこれ、こっちを引っ張ると……?」
「いたたたっ! なんか締め付けられるよ!?」
「あ、ごめん。じゃあこっち?」
「あ、やーっ! 服めくれるー!!」
…………ま、まあ失敗したとしても、自分の中だけに収まってるし?
前までは周りのものを巻き込んだりとか、そんなんだったし……?
村の人たちが見る視線も、厄介者が手伝っているという迷惑そうな視線から、失敗を笑えるくらいにまでは回復したみたいだし。
……考えないようにしてたけど、考えてしまう。
村の人達が受け入れてくれたのなら、リースさんはこの村に残るんじゃないかな、なんて。
無理に命を危険に晒して戦う必要なんてない、生まれ故郷があって、残れるのなら残ったほうがいいんじゃないかな、って。
「また考えてるの?」
「シルフィさん……」
「ヴィーナは、無駄に心配性な悪癖がある」
「ユノさんも…………って、悪癖?」
というか、私思ったこと口に出してた?
それともバレバレなんだろうか。
二人の様子を見るに、たぶんバレバレの方みたい。
「それはリースが考えることだから、ヴィーナが考えるだけ無駄」
「ユノの言う通りよ、働くっていうのは自由意志が大事なの、縛り付けて働かせても楽しくないわ」
「わかりますけど…………って待ってください、無理やりサインさせたシルフィさんに言われたくないんですけど!?」
「ユノ、あっち手伝いに行きましょ」
「がってん」
あ、逃げた!
……まったく…………でも、確かに言いたいことはわかる。
私が心配してもしょうがないし、リースさんが残りたいなら残るべきだと思う。
一緒に働きたいって思ったのは、ただの私のワガママだ。
「仕事しよ……」
足元に広がる藁を二束手に取り、よりよりとねじっていく。
「あの、すいません……」
「はい?」
話しかけられた気がして顔をあげる。そこに立っていたのは知らないお姉さんだった。
見覚えがない人だ、人違いだったのかな?
だけど私を見ながらニコニコと笑顔を見せるその姿は、人違いというわけでは無さそうで。
「あの、私リースの母です」
「母……? お母さんですか!?」
思っていたよりも若くてビックリ。
姉くらいで通りそうなくらい可愛らしくて……って、それはいいや。
「はじめまして、私リースさんと一緒に働いているヴィーナ・メールです」
「ええ、存じ上げております。この前急にリースが帰ってきたんですが、その時も貴女の話ばかりで」
「あはは……」
どんな話をしたんだろう……なんか、恥ずかしいな。
だけどニコニコと笑顔を見せてくれているからには、悪い話じゃないと……思うんだけど、たぶん。
「ありがとうございました」
「えっ?」
「今のリースがあるのは、皆さんのおかげだと思っております。私たちでは、あの子を救えませんでしたから」
「…………あの、言葉が悪いと思うんですが……リースさんが追い出される時、どうして止めなかったんですか?」
「止められなかった……いえ、言い訳ですね。村全体の目が怖くて、私たちは娘を守ることをしなかっただけなんですから」
そう言って笑う笑顔は、自分を責めているように見える。
事実責めているんだろう、思っていたよりも悪いお母さんとは思えなかった。
「お母さんは、傭兵団で働いていることを……」
「はい、知っています。会長さんから時々お手紙をいただいていたので」
「そんなことを……」
知らなかった。ううん、でもそうかも。
シルフィさんは表情にも出さないし口では絶対言わないけれど、裏では皆のことが大好きなんだ。
「村にいた頃よりも失敗しなくなって……まあ、今はまだ絡まってますけれど」
「たーすーけーてー!」
「ああもう、動かないでよー!」
「でも笑顔なんです。前は失敗する度に周囲の視線に怯えていましたので」
「……そうだったんですか」
私が初めて見たリースさんの失敗は、厩舎の掃除のときだった。
水をひっくり返したり、汚れた藁と綺麗な藁を混ぜてしまったり。
だけどすぐに笑顔を見せていた。あれはひょっとして……私に気を使っていた、とか?
私が村の人みたいな目を向けないように、必死に明るく振る舞っていた……?
「…………ですので、私はリースに……村に戻ってきて欲しいんです」
「…………」
ああ、やっぱり。
話しかけてきた時から、こういう話題になるとは思っていた。
……だけど、私には止める権利はない。
シルフィさんが言う通り、働くことは自由意志が尊重されるべきなんだから。
「もしもリースさんが望むなら、私は、私には……何も」
「そう、ですか……ありがとうございますっ」
沈んでいく私に反して、お母さんの顔は明るくなる。
そうだよね、家族は一緒にいた方がいい。
「すいません、いきなり不躾にこんなことを」
「いえ、当然ですから」
私とお母さんはリースさんを眺める。
ライラさんによってようやく救出されたリースさんは、縄をまとめて見張り台に運んでいった。
……一緒に働けるのも、見張り台が完成するまでかぁ。
寂しいけど……しょうがないよね。
着々と完成していく見張り台を眺めながら、現実逃避をするように藁をねじって縄を作り続けた。
だけど、数日後。
見張り台は完成した。
「さて……じゃあ皆、帰りましょうか」
シルフィさんとライラさんとユノさんが馬車に乗り込んでいくのを見送りながら、私はリースさんとお母さんを見る。
「リース、帰ってこない? お母さんとお父さんと一緒に、また暮らそう?」
「っ……」
いざ目の前で話しているのを見ると、つらい。
けど、リーダーとして見送る必要がある、たぶん。
だけど――
「ヤダ!」
「えっ!?」
「ええ!? なんでヴィーナちゃんまで!?」
お母さんと私の声は同時だった。
「リースね、今の仕事がとっても楽しいの! 皆仲良くて、楽しくて、楽しいんだ!」
ほとんど楽しいしか言ってない。
けど、リースさんの笑顔を見ていると何も言えないみたいで。
「……そう、わかった。頑張っておいで」
「うんっ! じゃあねママ、パパも!」
ドカドカと足音荒く馬車に乗っていくリースさん。
最後に残された私を見て、お母さんは深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「はい……任せてください」
私も最後に乗り込み、馬車は村を出ていく。
……そこで冒頭に戻るわけで。
「リースね、嬉しいの」
村を離れ、ほろほろと涙するリースさん。
「皆に認めてもらえて、帰っておいでって言われて、嬉しいの」
「なら……」
「でも、皆と離れたくないの、ライラちゃんもユノちゃんとも、ボスとも」
目をゴシゴシと腕で擦って。
「ヴィーナちゃんとも」
「リースさん……」
それ以上涙は出てこなかった。次に見せたのは花が咲いたような満面の笑顔。
「だから――これからもよろしくね!」
そんな笑顔を見ていると、私も思わずつられて……。
「はい、よろしくお願いします」
笑顔を、見せてしまうんだ。
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