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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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45/51

45話 匿うってアリですか!?


 場所は林の中から代わって、ストレニア村の中。

 戦いには参加しなかった男の人四人を縛り、村長へ引き渡した。

 男の人たちは特に抵抗しなかった、仲間が倒された失意からか、ずっと項垂れていて大人しかった。

 ……ちなみに、私たちが手にかけた人たちは、ここにいる男の人たちが丁重に埋葬していた。


「まずはカルディラ傭兵団の皆様、犯人を捕まえていただきありがとうございます」

「無事に解決して何よりだわ」


 まるで社交辞令のような礼を述べた村長は、犯人たちに厳しい目を向ける。

 農村であるストレニア村は、売り物を盗まれたわけだし、その視線もしょうがない。


「それじゃ、私たちは失礼するわね」

「ええ、ありがとうございました」


 シルフィさんを窓口にするように会話を終えて、私たちは村長の家を出ようとする。

 ……のだけれど、一人だけ動こうとしなかった。


「ねえ村長? その人たちどうするの?」

「リース……?」


 村長が困ったように声を漏らした。


「その人たち、困ってたみたいだし、それに泥棒してた人を止めようとしてたよ?」

「リースやめなさい、依頼は完了したの。犯人をどうしようと、あたしたちが知る権利はないの」

「なんで?」

「なんでって……傭兵っていうのはそういうもんでしょ?」


 まっすぐな疑問に、シルフィさんはたじろいだ。

 だけど私も……ううん、きっとライラさんもユノさんも知ろうとはしていなかった。

 そういうものだと、思っていたから。だけどリースさんはそうじゃなくて。


「リースは気になるよ? どうして泥棒してたの、どうしてあんなところに住んでたの、どうしてケンカしてたのって」

「い、いや……わかるけどさあ……」


 珍しい、シルフィさんがリースさんに負けてる!

 本当ならリースさんを連れ出して帰ろうとしないといけないんだけど。

 この展開がどうなるのか気になってしまっていた。

 ライラさんなんて腕組みしながらニヤついて二人の様子を眺めているくらい。


「でもね、傭兵には踏み込んじゃいけない領域ってもんがあるのよ……わかるでしょ?」

「わかんない!」

「……ぅぁー」


「リースちゃん強くない?」

「シルフィは論理的に相手を諭すのが得意だけど、リースみたいにまっすぐ向けてくる感情型は苦手だから」

「なるほど……勉強になります」


「そこ! 呑気に会話してんじゃないわよ!」

「ボス、お願い!」

「いや、だから……」


 私たちの騒がしいやり取り。

 それを聞いて、村長は唐突に高笑いをはじめ、私たちの会話は笑い声で遮られた。


「リースが元気なままで何より。会長さん、私らは別に構いませんよ」

「……………………悪いわね、ありがとう」


 色々言いたいことはあるけれど、全部飲み込んだみたい。

 ゴクン、という音が聞こえてきそうなくらいだった。


「それで、あんたたちは一体……何者なんだ?」

「……俺たち……いや、私たちは…………南から来ました」


 南? ここはヒザーク王国の一番南にある村だから、その南となると……国外?

 確か南側にある国って、長年内紛続きだったような……。

 強権で独裁的な王国に対して、革命として旗を上げた反乱軍。

 もう五年くらい続いているらしいけど。


「最近は王国軍も革命軍も、どちらも市民に犠牲が出ることを考えない戦闘の繰り返しで……もう、安全な場所など無かったのです」

「それで、ヒザーク王国領土に勝手に住み着いて……職も金も無いために、盗みを働いた、と?」

「はい……こんな事を言ってもしょうがないのはわかっていますが……私どもは止めようとしたのです」


 項垂れるように頷く。

 隣の国で起こっていたことだけど、遠く離れた場所での争いだから、どこか現実味がない話をして聞いていたけれど。

 こうして被害を受けた人を目の前にすると、とたんに現実味を帯びてくる。

 ……あれ? でも……。


「シルフィさん、国の移住って……ダメなんでしたっけ?」

「ダメじゃないわよ、両国の同意さえあればね」


 ヒザーク王国は同意する環境が整っている。けれど……内紛の真っ最中である王国が許可を出せるわけもなく。


「それに今難民を受け付けたら、国内はパンクするでしょうね。だから対岸の火事として静観することしかできないの」

「な、なる……ほど?」


 王国の難しいところはよくわからないけれど、今は移住出来ないということだけはわかった。

 なら、この人たちがやったことは不法移住ってことに……?


「確か形式通りであれば、王国に引き渡し、本国に強制送還……でしたかな?」

「そうね。さすが国境近くの村の村長、詳しいわね」

「はは、なに。平和な村なので知識をつけるくらいしか娯楽はありませんでな」


「それじゃ、あたしたちは町に戻るから……その時に王国に報告を上げておけばいいかしら?」

「そうですな、少しばかりご足労を駆けますが、お願いできますかな」

「ええ、了解よ。それじゃみんな……」

「ダメ!」


 帰りましょ。そう続くはずだった言葉は遮られた。

 誰に? リースさんに。珍しく怒った顔を向けるリースさん、誰もが目を丸くして見ていた。

 もちろん犯人の人たちもだ。


「戻したら危ない目に合うんでしょ? なら戻しちゃダメだよ!」

「でもねリース、これは私たちの手には収まりきらない問題なのよ」

「なんで? じゃあボスはこの人たちが危ない目にあってもいいっていうの!?」


 チラリと犯人の人を見るシルフィさん。

 その目はとても冷たい。

 あ、この目は『あたし関係ないし』って感じの目だ!


「……いいとは言わないけど」


 必死に言葉を言い繕った!


「でしょ? なら助けないと!」

「助けるって言ったって……どうしろっていうのよ?」

「わかんないけど!」

「大事なところ人にぶん投げんじゃないわよ!?」


 ……正直、考えはある。

 けど人道的には正しかったとしても、これは不法入国に手を貸す行為。

 間違っていると聞かれれば、間違っている。

 だけど……どうして、リースさんがここまで必死になっているんだろう。


「どうしてそこまで助けたいんですか?」

「ヴィーナちゃん?」

「リースさんにとっては知らない人ですよね、なのにどうして?」

「だって、リースもここを追い出されたから!!」


 環境も、行ってきた行為もぜんぜん違う。

 だけど追い出される、という点だけでリースさんは一緒に見ていたみたいだ。


「リースが追い出されたのはリースが悪いけど、でもこの人たちは悪いことしてた人を止めようとしてたんだよ? でもひどい目にあうの?」

「……リース」


 村長は苦い顔をしながらリースさんを見る。


「すまなかった……村人全員から疎まれていたのを知っていて、助けてやれなくて」

「しょうがないよ! リースがドジで失敗ばっかりしてたから!」


 しょうがなくない。今のリースさんは多少ドジはするけれど、愛嬌のほうがたっぷりあるし、それに危ない失敗は格段に減ってきた。

 村のみんなが、リースさんに対して根気が無かったんだ。

 私が傭兵団に馴染めるかわからなかったとき、リースさんが明るく接してくれて助けてくれた。

 ……だから、次は私がリースさんに助け舟を出そう。


「シルフィさん、私たちの依頼ってなんでしたっけ?」

「……野菜泥棒を捕まえること、だけど」

「そうでしたそうでした。で、えーと……捕まえようとしたら抵抗されてそのまま……になったんですよね」

「ヴィーナ、あんた……」


 野菜を盗んだのはこの人たちじゃない。

 盗まれた野菜にも手を付けず、野草を食べていたと言っていたし。

 私たち傭兵に、この人たちの処遇は依頼に含まれていない。


「…………この村も平和ボケしてたしね、ここはひとつ用心棒がいた方がいいんじゃないかなー? じゃないと次は野菜泥棒だけじゃないかもしれないしねー?」

「ライラ、あんたまで!」


 私の言葉に助け舟を出してくれたのはライラさん。

 驚いて私が見ると、小さくウィンクをしてくれた。

 ありがとうございます……!


「わたしは別にどっちでもいい」


 やっぱり、ユノさんは助け舟を出してくれない。

 わかってた、彼女はいつでもシルフィさんの味方だから。


「でも」


 だけど。


「契約以外の行為をするのは、傭兵としてダメだと思う」

「ユノさん……!」


 だからといって、私たちの味方をしてくれないわけじゃなかった。

 思わぬ助け舟に視線を送ると、冷たい目をしながらそっぽを向かれてしまう。


「……ああ、もう。わかった、わかったわよ。村長、あたしたちは依頼にあった野菜泥棒は捕まえようとしたけれど、抵抗にあったから斬り伏せた。この男たちのことは関知しないわ」

「シルフィさん……」

「だけど……そうね、確かに腕が立つ見張りがいた方がこの村にとって安全かもしれないわよ。ねえそこのあんた、厳しい国で生き残ってこれたんだから、多少腕に覚えはあるんでしょ?」

「は、はい……多少ですが……」

「とはいえ、最終的な判断は村長に決めてもらう、それは変わらない。リース、それは理解しなさい」

「……うん、わかった!」


 私たち傭兵団、そして男の人たちは村長を見つめる。

 じっと目を閉じて、黙りこくる村長が大きなため息を吐いた。

 それが、村長の答えだった――

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