43話 ピクニック気分なんてアリですか!?
ストレニア村を訪れた翌日のこと。
またも畑に被害が出たという声を聞いて、私たちは現場にやってきた。
そこで実っていたのはトウモロコシ。持てる分だけ奪っていったみたいで、まだ残っている部分は多くある。
奪っていったところは、茎ごと力付くでへし折ったような、無残な光景だった。
「ヴィーナちゃん!」
「リースさん!?」
畑を見て呆然としている私たちに、声をかけて駆け寄ってきたのはリースさん。
昨日姿を消して、何処を探しても見つからなかったのに……!
「いったい何処へ行ってたんですか!?」
「えっと…………家、だけど……?」
「へ?」
家? 家って…………家のこと?
…………あー、ストレニア村生まれだし……家、あるよね?
なんだ……家、家かあ。
皆を見てみると、私と同じ考えだったのか全員を目をそらして気まずそうにしていた。
そういえば、家の場所って知らなかったよね。なんだ、家かあ……。
「って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。リースさん!」
「うん!」
そんなこんなで畑に足を踏み入れる私たちカルディラ傭兵団。
リースさんを先頭に、踏み荒らさないように気をつけて入って行く。
村の皆が心配そうにリースさんを見る。
「……っ」
視線に気付いているんだろう。リースさんの表情はどんどんと硬くなっていく。
「リースさん」
「ヴィーナちゃん……?」
「大丈夫です、大丈夫」
短くそれだけ。いっぱい言っても今は意味がない。短く一言だけ。
それだけで伝わると思うから。
「そうよリース。しっかりしなさい」
「もうドジな食いしん坊だけじゃないってところ、見せていかないとねー」
「失敗したら、またお尻に矢を刺してあげる」
「あはは……みんな、ありがとう…………うん、頑張る!」
リースさんの顔つきが変わった。これならもう大丈夫。
荒らされた畑に近付いていくと、無数の痕跡があった。私でもわかるほど。
一日も経っていない新しい足跡。たしかにこれは人の足跡に見える。
畑の外まで足跡は続き、そこから先は林の中へと向かっている。
リースさんはしゃがみこんで、ひとつの足跡を注意深く眺めていた。
かと思えば。
「ヴィーナちゃん、体重っていくつ?」
「………………えっ?」
「体重教えてほしいな」
なんで。
いや、変なことで聞いてるんじゃないと思うけど。でもなんで。
リースさんの表情は真剣そのもの。ということは……本当に?
うー……。
恐る恐る傍まで行って、耳打ち。
「ごにょごにょ……」
「うん、うんうん…………えっと、よん――」
「わあああああ!!」
慌ててリースさんの口を塞ぐ。
パァン! って小気味良い音がした。
「何のために耳打ちしたかわかってますか!?」
「……だ、だよね。うん、ごめんね! じゃあじゃあヴィーナちゃん、ここを踏んでくれる?」
指を差した先は、くっきりとした足跡のとなり。
言われるまま踏みしめる。足を上げると、そこには私の靴の形そのままのくぼみが出来た。
くぼみをしげしげと眺め、リースさんは大柄の男の人の元へと走って行く。
男の人も私の隣に足跡をつけて帰って行った。
その跡は私のモノとは違い、深くくっきりとしたくぼみが出来ていた。
「他のモノに比べると、ヴィーナちゃんの足跡だけ浅いからー……やっぱり大人の男の人がほとんどなのかな?」
「確かに、私のは小さいし浅いですね」
「足跡の数と種類からいって、人数はそこまで多くないよね。四人か……五人くらい?」
「そこまでわかるんですか?」
私が見ても、無残に踏み荒らされた畑にしか見えない。
茎がへし折れたトウモロコシ畑。足跡は無数にあるけれど、種類まではわからない。
「トウモロコシを……許すわけにはいかない」
「ユノはヴィーナの作ったコーンスープが好きだったわね」
「ヴィーナが作ったやつとか関係ない。コーンスープが好きなだけ……」
「ふ~ん」
こう言ってるけれど、私は知っている。
この前全員で外食に行った時、コーンスープを頼んでいたけれど。
なんか違う……って呟きながら首を傾げながら飲んでいたことを、私は知っている。
「なに」
「いえ別に、さあ皆さん! 足跡を追いかけましょう!」
ユノさんからの厳しい視線を受け流し、林の中へと誘導する。
といっても飛び出してきたので武器も何も持っていないので、いったん全員身支度を整えに宿に戻ることにした。
…………そして、改めて林の前。
「よし、じゃあ……リースさん」
「うん、足跡は中に続いてるし……見てこれ、トウモロコシのヒゲ」
ヤブの上に乗っていたのは、薄い黄色の糸のようなモノ。
言われてみれば確かにヒゲに見えるけど……それだけでヒゲってわかるようなモノなのかな?
「にしても……シルフィさんも来るんですか?」
「ダメ?」
「ダメと言われればダメなんですけど」
「じゃあ会長権限」
「ズルくないですか?」
正直なところ今回は偵察。
なんだけれど……戦闘が起きないという保証は無いし、危ないか危なくないかと言われればもちろん危ない。だから村に戻っていて欲しいんだけど。
「興味はあるのよ、たまにはいいじゃない」
「……ダメって言っても、ついてくるんですよね?」
「ええ、でも安心して。邪魔はしないつもりだし言うことも聞くから」
そこまで言うなら…………というか、止めても聞かなさそうだし。
出来るだけ戦闘にならないように気をつけて行こう。
私の考えは全員に伝わっているようで、シルフィさん以外は苦々しく頷いた。
地面を睨むように見つめながら前を歩くリースさん。
私たちは人影が無いか注意深く見渡し、後ろをついていく。いつ誰に出会うかわからない、緊張感はすでにマックス。
木が少ないおかげで空からの光は綺麗に差し込み、私たちの首筋を撫でる。
「こうしてると、ピクニックみたいよね」
シルフィさん緊張感は何処へ?
「あー、わかるわかる。日差しが気持ちよくて眠くなりそうだよねー」
「ライラはいつも眠そうにしてる」
皆さん緊張感は何処へ!?
相手は野菜泥棒。とはいえ正体はまだ不明。
ひょっとしたら人間を装った魔物かもしれないし、もしかしたら魔族かも。
…………いや、魔族が野菜泥棒で終わるのは、それはそれでありえなさそうだけど。
でもわかっていない以上、気を抜くのは危ないんじゃないかな。
これは私が皆の分まで気を張っていないと……。
「ね、ヴィーナもそう思わない?」
「わあっ!」
私の腕に抱きついてきたシルフィさん。
日差しの暖かさと、腕から伝わる温かさ。これは確かに……気持ち良いけど。
「…………」
首筋を撫でるのは陽気じゃなくて殺気。振り返らなくてもわかる、ユノさんだ。
程よい気持ちよさと緊張感でととのってしまいそう。
「ほら皆さん……リースさんがあんなに真剣なんですから、ちゃんとしましょう。ね?」
「ホントだ……リースちゃんのこんな真剣な姿、初めて見たかも」
「自分の村のことだからかしらね」
言いながら離れてくれる。よかったよかった。
ふと見れば、リースさんの背中はプルプルと震えていて……いったい何故?
「ボス、ヴィーナちゃん……!」
「どしたのリース」
「これが終わったら……リース、ピクニックしたい!!」
我慢していただけだった。
「そうねー……終わったら、何処かの草原でゆっくりしてから帰るのもいいかもね?」
「ホント!? 約束だよ!?」
「はい、約束です」
「うん!!」
上から降り注ぐ太陽よりも、眩しい笑顔。
今回の目的地まで、もう少し――




