42話 野菜泥棒なんてアリですか!?
リースさんの生まれ故郷であるストレニア村にやってきた私たちカルディラ傭兵団。
依頼内容は農作物を荒らす何かを捕まえて欲しい、という内容だった。
綺麗な畑が村を囲む美しい場所……だけれど、この村に住む人のリースさんを見る目は、好意的なモノじゃ無かった。
そのことに若干のモヤモヤを感じつつも、私たちは依頼を達成するべく調査を開始するべく、村長の家まで向かうことに。
「おお……ようこそいらっしゃいました」
「カルディラ商会の会長、シルフィよ。こっちは傭兵団のリーダーのヴィーナ」
「よろしくお願いします」
「さっそくあらましを教えてもらえるかしら?」
素朴な民家に案内され、テーブルを挟んで向き合う。
椅子の数が足らなくて座ってるのは私とシルフィさんだけ。向かいにいる村長が私の後ろに目を向け、少し驚いた様子を見せた。
「リースか……?」
「あ、あはは……村長、久しぶりだね……」
「……元気にしているみたいで、なによりだ」
「…………うん」
二人ともなんとも言えない表情。
どう声をかけようか悩んでいたら、気を取り直したのは村長の方。
「リースがここにいて、貴女がたと共に来たということは……この村で起こったことを、もう知ってるのでしょうな」
「……はい」
多くは語りたくない。だから短く返事だけした。
「……言い訳になってしまいますが、どうしようもなかったのです。そうしないと――」
「村長」
長いあごヒゲを撫でながら語ろうとした村長を遮ったのはシルフィさん。
ちょっと怒った表情をしながら、指先で机をトントンと叩く。
「あたしたちは仕事に来たの。そしてリースはあたしたちの仲間、この村で何かあったかなんて関係ない。あの子はもう、うちの子」
「ボス……」
「……そうですな、はい。なら……」
そうして説明されたことは、依頼書とそう変わりのない内容だった。
とある日から、畑が荒らされるようになった。深夜に農作物を盗まれ、人への被害はまだ出てない。
荒らす畑の場所はランダムで、盗む作物もその日によって違う。
そして荒らされた畑の周りには、足跡のような痕跡がある……。
「さて、どうするヴィーナ。リーダーはあんたなんだから、あんたが仕切りなさい」
「あ、えっと……はい」
どうしようかな……。
畑荒らしをする何者かを調査。一番手っ取り早いのは、来たところを捕まえるっていうことなんだけど……。いつ来るかはわからない以上、ただ待つだけっていうのも……。
うん、まずは……。
「まずはこの村の地形を調べましょう。リースさん、お願いできますか?」
村長との話で少しだけ塞いでいたリースさんだけれど、こうして誰かから頼まれると。
「……うん! 任せてっ!」
こうして笑顔になってくれる。切り替えの良さはさすがリースさん。
村のまわりをグルってまわる。ヒザーク王国でも南の方に位置するここストレニア村は、他の村に比べて魔物の被害も少ない。というよりほぼ無いと言っていいくらいみたい。
だからというか、村には防柵が無い。野生動物を妨げる程度の柵はあるけれど、人には簡単に越えられてしまう。
つまり、侵入経路は。
「この村の全方位ってこと?」
「そうなりますね……」
ユノさんが言った言葉に頷いて同意する。
平和でのどかな村。それ自体はとってもいいこと……なんだけど。
いざこういったトラブルが起きたときには裏目に出てしまう。
「この前リースちゃんがやったみたいに、足跡を辿るっていうのは?」
あ、イノシシのときにしてたやつ!
確かに、それなら居場所まで辿れるかもしれない。
「うーん……無理、かも?」
「あれ、そうなんですか?」
「うん……イノシシの足跡って、新しかったの。だからくっきりしてて辿りやすかったけど……前に被害があったのって……三日前?」
「えっと……」
紙に書かれている日付から考えて……。
「六日前……かな?」
「じゃあ痕跡はほぼ消えてるし……うん、たぶん無理だと思う」
「そうですか……」
「ごめんね……役に立てなくて」
役に立てなかったことを気にしてるのか、しょんぼりとするリースさん。
良い思い出がないこの村にいるからか、絶対に役に立たないといけないって気負いすぎてるように見える。
「大丈夫ですよ、足跡は新しいのじゃないといけないって言うことを知れただけでも、収穫ですから」
「そう、かな?」
「そうだよ、アタシなんてやることないから宿屋で寝ていたいくらいだし」
「それはちょっと……」
ライラさんのサボり癖はおいておいて、となると今日できることは……正直あんまりない。
後手に回ってしまうことになるけれど、毎日見張りを立てて、やってきたところを捕まえるしか……。
「……あれ? シルフィさん、この村って見張りは立ててなかったんですか?」
「立ててたわよ、でも見張りの目を盗んで農作物を奪っていったみたい」
「盗みだけにね」
「ライラ、おやじくさい」
……ということは、見張りの目を盗むくらいの知能はあるということ。
野生動物だと、そんな知恵を持つ動物は限られてる。それに現場の足跡は人のもの。
なら見張りを増やすとか……でももしも盗みの現場を見つけたら、村の人がどうなるか……。
「あっ!」
「え……っ、リースさん、何処へ!?」
突然大声を上げたリースさんが、何処かに走り出す。
向かった先は村人たちの場所。みんな手に何かを抱えている。
……あれは、小麦粉袋?
「リースも手伝う!」
「え……リース!?」
突然のリースさんの登場に村人たちは目を丸くする。
「お婆ちゃん重いでしょ、リースが持ってあげる!」
「いや……いやいや、いいよ、大丈夫さ」
最近は食べ物を床に落としたり、お皿を割ったり、フォークが飛んできたり……なんてことは無くなってる。
何度も何度も重ねてやっているうちにリースさんのドジっ子も緩和されたっていうことなんだろうけど。
「ううん、リースに任せて!」
そういって半ば強引に奪い取るリースさん。
ひょいと軽々に持ち上げて、胸の前に抱き上げる。
……うん、やっぱり大丈夫そう。
わたしたちは安心して見ていたけれど、村の人たちは最近のリースさんを知らない。
昔のドジっ子のままのイメージなんだろう。とても不安そうに眺めている。
「………………っ」
その視線を見てしまったんだろう。
笑顔だったリースさんの表情が突然こわばる。
……大丈夫、だよね? 私たちもなんだか心配になってきた。
「……ヴィーナちゃん…………」
目があった。リースさんの表情が余計固くなった気がする。
……しまった! 私たちだけでも信じてあげるべきだったのに、その私たちまで心配そうな表情をしたら……っ!!
何かを言おうと思ったけど、もう遅い。
リースさんは足を上げると同時に……後ろへと倒れ込んだ。
口を結んでいた小麦粉袋も一緒に横倒しになり、リースさんの顔に降り注ぐ。
「ぷわっ…………ぺっ、ぺっ……!」
なんとか起き上がったリースさん。
だけど……村人たちの視線は、とっても良くないもの。
やっぱりね、という落胆。期待はしていなかった、っていう呆れ。
「あ、う……」
ジリジリと後ろに下がり、そして……。
「っ!!」
走り去って行った。
村人たちは溜め息を吐いて、使えそうな小麦粉だけを回収して改めて袋の口をくくる。
「リースさん……」
「まったくあのバカは……あんなに固くなってたら失敗するに決まってるでしょ……」
「大丈夫、でしょうか……」
「……ま、お腹が空いたら戻ってくるでしょ」
そして、それから村を一回りしたけれどリースさんの姿はなく。
彼女抜きで新たな痕跡も見つけられることは無かった。
そのまま夜も更け、寝る時間帯になったけれどリースさんは帰ってこなくて……。
起きて待っていたけれど、いつの間にか眠ってしまい、翌朝。
「まただ……また畑がやられたぞ!」
村人のそんな声で、目が覚めたのだった。
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