41話 傭兵になった理由がコレってアリですか!?
ガタゴトガタゴト、馬車が走る。
依頼のために遠くの村に向かっている最中。
いつもなら和気あいあいとしながら村までの道中を楽しむのだけれど……。
「…………」
一人浮かない顔をしている人がいる。
「リースさん……大丈夫ですか?」
「ヴィーナちゃん……うん、だいじょーぶ」
って言っているけれど、大丈夫には見えない。
依頼場所をシルフィさんが言ってからずっとこうで、塞ぎ込んでいる。
それもそのはず。向かっている村がリースさんにとって、古傷でもあり……故郷でもあるのだから。
「さてと、もうすぐ着くだろうし最後にもう一回説明しておくわよ。今から向かう村の名前はストレニア。みんなも知ってるだろうけど、リースが生まれ育った村ね」
「うー……」
「ストレニア村では、ここ最近農作物の被害が大きいらしいわ。はじめは野生動物かと思ったけれど、現場には人の足跡らしき痕跡があったみたい。で、村の人には手が負えないってことで依頼があったワケ」
人の足跡のような痕跡を残す魔物は多数いる。この前相手にしたゴブリンやコボルトから、オークとか……あとは、ええと…………二足歩行のやつだと大体そう。
足跡の違いはあるけれど、それは靴を履けば隠すことは出来る。
だけど、大半が知能を持たずに本能のまま動く魔物だから、靴を履いて偽装をするといった考えは無いはず。
それにストレニア村はヒザーク領土で最も南にある農村で、北側にある魔族領とはかなり距離がある。
そんな場所にまで魔物がいるのは、あまりあることじゃない。
だからあるとすれば、魔物ではなく……本当の人。
「…………ぅー」
「ねえシルフィちゃん、今更だけどさ……リースちゃんは留守番してたほうが良かったんじゃない?」
「あたしもそう言ったんだけどね、でも本人が行くって言うから」
「……え? う、うんっ! リースは平気だよ!」
どう見ても空元気。
今から行く場所はリースさんの生まれ故郷でもあり、それにリースさんに“いらない子”というレッテルを貼った村でもある。
もちろん、村にいた頃は本当に能力不足だったのかもしれない。けど今はもう違う。
周りを見る目を養えたし、考えて動けるようにもなった。目立ったドジは格段に減った。
だけど、自信はまだ持てないみたい。今の不安そうな表情がそれを表している。
全員がリースさんを心配そうに見ていると、その空気がいたたまれないのか乾いた笑みを見せながらリースさんが呟いた。
「あ、あはは……リースね、村から追い出されてから、色んなところで働いたんだ」
雑貨屋、食堂、宿屋、厩舎からドブさらい。
様々な村を渡り歩きながら、一生懸命働き始めた。
「でも何処でもダメダメで、だからリース思ったんだ『リースは何処でもいらない子なのかも』って」
「まあでも最初のリースちゃんは、本当に酷かったしねー。今でも治ってはないんだけど」
「ライラ、空気読んで」
「あ、ごめん」
「ううん、本当だもん! でね、最後に流れ着いたのがヒザークの町で、お仕事探してたら声をかけられたんだ!」
お金も無くなって、住むところも働くところもなくて途方に暮れていたリースさん。
ふらふらと町をさまよっていたら、男の人に声をかけられた。
「寝てるだけでお金がもらえるって! なんならそこに住んでもいいって言われたの! もしかしたらリースにも出来る仕事なのかも、ってオッケーしようとしたらね」
「たまたまあたしが通りかかって止めたってわけ」
「シルフィさんがですか?」
「ええ、だってこの子何の仕事か絶対わかってなかったからね。騙されて食い物にされそうになってるのを見過ごすことは出来なかったの」
「今でもわかってないよ?」
まあ……うん、それは…………別に知らなくてもいいかな?
それが傭兵団に来た理由ってことかな、戦った経験も無さそうだし、戦いが得意そうっていうわけでもないのに、どうして傭兵団にいるのかと思ったけど……。
まさか、そんな危ないところをシルフィさんが助けていたなんて。
「一から十どころか、千くらいまで教えないといけないくらいのおバカだったけど、放っとくのも寝覚めが悪いからね」
「今でもよくわかんないけど、ボスのおかげでみんなに会えたし、それで良かったと思ってるよ! ボスありがと!」
「はいはい」
軽くあしらうシルフィさん。だけど口で手元を隠しながら、こっそりと笑っているのを私は見逃さなかった。
目が合うと恥ずかしそうにそっぽを向く。素直じゃないなあ。
……でも、そっか。シルフィさんがいなかったら、リースさんには出会えてないんだ。
リースさんだけじゃない、ライラさんもユノさんも、フェンさんもエレナさんも。もちろんシルフィさんだって。
私のために作った傭兵団だって言ってたけれど、全員シルフィさんが集めたメンバーで。
やっぱりシルフィさんが中心なんじゃないのかなって、そう思う。
…………って、あっ! そうだ、今なら!
「そういえば、ユノさんは――」
「あ、もうすぐ着くみたいね。みんな準備してー……って、ヴィーナどうかした?」
「……いえ、別に」
聞くタイミングって、いつも無い気がするなあ。
気持ちを切り替えないと、集中集中。
馬車を降りると、そこは圧巻の光景だった。
色とりどりの農作物。広々とした畑。
風に揺れる葉たちが、とても幻想的に見えた。
背の高い小麦が村の出入り口に高々と生っていて、まるで天然の防壁みたい。
向こう側には深い緑色。遠目からは何の野菜かはわからないけれど、見ていてとても楽しい。
民家の横には小さな畑もあった。少しだけ顔を覗かせるオレンジ色は……ニンジン?
傭兵団寮の向かいにある小麦畑とはまた違う光景。
……ダメダメ、気持ちを切り替えないと。ここには観光に来たんじゃないの。
仕事で来た……仕事で来た……うん、そう、ここには仕事で来た!
……よし!
「カルディラ傭兵団の者だけど、村長はいるかしら?」
入口近くにいた村人の人に声をかけるシルフィさん。
その堂々とした姿、リーダーはシルフィさんだと誰もが思うはず。
案内される道すがら、私たちを興味深く見つめる村人たち。
何度か色んな村に立ち寄って、こういう視線には慣れてきた。
……けど、今回の視線は…………私たちに向けてじゃない?
「……おい、あれリースじゃないか?」
「本当…………大丈夫なの?」
「またとんでもないことをしでかさないといいが……」
「念のため、村の皆に伝えておいたほうがいいんじゃない?」
「…………あはは……」
「…………」
ムカムカする。今のリースさんを知らないくせに。
ライラさんもユノさんも同じ気持ちのようで、不機嫌な表情が隠せていない。
一言いってやりたい。でも、そうすると傭兵団にも、カルディラ商会にも迷惑がかかるかも……。
「ねえ」
「は、はいっ?」
案内してくれている村人の背中に、不躾に声をかけるのはシルフィさんだ。
いきなり呼ばれると思っていなかったのか、びっくりして振り返った。
「あの雑音、消してくれないかしら」
「雑音、ですか?」
「そうよ。うちの仲間を侮辱するなら、このまま帰ったっていいんだけど?」
「わ……わかりました。お待ちを」
輪になった村人の中に飛び込んで、ひそひそと話をする。
やがて輪になった人たちは散り散りになっていった。
「ありがとう、ボス」
「嫌いなのよあーいうの」
そう言ってリースさんの頭をくしゃくしゃと撫で回す。
気にさせないように笑って見せているけれど、シルフィさんのこめかみがピクピクと痙攣しているのは……よく見えた。
「あんたたち、気持ちを切り替えなさい――仕事よ」
「……はいっ!」




