40話 ケンカするなんてアリですか!?
いつもの朝、いつもの風、いつもの空。
何も変わらない日常、だけど傭兵団の寮の中はそういうわけにもいかないみたいで……。
「ライラさん! また当番サボりましたね!?」
「リースちゃん! アタシの大切にしてたおやつ食べたでしょ!?」
「ユノちゃん! またリースの服勝手に着てる!?」
「ヴィーナ、わたしのマスクの予備何処へやったの?」
「なんだなんだ、揉めてるじゃないか……エレナくん、私たちもやってみるかい?」
「そうしましょう、フェン様裸で寝るのをやめていただけませんか、それに脱いだものをあちこちに捨てるのもやめてほしいです。あとは事あるごとに私の胸に触ろうとするのも。後はそうですね……」
「ちょ、ちょちょちょストップ! ガチのやつはやめてくれたまえよ!」
「ガチのやつですから」
変わらない朝のはずだったけれど、この日だけは違った。
全員が全員、他の人への不満を爆発させている。その中にはもちろん私も。
ずっと一緒にいると、仲良くもなるけれど不満だって増える。普段はそういうのを飲み込んでやり過ごすけれど、今日は全員が同じタイミングで我慢出来なかったみたい。
「フンッ!!」
四人がそれぞれそっぽを向く。誰一人として目を合わせようとはしなかった。
内容は誰も彼もが些細なことだけれど、膨らんだ風船が破裂するかのように、全員が張り詰めている。
「あれま、これは珍しい」
「そうですね……ここまで口論になるのは見たことがないですが」
「これは私たちが仲裁に入ったほうがいいのかな?」
「ですがもう誰もいません」
「あれま」
そんなフェンさんとエレナさんの呑気な会話も私たちは聞いてなくて、それぞれが思う場所に移動していった。
「ちょっ……ユノさん! 私に矢を撃つのやめてもらえませんか!? 剣の練習をしたいんですけど!!」
「わたしも狙ったところに撃てる練習してるだけ」
「私を狙わないで欲しいんですけどっ!!」
持ってる木剣で飛んでくる練習用のクロスボウの矢を弾く。練習用だから先は丸くなってるけど、それでも当たれば痛い。
というか、防御に使う分には剣は砕けないんだ。思いがけないところで私の力を知ることが出来た。
嬉しくないけどね!!
「こういう時何て言うんだっけ……『踊れ踊れー』だっけ?」
「言わなくていいですっ!!」
そして、また別のところでは……。
「あーっ!! リースの読んでた本読まないでよーっ!!」
「いいじゃん、おやつ食べたんだし」
「栞まで外してる! 何処まで読んだかわからなくなるでしょ!!」
なんてケンカもあったり。
今日の傭兵団は、ケンカ一色。
だけど夜にはなんとなく謝って、なんとなく仲直りして。
そんな風になると思ってた。だけど……。
「今日も仕事を持ってきたわよー」
一枚の紙を片手にやってくるのはシルフィさん。
「今日は果樹園の収穫の手伝いよ、ほら行くわよ、急いで急いで!」
私たちがケンカしてるのを知ってか知らずか、シルフィさんは私たちを馬車に押し込んでいく。
雇われている身で、健康な以上断れる理由はない。馬車の中には暗雲たちこめる空気のまま、目的地の果樹園まで向かうこととなった。
時刻は昼頃、目的地である果樹園に到着。
二人一組になって、リンゴの木から収穫するのが依頼内容。あいも変わらず傭兵っぽくない仕事、まあそれは良いんだけど……今日は日が悪い……かも。
「ヴィーナはユノと、ライラはリースと組みなさい。はい行った行ったっ!」
パンパンと手を叩いて私たちを急かす。よ、よりによってこの組み合わせ……?
四人ともチラリと視線を交わす。けれど視線が絡み合った途端。
「つーん」
四人とも目線を逸らした。
だけど仕事だし……うん、やるしかない。
身軽なユノさんが上になって収穫するだろうし……私は下でカゴを持って待機してよう。
それが間違いだと気付くには、少しだけ遅かったみたいだけど。
ポコッ。
「あいたっ、ちょっとユノさん、カゴに入れてくださいよ」
「わかった」
ポコッ。
「あうっ、わかってないですよね?」
「間違えた」
いつまで経っても背負ったカゴにリンゴが入っていかない。
「ちょっとライラちゃんー! やーめーてーよー!!」
「ごめんねー、手元が狂っちゃった」
あっちでも一緒みたいだ。
だけどこのままじゃいけない、私情と仕事は分けて考えないと。
リンゴ農家の人にも迷惑がかかってしまう。
「ユノさん、ここはひとまず休戦といきませんか?」
「……休戦?」
「ええ、シルフィさんのためにも。仕事だけはキッチリとしましょう」
「…………わかった」
必殺技、シルフィさんの名前を使った! 効果は抜群だ!
「もうライラちゃん! こんなやり方じゃヴィーナちゃんに迷惑がかかっちゃうよ!?」
「……ヴィナちゃんに……そっか、リーダーだもんね」
「うん、ちゃんとやろ?」
「……そうだね、わかった」
あっちも同じ考えになったらしく、言い争う声が聞こえなくなった。
上に登った人がリンゴをもいで、カゴに放り込む。
カゴを背負った人は入れやすいように位置を調節する。
一応私たちは命を預けあった戦友。
揉めているときならいざ知らず、目的を同じとした今なら、言葉なんて無くても思っていることは伝わる。
ひょいひょいと登っていくユノさんに見えやすい位置に移動。背中に背負ったカゴはちょっとずつ重みが増していった。
ユノさんが違う木に移動している間に新しいカゴに持ち変える。
「…………よしよし」
格段に効率が良くなった光景を見て、満足そうに頷くシルフィさんだった。
……そして、夕方。
果樹園の収穫も大体終わり、今日の仕事は終了。
馬車に乗り込んで帰るだけ、なんだけれど……。
「…………………………」
会話がない。
それもそのはず、仕事のためにケンカを中断しただけであって、仲直りしたわけじゃなかったから。
「……はあ」
シルフィさんの溜め息が聞こえた。
……このまま明日になるなんて、良くないよね。
「……あの、ユノさん?」
「………………なに」
「マスクなんですけど、実は……」
どうしよう、言ってもいいのかな。
でもここまで言いかけて、言わないのも……。
…………えーいっ!
「じ……実は、ライラさんが興味本位でつけて遊んでました……っ!!」
「な、なんで知って……っ!? じゃ、じゃあ言うけど、当番ってアタシじゃなくてリースちゃんなんだけど!?」
「えっ! そうだっけ……? じゃあ、じゃあね、ライラちゃんのおやつ食べたのは、ユノちゃんだよ!?」
「バレてた……なら言うけど、リースの服はヴィーナが洗濯してた」
「だ……だって床に落ちてたから汚れてると思ってたんですもん!」
「………………」
「フンッ!!」
これじゃ……ただケンカする相手が変わっただけじゃないかな……。
「はあ……やれやれ」
再発したケンカムードの中、これみよがしに大きな溜め息を吐くシルフィさんだった……。
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