39話 引き続き猫探しです!
雑木林の中をまっすぐと進む。
木漏れ日でそこまで暗くはないけれど、少しだけ湿っぽい空気。
「…………」
「リースさん?」
突然膝を折って地面にしゃがみ込むリースさん。じっと地面を見つめていた。
私もならって地面を見てみるけれど……何も見えない。
「猫の声はどんどん近くなってるのに、猫の足跡は全然ないの。なのに何故か人の足跡だけはあって……」
「人の?」
よく目を凝らしてみる………………ダメだ、全然見えない!
ぎゅっと力を入れた目を解すように揉んで、もう一度地面を見てみる。でもやっぱり見えなかった。
でも確かに、猫の声は近くなった気がする。
にゃーにゃー、なんて人懐っこい声ではなく。遠くの誰かを呼ぶような……。
「とりあえず行ってみましょうか? 行けば何かわかるかも」
「うん、そうだね!」
ざくざくと草を踏みしめながら前に進む。
風の音、葉の音、揺れる光。
前を進むリースさんの背中、私が結んだポニーテールが左右に揺れていた。
「リースさんは……」
「うん?」
「目が良いんですね、私には足跡とか見えませんでした」
「だってほら、リースは農村の人だから!」
ストレニア村、だっけ。農業が豊かな村って言ってた。
野生動物の作物被害が多いから、動物の足取りを掴むのは日常茶飯事って聞いた気がする。
やる気が空回りすることが多いリースさんだけれど、今までやってきたことはきちんと積み重なってるんだなあ。
それに人懐っこい性格。今回の依頼はリースさんがいなければ、町の中をウロウロしてるだけで終わってそう。感謝感謝。
「な、なんでリースを拝んでるの……?」
「あ、いえ、つい」
「ヴィーナちゃん、あれ……」
立ち並ぶ木が少なくなってきて、木漏れ日が明るくなってきた。
そんな中、ぽつんと一軒の木造の家があった。
人の気配はない。だけど中から猫の鳴く声がする。
「なんでしょうね、この家」
「人間嫌いの人が猫と一緒に暮らしてる家、とか?」
「普通に考えたらそうなんでしょうけど」
家の横には木で出来たベンチがあるけれど、長年誰も座っていないらしく、薄汚れてる。
ベンチの下の地面は日が当たらないようで乾いておらず、ぬかるんでいた。
ベンチだけじゃない、家の周りには生活に必要な物があるけれど、どれもこれも使われた形跡がない。
これじゃ誰か住んでいる家じゃなくて……誰かが住んでいた家にしか見えない。
家の周りをぐるっと見てみたけれど、窓もない。中の様子は見えなかった。
「ヴィーナちゃん、袋の口開けてみて」
「わかりました」
言われた通りに、紙袋の口を開く。中には茹でて少し冷めた鶏肉が入っている。
家の中の猫の鳴き声が強くなった。
「入ってみる?」
「……大丈夫でしょうか? 後で怒られたり……」
単に家の周囲にある物を使ってないだけかもしれないし、中はひょっとしたら外観と真逆かも。
「もしそうなら一緒に怒られよ? 今は猫ちゃんたちが気になるよ」
「そう、ですね。わかりました、行きましょう!」
ドアの取っ手を掴む。ゆっくりと引くと、キィという高い音。
中は暗いけれど……日中だから、日の明かりでまだ中は見える。
散らかったテーブル、倒れたチェアー。
何処もかしこもホコリが被っていて、外観同様使われた形跡は無さそうだ。
……じゃあどうして、こんな家の中から猫の鳴き声が?
あまり大きくない家。入ってすぐのリビングを抜け、奥のドアを開くとそこが行き止まり。
「……開けますよ?」
「う、うん……」
キィという音を立てて開くと。そこは……。
「こ、これって……」
「なんで……!?」
猫の鳴き声が一層大きくなった。何匹もの声が重なって、大合唱。
それもそのはず、奥の部屋には沢山の猫がいた。
鉄のオリに閉じ込められ、私たちを見て威嚇する声や助けを求める声。
「早く助けてあげよう!」
「はい……だけど……!?」
鉄のオリには鍵がかかっている。もちろん私たちは鍵を持っていない。
剣を持ってるから斬ることは出来る。けどそれは一回きりの攻撃。
「外に一列に並べて、真っ二つにするっていうのは?」
「た、確かにそれならいけそうです!」
急いで一つずつ外に運ぶ。
たまにオリを持つとシャーっと威嚇される。ごめんね、すぐに出してあげるから。
外で縦一列に並べて、上に剣を振り上げる。けど……!
「だ……ダメですリースさん、動き回ってて斬れません!」
不規則な動き。斬って開こうとすると、全部の子が無傷で出すことは難しい。これはダメそうだ。
「あれ、この子……リースさん、この子って」
「……うん、依頼にあった猫ちゃんだ!」
真っ白な猫、尻尾の先は黒い。
そして人懐っこいみたいで、他の子みたいに威嚇はしてこない。
ということは、この子は迷子だったわけじゃない。
誰かに……連れ去られた? このオリは、連れ去った猫を閉じ込めるためのもの?
「……なんだお前ら?」
その時だった、私たちの背中に声がかかる。男の人の声。
振り返ると、いかにも悪そうな顔つきの男の人が二人、睨みつけて立っていた。
二人とも右手にはナイフ。悪そうな……じゃないね、悪い人確定。
「猫ちゃんをさらったのは……? どうしてそんなことするの!」
「…………はあ? 俺たちはただ猫が好きなだけだよ、逃げ出したら悲しいだろ? だから出かけてる間はオリに入れてんだ」
「じゃあどうして、他の家の人の猫がいるの?」
「そりゃ勘違いってもんだろ、猫なんて見た目は良く似てんだ、違いなんてわかるのか?」
それは……。自分の猫ならともかく……まあ猫飼ったことないんだけど……。
……あ、でも確か……依頼書に……!
「…………ナナー?」
「……あ?」
「ナナー、ナナー、ナナー」
突然私が何か言い出したのを見て、ドン引きする視線を見せてくる。
だって書いてあるんだもん……! そんな目で見ないで……! って、リースさんまで!?
でももう背に腹は変えられない、こうなったら書いてあることをやるまでっ!
「……ナナー、ンナー?」
「ナァ」
「っ! ンナー、ナナちゃんー?」
「ナァ」
そう、依頼書にはこう特徴の他に書かれていたことがあった。
名前を呼べば返事をする。って。
だけどただ呼ぶんじゃダメで……あくまでも、猫っぽく言う必要がある。
だから……いい加減変な目で見るのをやめてほしい。
「私たちは迷子の猫探しの依頼を受けました。このコは間違いなく私たちが探している猫です」
「この猫拐いめー! おまえたちの所為でヴィーナちゃんが変になったと思っちゃったじゃないかーっ!」
「リースさんそれは言わなくてもいいやつです!」
私たちを騙そうとしていた男二人は、薄ら笑いを辞めて私たちを睨む。
持っていたナイフを私たちに向けた。
「ちっ……大人しく帰ってりゃ何もするつもりはなかったのによ」
「こうなりゃお前たちの肉を猫に食わせてやるぜ」
食べるかな……? ってそうじゃなくて!
猫泥棒なんかに負ける気はしない。しない、けど……。
「リースさん……私の攻撃じゃ、攻撃力が高すぎる気がするんですけど」
「そうだね、うーん…………じゃあ、リースに任せてっ!」
「えっ!?」
「うおおおおおーっ!!」
「うわあああっ!?」
大きな盾を構える。盾は防御用なのに、いったいどうやって……!?
と思ったら、ドドドドと突進。いきなり突っ込んでくると思ってなかったみたいで、一人は盾に吹き飛ばされる。
木に背中を打ち付けて、気絶。戦いに参加出来ない私は慌てて気絶した人を拘束した。
「次はお前だあああ!」
「突っ込んでくるってわかってたらよ……!」
ひょい、っと横っ飛び。まっすぐしか来れないってわかってたら、避けられるのは簡単。
リースさん、いったいどうやって……。
「えいっ」
「うわあっ!?」
盾の先を持って、足払い。大きな盾だけあって、リーチはかなりのもの。
すてんと尻もちをついて転ぶ。そこに……。
「とりゃああああっ!」
「ぎゃあああああ!!」
盾を構えてダイビングプレス。い、痛そう……!?
盾をどけると、ピクピクしてた。よかった、生きてはいるみたい。
「えへへ、リースやるでしょ!」
「確かに……いつの間にこんな技を!」
「何か出来ないかなーって思って、考えてたんだ。やったのは今日が初めてだけど……成功してよかった!」
確かに凄い……成功したのもそうだけど、ずっと出来ることを考えていたなんて……。
やっぱり、リースさんは“いらない子”なんかじゃない……!
「あ、鍵あったよ!」
「開けましょう!」
鍵を開くと飛び出していく子、助けてくれたのを知っているのかリースさんに懐く子。様々だった。
「そうだ、お腹減ってるだろうし、あの鶏肉あげよ?」
「そうですね、どうぞ」
紙袋ごと渡す。リースさんが開くと、紙袋からはお肉の匂いが広がって……。
「にゃ、にゃあああああああっ!?」
「リースさあああああん!?」
猫に群がられるリースさん。
ちょっと羨ましい。
ちなみに、猫泥棒の二人は自称ブリーダーで、人懐っこい猫を盗んで売りさばいていたらしい。
依頼のついでに犯罪者も捕まえて……これでカルディラ傭兵団の評価はうなぎのぼり。
「リース、ヴィーナ。また猫探しの依頼が来たわよ」
「そっちだけが上がったんですか……っ!?」




