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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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39/51

39話 引き続き猫探しです!


 雑木林の中をまっすぐと進む。

 木漏れ日でそこまで暗くはないけれど、少しだけ湿っぽい空気。


「…………」

「リースさん?」


 突然膝を折って地面にしゃがみ込むリースさん。じっと地面を見つめていた。

 私もならって地面を見てみるけれど……何も見えない。


「猫の声はどんどん近くなってるのに、猫の足跡は全然ないの。なのに何故か人の足跡だけはあって……」

「人の?」


 よく目を凝らしてみる………………ダメだ、全然見えない!

 ぎゅっと力を入れた目を解すように揉んで、もう一度地面を見てみる。でもやっぱり見えなかった。

 でも確かに、猫の声は近くなった気がする。

 にゃーにゃー、なんて人懐っこい声ではなく。遠くの誰かを呼ぶような……。


「とりあえず行ってみましょうか? 行けば何かわかるかも」

「うん、そうだね!」


 ざくざくと草を踏みしめながら前に進む。

 風の音、葉の音、揺れる光。

 前を進むリースさんの背中、私が結んだポニーテールが左右に揺れていた。


「リースさんは……」

「うん?」

「目が良いんですね、私には足跡とか見えませんでした」

「だってほら、リースは農村の人だから!」


 ストレニア村、だっけ。農業が豊かな村って言ってた。

 野生動物の作物被害が多いから、動物の足取りを掴むのは日常茶飯事って聞いた気がする。

 やる気が空回りすることが多いリースさんだけれど、今までやってきたことはきちんと積み重なってるんだなあ。

 それに人懐っこい性格。今回の依頼はリースさんがいなければ、町の中をウロウロしてるだけで終わってそう。感謝感謝。


「な、なんでリースを拝んでるの……?」

「あ、いえ、つい」

「ヴィーナちゃん、あれ……」


 立ち並ぶ木が少なくなってきて、木漏れ日が明るくなってきた。

 そんな中、ぽつんと一軒の木造の家があった。

 人の気配はない。だけど中から猫の鳴く声がする。


「なんでしょうね、この家」

「人間嫌いの人が猫と一緒に暮らしてる家、とか?」

「普通に考えたらそうなんでしょうけど」


 家の横には木で出来たベンチがあるけれど、長年誰も座っていないらしく、薄汚れてる。

 ベンチの下の地面は日が当たらないようで乾いておらず、ぬかるんでいた。

 ベンチだけじゃない、家の周りには生活に必要な物があるけれど、どれもこれも使われた形跡がない。

 これじゃ誰か住んでいる家じゃなくて……誰かが住んでいた家にしか見えない。

 家の周りをぐるっと見てみたけれど、窓もない。中の様子は見えなかった。


「ヴィーナちゃん、袋の口開けてみて」

「わかりました」


 言われた通りに、紙袋の口を開く。中には茹でて少し冷めた鶏肉が入っている。

 家の中の猫の鳴き声が強くなった。


「入ってみる?」

「……大丈夫でしょうか? 後で怒られたり……」


 単に家の周囲にある物を使ってないだけかもしれないし、中はひょっとしたら外観と真逆かも。


「もしそうなら一緒に怒られよ? 今は猫ちゃんたちが気になるよ」

「そう、ですね。わかりました、行きましょう!」


 ドアの取っ手を掴む。ゆっくりと引くと、キィという高い音。

 中は暗いけれど……日中だから、日の明かりでまだ中は見える。

 散らかったテーブル、倒れたチェアー。

 何処もかしこもホコリが被っていて、外観同様使われた形跡は無さそうだ。

 ……じゃあどうして、こんな家の中から猫の鳴き声が?

 あまり大きくない家。入ってすぐのリビングを抜け、奥のドアを開くとそこが行き止まり。


「……開けますよ?」

「う、うん……」


 キィという音を立てて開くと。そこは……。


「こ、これって……」

「なんで……!?」


 猫の鳴き声が一層大きくなった。何匹もの声が重なって、大合唱。

 それもそのはず、奥の部屋には沢山の猫がいた。

 鉄のオリに閉じ込められ、私たちを見て威嚇する声や助けを求める声。


「早く助けてあげよう!」

「はい……だけど……!?」


 鉄のオリには鍵がかかっている。もちろん私たちは鍵を持っていない。

 剣を持ってるから斬ることは出来る。けどそれは一回きりの攻撃。


「外に一列に並べて、真っ二つにするっていうのは?」

「た、確かにそれならいけそうです!」


 急いで一つずつ外に運ぶ。

 たまにオリを持つとシャーっと威嚇される。ごめんね、すぐに出してあげるから。

 外で縦一列に並べて、上に剣を振り上げる。けど……!


「だ……ダメですリースさん、動き回ってて斬れません!」


 不規則な動き。斬って開こうとすると、全部の子が無傷で出すことは難しい。これはダメそうだ。


「あれ、この子……リースさん、この子って」

「……うん、依頼にあった猫ちゃんだ!」


 真っ白な猫、尻尾の先は黒い。

 そして人懐っこいみたいで、他の子みたいに威嚇はしてこない。

 ということは、この子は迷子だったわけじゃない。

 誰かに……連れ去られた? このオリは、連れ去った猫を閉じ込めるためのもの?


「……なんだお前ら?」


 その時だった、私たちの背中に声がかかる。男の人の声。

 振り返ると、いかにも悪そうな顔つきの男の人が二人、睨みつけて立っていた。

 二人とも右手にはナイフ。悪そうな……じゃないね、悪い人確定。


「猫ちゃんをさらったのは……? どうしてそんなことするの!」

「…………はあ? 俺たちはただ猫が好きなだけだよ、逃げ出したら悲しいだろ? だから出かけてる間はオリに入れてんだ」

「じゃあどうして、他の家の人の猫がいるの?」

「そりゃ勘違いってもんだろ、猫なんて見た目は良く似てんだ、違いなんてわかるのか?」


 それは……。自分の猫ならともかく……まあ猫飼ったことないんだけど……。

 ……あ、でも確か……依頼書に……!


「…………ナナー?」

「……あ?」

「ナナー、ナナー、ナナー」


 突然私が何か言い出したのを見て、ドン引きする視線を見せてくる。

 だって書いてあるんだもん……! そんな目で見ないで……! って、リースさんまで!?

 でももう背に腹は変えられない、こうなったら書いてあることをやるまでっ!


「……ナナー、ンナー?」

「ナァ」

「っ! ンナー、ナナちゃんー?」

「ナァ」


 そう、依頼書にはこう特徴の他に書かれていたことがあった。

 名前を呼べば返事をする。って。

 だけどただ呼ぶんじゃダメで……あくまでも、猫っぽく言う必要がある。

 だから……いい加減変な目で見るのをやめてほしい。


「私たちは迷子の猫探しの依頼を受けました。このコは間違いなく私たちが探している猫です」

「この猫拐いめー! おまえたちの所為でヴィーナちゃんが変になったと思っちゃったじゃないかーっ!」

「リースさんそれは言わなくてもいいやつです!」


 私たちを騙そうとしていた男二人は、薄ら笑いを辞めて私たちを睨む。

 持っていたナイフを私たちに向けた。


「ちっ……大人しく帰ってりゃ何もするつもりはなかったのによ」

「こうなりゃお前たちの肉を猫に食わせてやるぜ」


 食べるかな……? ってそうじゃなくて!

 猫泥棒なんかに負ける気はしない。しない、けど……。


「リースさん……私の攻撃じゃ、攻撃力が高すぎる気がするんですけど」

「そうだね、うーん…………じゃあ、リースに任せてっ!」

「えっ!?」

「うおおおおおーっ!!」

「うわあああっ!?」


 大きな盾を構える。盾は防御用なのに、いったいどうやって……!?

 と思ったら、ドドドドと突進。いきなり突っ込んでくると思ってなかったみたいで、一人は盾に吹き飛ばされる。

 木に背中を打ち付けて、気絶。戦いに参加出来ない私は慌てて気絶した人を拘束した。


「次はお前だあああ!」

「突っ込んでくるってわかってたらよ……!」


 ひょい、っと横っ飛び。まっすぐしか来れないってわかってたら、避けられるのは簡単。

 リースさん、いったいどうやって……。


「えいっ」

「うわあっ!?」


 盾の先を持って、足払い。大きな盾だけあって、リーチはかなりのもの。

 すてんと尻もちをついて転ぶ。そこに……。


「とりゃああああっ!」

「ぎゃあああああ!!」


 盾を構えてダイビングプレス。い、痛そう……!?

 盾をどけると、ピクピクしてた。よかった、生きてはいるみたい。


「えへへ、リースやるでしょ!」

「確かに……いつの間にこんな技を!」

「何か出来ないかなーって思って、考えてたんだ。やったのは今日が初めてだけど……成功してよかった!」


 確かに凄い……成功したのもそうだけど、ずっと出来ることを考えていたなんて……。

 やっぱり、リースさんは“いらない子”なんかじゃない……!


「あ、鍵あったよ!」

「開けましょう!」


 鍵を開くと飛び出していく子、助けてくれたのを知っているのかリースさんに懐く子。様々だった。


「そうだ、お腹減ってるだろうし、あの鶏肉あげよ?」

「そうですね、どうぞ」


 紙袋ごと渡す。リースさんが開くと、紙袋からはお肉の匂いが広がって……。


「にゃ、にゃあああああああっ!?」

「リースさあああああん!?」


 猫に群がられるリースさん。

 ちょっと羨ましい。




 ちなみに、猫泥棒の二人は自称ブリーダーで、人懐っこい猫を盗んで売りさばいていたらしい。

 依頼のついでに犯罪者も捕まえて……これでカルディラ傭兵団の評価はうなぎのぼり。


「リース、ヴィーナ。また猫探しの依頼が来たわよ」

「そっちだけが上がったんですか……っ!?」

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