38話 猫探しなんてアリですか!?
それは朝のこと。いつものようにリースさんの髪の毛を結んでいると、シルフィさんが元気よくやってきた。
なんか最近毎日来てるね?
「今日は仕事を持ってきたわよ!」
以前は依頼がある日のみ訪ねてきていたんだけれど、最近は依頼が無い日も来るようになっていた。
とはいっても、別に不満があるわけじゃない。
今日はリースさんに対抗意識を燃やしてツインテールを解かなくて良かった。あれ大変だったし。
「でも今日は二手に別れてもらうわ。ええと、ライラとユノはフェンの手伝いよ。鉱石を掘りに行ってきて欲しいんだって」
「わたしも?」
「ええ、安全だとは思うけど万が一の戦闘要員がライラだけだと心もとないからね。念のためよ」
「わかった」
名前が挙がっていないのは私とリースさん。
「で、そこの二人。あんたたちにはこの依頼をこなしてきてもらう」
一枚の紙を手渡される。私は両手が塞がってるから、リースさんが代わりに受け取って読み上げる。
「なになに? ……迷子の猫探し?」
「猫探し…………ますます傭兵っぽく無くなってきましたね」
「なに、文句あるわけ? 猫探しより魔族との大規模戦闘に参加したい?」
そんなわけない。戦わなくて良いなら戦わないに越したことはない。
私は慌てて首を振る。
「いえ、猫がいなくて依頼主の人も困ってますよねっ、早く見つけてあげないと!」
「……まあ、そういうわけだから。二手に分かれてよろしくね。あたしも手が空いたら猫探しの方に足を運ぶかもしれないけど……あんまり期待はしないで」
「シルフィさんも忙しいでしょうし、出来るだけ私たちで解決できるようにしますよ」
「ええ、頑張ってちょうだい。ライラとユノもお願いね」
「はーい。久々に採掘か、ちょっと楽しみねー」
「ライラが張り切ってると、ちょっと不気味」
「最近アタシに当たり強くない?」
「そんなことない」
「そう?」
「最近とかじゃないから」
「だよね!! だと思ったよ!」
……なんて言い合いながら、二人は出かけて行った。仲良い……のかな?
と、いうわけで今日は別々の仕事。
私とリースさんは町の中で猫探し。紙に描かれた猫の特徴は、真っ白な猫。だけど尻尾の先だけ黒くなっているみたい。
依頼主の家は住宅地区にあるみたい、まずはその周囲からかな?
「リースさんここの場所わかります? 私住宅地区は明るくなくて」
前に足を運んだのはリースさんを追いかけたとき。そういう場面でも無い限り足を運ぶ用はあまりなかった。
「えっと……うん、わかるよっ!」
「じゃあ行きましょうか」
「うん! 頑張ろー!」
「はい、頑張りましょう!」
そしてやってきました住宅地区。
時刻はお昼前、地区に住む皆は忙しそうに道を行き交っている。
私とリースさんは一枚の紙を片手に地区を練り歩いていた。
重点的に見る場所は家と家の隙間や暗がりのある場所。
「あ、ヴィーナちゃんあれ!」
「あれ犬ですよ、しかも黒いです」
「あれは?」
「あれも犬です、っていうか一緒の犬じゃないですか!」
「じゃああそこ!」
「鳥ですね。わざとやってませんか!?」
とまあ、簡単に見つかれば依頼なんて来ないわけで。
猫以外の動物は見つかるけれど、猫は全然見かけない。
「おーい、ねこー、にゃんにゃんー?」
リースさんは下の隙間を覗き込むために服が汚れるのも構わずに地面に寝転がる。
鉄柵の向こう側は……民家の地下室かな? だけどいないみたいですぐに立ち上がった。
私は家の隙間を覗き込む。空が明るいおかげで隙間の暗闇は色濃く、首を突っ込まないと暗闇の向こう側は見えない。
…………ただ暗闇が広がるだけ。何もないし、何もいないみたい。
「いないねー」
「そうですねー……」
地区の大体は回ったけれど、猫一匹見当たらない。
犬ならそれなりにいるのに……なんでだろう?
「あんたたちさっきから何してんだい」
途方に暮れていると、背中に声がぶつけられた。
振り返るとそこには背骨が曲がったお婆さん。ウロウロしてる私たちを不審に思ったらしく、その目は厳しく鋭い。
「あ、お婆ちゃんだ!」
「なんだ、リースじゃないか」
でもリースさんを認識した途端、鋭い視線は途端に和らいだ。
住宅地区の人とまで知り合いなんて……迷いに迷う方向音痴のおかげかな?
「お婆ちゃん、あのね。リースたち猫を探してるの」
「猫だって?」
そう言ってリースさんは紙を見せる。本当は依頼書は他の人に見せないほうがいいんだけど……。
「ああ、アリサのとこの猫か。そういえばここ最近見てないね」
「何か知らない?」
「さあね、あいにく私は動物が好きじゃないんだ」
「そっかあ」
手がかりなし。しょうがない、また地道に歩き回るしか……。
と思った矢先お婆さんが。
「でも聞いたことがあるよ、この壁の向こう側に大きな木があって、そこが猫のたまり場になってるって」
指を差したその壁は、町を囲う外壁。ということは街の外?
確かに、猫みたいな身軽さなら壁から出入りすることも不可能じゃないのかもしれない。町の外は盲点だったかも。
「ありがとうお婆ちゃん、行ってみる!」
「はいよ、頑張んな」
私は頭を下げ、リースさんは大きく手を振ってお婆さんと別れる。
こんなところでリースさんの人脈が活きるなんて……シルフィさんはそこまで読んでたのかな?
町の外に出る前に、空を見てみると……太陽は頂点に達していた。
一度寮に戻って、歩きながら食べられるサンドイッチをぱぱっと作ってしまう。
それに町の外に行くんだし、一応武器も。
「あ、猫が食べられるモノを持っていって匂いで釣るのは?」
「確かにいけますね。何かありましたっけ……」
魚……無い。猫用の食べ物を常備しているわけもなく。
肉なら……行けるかな? 確か鶏肉だったはず。
ナマは良くないだろうし、さっと茹でて冷ましながらお婆さんが言っていた木の場所へと向かう。
「もぐもぐ……美味しい!」
「はい、美味しいですね!」
歩きながら食べ歩く私とリースさん。ちょっと行儀悪いけど、日が暮れるまでに見つけたいのでしょうがない。
外壁に沿ってぐるりと歩き、住宅地区辺りに差し掛かると……確かに見えた。
広い草原に立った一本の大きな木。
猫を刺激しないようにゆっくりと歩いて行く、けれど……。
「……いないね?」
「そうですねー……」
猫も、鳥も。動物は一匹も見当たらなかった。
木の幹には猫の毛らしき付着物はあるけれど……姿は見えない。
枝の上? 首が痛くなるまで見上げてみたけれど同じく姿は見えない。
「うう……お腹減った」
「今食べたばっかりですよ? って、鶏肉狙わないでください、これは猫ちゃんのです!」
「でも、いないし……ちょっとだけ、ね?」
「ダメです! そもそも味付けも何もしてないんですから!」
「じゃあ匂いかぐだけ!」
そこまで!? と言いたくなるほど食い意地が張っていた。
まあ、匂いだけならと紙袋に入れた鶏肉を取り出し、口を開ける。
まだ粗熱は取れておらず、紙袋の底は温かい。口を開くとほんの少しの湯気と共に鶏肉の匂い。
ザ・肉。って香り。流石にそれだけじゃ美味しそうな感じはしないけど、リースさんは満足そうだ。
「うーん、良い匂………………?」
「そうですか……?」
「……ヴィーナちゃん、なにか聞こえない?」
「え?」
耳を澄ましてみる。けど何も聞こえない。
風が吹いて、ガサガサと木の葉が揺れる。葉擦れの音しか聞こえないけど……。
「こっち!」
「え、ちょっとリースさん?」
脇目も振らず一直線に歩いて行く。
とりあえずついていく。そのルートは町から離れていき、雑木林の中へと進む。
いったい何処まで……って口を開こうとしたとき、私の耳にも聞こえてきた。
にゃー、という鳴き声が。
読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ評価・リアクション・感想を、よろしくお願い致します!




