36話 泥棒なんてアリですか!?
「よい……しょっと」
掃除道具を外の納屋に片付ける。
これで今日の当番作業は終わり、と。これから何しようかな?
もうそろそろ日が暮れる。今日は何事もなく平和でなにより。
「……あれ?」
家の向かいにある民家を見る。
向かいにあるのは大きな畑で、たしかお婆さんが一人住んでたはず。
お爺さんは結構前に亡くなったって聞いた。
昼間は畑に働きに来る人がいるけれど、こんな夕方に?
「じゃあ、あれ誰だろう?」
息子……とか? にしてはコソコソしてるような……。
怪しい、怪しさしかない。
寮の出入り口のアーチの陰から様子を伺ってみると、周囲の様子をうかがいながら……家の中に入っていった?
もしも、もしもだけど。お婆さんの子どもじゃないとしたら、考えられるのは。
「泥棒……?」
ここは町の外れだし、自警団の人の目も届きにくい。泥棒に入るには絶好の場所なのかもしれないけど。
「だけど、ここには私がいる。私たちがいる」
私の心のうちからメラメラと何かが燃え上がる。
これはあれかな、正義感とか、そんな感じのなんかアレ。
「ヴィーナ様?」
「ぴぃっ!? え、エレナさんですか……」
口から心臓が飛び出るかと思った。燃え上がり始めた何かに冷水をぶっかけられた気分だ。
いや、でもこれは逆にチャンスかも? お婆さんの財産を守れるのは私たちしかいない!
「エレナさん、いつもの三人に声をかけてもらえませんか? 向かいのお婆さんの家に泥棒が入ってるんです」
「泥棒……!? それは本当ですか?」
「はい! ……いえ、たぶん、おそらくそうなんです」
「どっちですか」
そう言われると……。確実な証拠があるわけじゃないし……?
コソコソと家の中に入っていくのを見ただけで、もしかしたら人目を忍ぶ必要があるのかもしれないし。
例えばほら、裏取引とか?
……はっ!? お婆さんも実はグル!? もしかして民家の中は裏取引の現場!?
「あの、ヴィーナ様?」
「……はっ!? すいません、国家転覆の話でしたっけ?」
「昨日寝る前に冒険活劇でも読みました?」
読みました。でもそれが原因じゃないもん!
と……とりあえず、確かめるくらいはしておかないと。これがご近所付き合いってやつだよね?
「一応ヴィーナ様がよだれを垂らしながらトリップしている間に三人は呼んできましたが」
「私にまで口を悪くする必要はないんですよ?」
「これは私の素です」
そうですか。ってそうじゃなくて!
「もしも何かあるようでしたら私のほうが自警団に知らせておきます」
「もぐもぐもぐ……なあにい?」
「リースさんご飯前ですよ?」
「こ、これは……あれだよ、食前酒じゃなくて……食前食?」
「ふわあ……いったい何事……?」
「夕方なのに今起きたんですか?」
「五度寝くらいしたから大丈夫」
「大丈夫とは?」
で、ユノさんはいない……と。たぶんシルフィさんのところかな?
ということは私たち三人で何とかするしかない、ということ。
消えかけていた正義感の炎が再び燃え上がる。
「ヴィーナ様、恐らくそれは野次馬心です」
「そんなことないです! 私たちの心は傭兵としての正義感に満ち溢れてるんですっ!」
まるで昨日見たお話のよう。仲間と協力して巨悪を倒す。
…………違う! お話の影響じゃない!
「とりあえず、確かめるだけでも確かめましょう!」
「おーっ!」
「めんど……」
文句を言いながらもついてきてくれる。
三人でお向かいの民家の家の前に来た。
……話し声はしない。その代わりゴソゴソと物音が。
それも相当荒い。まるで家の中をひっくり返すかのような騒音だった。
「静かに行きましょう」
唇に指を立ててゆっくりと近付いて行く。それがフラグだとはつゆ知らず。
ガラァン! と甲高い音がした。
「……ごめん」
見ればリースさんが金属製の桶を倒していた。そんなモノ何処にあったの!?
家の中のゴソゴソという物音はしんと止む。たぶん……ううん、絶対警戒されてる。
「これ、裏から出るねー」
「回り込みましょう!」
裏へ回ると、背中を向けて走り去る男の人の背中。さっき家の中に入って行った人だ!
「ヴィーナちゃん、中には誰もいないみたいだよー」
「後は自警団に任せない? 別にアタシたちの仕事じゃないしさ」
「そういう訳にもいかないですよ。お婆さんには普段から良くしてもらってるんですから」
果物のお裾分けとか、小麦のお裾分けとか!
もちろんそういうことが無くても、身近で犯罪を見かけたのなら未然に防がなくちゃ!
「でも走るのしんどい……」
「お願いしますライラさん! 何でもしますから!」
「………………何でも?」
「え……? はい、明日の当番を代わるとか……?」
そういう、軽いつもりで言ったんだけど……。
え、なんで目が本気なの……?
「二人とも良いのー? 逃げてくけどー」
「良くないですねっ! 追いましょう!」
「何でもかー……!!」
こうして三人で追いかけ始める。泥棒(多分)は町の中へと入って行ったみたいだ。
雑踏に隠れられたら見つけるのは難しくなる、ちゃんと後ろに張り付いていないと!
「おいお前! 待て!!」
町の受付の人の怒鳴る声が聞こえた。きっと無理やり入って行ったんだ。
「お疲れ様です! どっちに行きましたか!?」
「ああカルディラの……あっちだ!」
「ありがとうございます! 行きましょう二人とも!」
あっちは職人街? 住宅街と比べたら広々としてるけど、人の出入りが多いから隠れやすい。
つまり、犯人はヒザークの町に熟知してるってこと?
「いました! あそこです!」
通る人々の間を縫うように、背中を向けて走る男の人が一人見えた。
きっとあの人だ!
「うおおおおー! 待ーてーっ!!」
「速っ!?」
まっすぐ走るのは得意だったのかな、リースさんが急に加速し始めた。
あっという間に追いつき……はしなかったけど、このままだと追いつける。
けど、それよりも早く男の人の上に伸し掛かる一人の影。
「…………」
「ユノさん!?」
屋根の上から飛び降りてきたみたいで、いつものフードとマスク姿で組み敷いた男の人を冷たく見下ろす姿。
いったいいつから……じゃなくて、怪我とかしてないのかな!?
「わあああああ、ユノちゃんどいてー!」
「嘘でしょ」
リースさんは急に止まれない。そんな標語と共にユノさんに突撃していく。
どんがらがっしゃん、ときりもみ状態でユノさんと絡み合いながら転がっていき、残されたのは泥棒だけ。
チャンスとばかりに立ち上がって逃げていこうとする。
道を変えて建物の隙間に入って逃げようとした泥棒だったけど……。
「はいおしまい」
「ぐはっ!?」
建物の隙間から現れたのは……ライラさん!?
あっという間に泥棒を制圧。いったいいつの間に……!
「人間、ご褒美のためなら割と頑張れるんだよ」
「あんまり説明になってない気もしますが……」
ともかく、泥棒は自警団に引き渡した。
泥棒と思っていた人は間違いなく泥棒だったみたいで、お婆さんの畑仕事に出稼ぎに来ている人だった。
契約は終わり、村に戻る前に盗んでしまおう、と企んでいたみたいだ。
お婆さんには目一杯感謝され、私の正義感も満たせた帰り道。
「……何でもかあ」
「ライラさん……事あるごとに呟くのやめてください、とっても怖いです」
「だってなんでもだよ?」
私……とんでもない約束をしてしまったのかもしれない。
どうしよう…………どうしようもないか……。
読んでいただきありがとうございます。
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