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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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要人警護なんてアリですか!?


「今日は傭兵らしい仕事を持ってきたわよ!」


 とある日の朝、意気揚々と現れたシルフィさん。

 朝日より眩しい満面の笑顔で現れて、仕事の話を持ってきた。


「なんと要人警護! カルディラ傭兵団始まって以来のまともな依頼よ!」

「そうかな、ゴブリンの巣討伐のバックアップに、廃鉱山に潜んだコボルトの討伐とか傭兵っぽいけど?」


 指折り数えるライラさん。うん、確かにそっちも傭兵っぽいけど……。でも魔物退治なら冒険者とかもするし、如何にも傭兵! って感じはしないんだよね。


「あーそう、じゃあもう一つの仕事にする? 馬と牛の放牧して、夕方になったらまた戻す仕事。懐かしいでしょ」

「それなら警護の方が楽…………いや、楽かな……?」


 どっちも楽じゃないと思います。

 さっきの自問でふと思ったことがある。それは……。

 傭兵と冒険者の違いって、なんだろう。っていうこと。

 傭兵はそれぞれチームがあって、二つ名とかついてるような凄腕の傭兵でも無い限り、一人で行動している人は少ない……でもあれ、それは冒険者も一緒かも?

 あと傭兵は屈強な男の人のイメージがあるけど、冒険者はその辺りまだフラットというか、ライトというか……でも、これはただの先入観だし、うーん……。


「……あの、ヴィーナ? 何うんうん唸ってるの?」

「…………へっ? あ、いえ、別に……」


 わりと深く考え込んでいたみたいで、気が付けば全員私の顔を覗き込んでいた。


「あの……傭兵と、冒険者の違いって……なんですか?」


 思い切って聞いてみることに。だってわかんないんだもん!

 それなら聞いてみたほうが早…………って、みんなぽかんとしてる!


「ご、ごめんなさい! 関係ないことを」

「ううん、それはいいんだけど……確かに、違いってなんだろうねー」


 慌てて頭を下げると、ライラさんが答えてくれた。

 でも自分でもよくわかっていないみたいで、私と一緒になって悩むことになったみたい。


「んっとね、傭兵はー……なんか強そう! 冒険者は……その逆!」


 リースさん、それ冒険者の人に失礼。

 でも悪気は無いはず…………無いよね?


「傭兵はお金さえ貰えば、人を殺す。けど冒険者の相手は基本的に魔物や魔族だけ」

「ユノさん……一番それっぽいですね!」

「それっぽいってなに」


 え? じゃあその流れになると……いつか私たちも人を手にかけるってことに……?

 魔物や魔族は覚悟してたけど、人っていうのは……。


「ぶっちゃけ、傭兵と冒険者の違いはね、そこまで無いわ」

「そうなんですか!?」


 最後はシルフィさん。でも違いがないなら……どうして分ける必要があるんだろう。

 全部冒険者で、冒険者ギルドが統括すれば良いんじゃないかな?


「敢えて違いを挙げるとすれば、傭兵には雇われてる先があるけど、冒険者は基本的に自由ってところかしら」

「自由」

「そ、いつ依頼を受けるのか、何の依頼を受けるのか、いつ出発するのか、荷物はどれだけ必要か。パーティーだろうとソロだろうと、何もかも自分たちで決めないといけない。傭兵はその逆ね」


 ……確かに。

 いつもシルフィさんが依頼を持ってきて、馬車の手配から荷物まで全部用意してくれてる。

 これって傭兵だからだったんだ……!?


「傭兵はだいたい何処かに雇われてる事が多いわね、カルディラ傭兵団ならカルディラ商会に、みたいな」

「なるほど……」

「んで、雇用主によってはユノが言ったように、誰かを殺める必要が出てくる。これは雇用主の意向だから傭兵団は余程の理由が無い限り拒否できないわ」

「じゃあシルフィちゃんが誰かを殺しに行けー、って言ったとしたら……拒否出来ないってこと?」

「あたしは言うつもりないけど、要するにそういうことね。まあ冒険者でも名が売れてきたらそういう依頼もあるかもしれないけど、傭兵に比べて自由意志が尊重されてるって節はあるわ」


 そう聞くと傭兵のほうが窮屈っていうか、規則にがんじがらめって感じがする。

 だけど何処かの組織の下にいるっていうのは、それだけで安心するモノだろうし……。

 それに自由って、思っていたよりも自由じゃない……って言うことをよく聞く。

 ほら、親元から離れて一人暮らしをした子どもとか!


「疑問は解けたかしら? じゃあさっさと準備して! 時間の余裕はもう無いわよ!」


 パンパンと手を叩いて準備を急かすシルフィさん。

 そうだ、まずは仕事に集中しないと。依頼はなんだっけ、要人警護って言ってたっけ?

 警護ってことは武器は必要だよね、一本でいいかな……いいよね。

 準備を終えた私たちはシルフィさんに教えられた場所へと向かう。そこはヒザークの町中だった。


 門をくぐって、町の喧騒の中へ。人の合間を縫いながら私たちは目的の場所へと向かう。

 そこは貴族区画だった。王城の近くに作られた、お金持ちで高貴な家柄の人しか住めない場所。

 つまり私にはまったく縁のない場所。初めて足を踏み入れる。

 でもそれは他のみんなも一緒だったみたいで、キョロキョロと視線を彷徨わせる。

 ユノさんまで視線を動かすのは予想外だったけど……。


「なに」

「あ、いえ。ユノさんもこういうところは珍しいんですね?」

「…………何言ってるの?」

「えっ?」

「要人警護っていうことは、誰かに狙われている可能性があるということ。なら何処かで暗殺する機会を伺ってるかもしれない」


 ……そうだ。警護を依頼されたっていうことは、警護が必要な状況にあるっていうことだ。

 シルフィさんは人を殺めるような依頼は受けないって言ってた。だけど人を守るためなら人を殺める必要があるかもしれない。

 そんな単純なことに気が付けなかったなんて……。

 もっとしっかりしないと! 傭兵団のリーダーなんだから!


「…………」


 屋根の上、塀の影、民家の窓。そういう目で見れば怪しい場所はいくらでもある。

 あれは……!? 違う貴族の家の御者だった。


「ヴィーナ、怪しすぎ」

「えっ!!」

「そんな目で見てたら逆にこっちが暗殺者扱いされる」


 私どんな目で見てたんだろう。

 うう、バランスが難しい。

 悩んでいるうちに、目的の屋敷に到着。貴族区画の一番奥。

 屋敷が大きい……というより、庭が大きい。こんな生け垣だらけじゃ、誰か潜むのにぴったりなんじゃ……?


 立っている門番に話しかける。


「カルディラ傭兵団です。カルディラ商会からの依頼で来ました」


 門番の人は頷いたあと、屋敷の中に入って行く。

 出てきたのは門番だけでなく、ドレスを着た女性と、男の子。


「ああ良かった、今日はいつもの冒険者たちが捕まらなくてね、ちょうどよかったわ!」

「え、えっと……?」

「はい、行ってらっしゃい。後はよろしく頼むわ!」


 こっちが事情を把握出来ていないまま、子どもを預けて屋敷の中へと入ってくる。

 …………これは、いったい……?

 ライラさんもリースさんも頭の上にクエスチョンマークを浮かべ続けていた。


「行きましょう」

「あ、はい」


 男の子が先導する。慣れているんだろう。

 黙って後ろをついていく。特に会話は無かった。

 私の頭の中はまだ疑問だらけだ。

 しばらく歩いて、目的地に到着。男の子と同じ服装の子がいっぱい。

 ………………学校?


「じゃあ夕方、またよろしくお願いします」

「あ、はい」


 一度もこっちの顔を見ることなく、男の子は学校と思しき施設の中へ。

 ………………どういうこと?


 ……そして、夕方。

 ドタドタドタと足音荒く、傭兵団の寮へ帰って行き。そして……。


「シルフィさあん!! 警護とかじゃなくて学校の送り迎えじゃないですかあ!!」

「あははははっ! だーまさーれたー!!」


 そこには、笑い転げるシルフィさんの姿があった。

 なんか無駄にからかわれたけど……無事に任務は完了しました!!

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