33話 ライラさんは、仲間です!
ここはヴランの宿屋。
今回の救出作業に関わった全員が集まり、それぞれ飲み物を片手に声を待つ。
少し高いところに上がってきたのは、現場監督と呼ばれていたおじさん。
「今回は不幸な事故が起こった。坑道が一本潰れたことで作業に遅延が起こるだろうし、その遅れを取り戻すのも大変だ…………でもそんな現実的な話は今日は忘れちまえ! まずは全員の無事の帰還を祝して乾杯!」
宿屋中で飲み物が高々と突き上げられる。
シンと静まり返っていたのは数秒だけ、今はもうざわざわとした楽しげな喧騒の中に包まれる。
そしてそんな中、微妙に不満そうにしているのはシルフィさんだった。
「なんで……一番の功労者はライラたちでしょ? なのになんで監督が音頭取ってんのよ」
両手が包帯でグルグル巻き。シルフィさんも慣れない作業でボロボロで、明日はきっと筋肉痛だってボヤいていた。
気持ちは確かにわかる。でも私が音頭を取るのもイヤだし、それに今回のリーダだったライラさんは。
「良いのよ、父さんが無事ならねー」
なんて気持ちよく言うものだから、シルフィさんはこうやって陰でブツブツ言うしかないわけで。
まあでも、監督の言う通り全員無事で良かった。ちょっとした不注意で坑道を一本塞いでしまったわけだけど……咎められることも無かったし、万事オーケーということで……良いのかな?
「父さんどう? 久しぶりのシャバは!」
「ライラ……久しぶりだな」
「それってアタシの話? それともシャバの話?」
「お前に決まってるだろ、元気にやってるようだな」
「まーね、床があったら何処でも寝られるのがアタシの長所だからね」
短所に聞こえなくもないけど?
「母さんから聞いた。今は……傭兵をしてるんだって?」
「ええ、行くところの無かったアタシを雇ってくれたの」
お父さんは私たちの方を見てペコリ。
私たちは続いて頭をペコリ……ってあれ、リースさんは?
あ、いた。遠くで料理を食べるのに夢中になってるみたい。
「ようライラ、今回はお手柄だったな!」
「監督、アタシに感謝してよね? 爆破してたら鉄トカゲを更に呼び寄せてたかもよ?」
「確かにな、ガハハハハ!!」
果たしてそれは笑い事なんだろうか?
上手くいったからそれを咎めるのも無粋なのかもしれない。
なんてことを、ジュースを飲みながらぼうっと聞いていると。
「なあライラ、お前鉱山に戻ってこないか?」
とんでもないことを言い出した!
リーダーを、そして商会長を前に堂々と引き抜き!?
「当時の奴らは大人気なかった、俺もそうだ。ただ次は必ず守ってやる。鉱山にはお前みたいな目を持ってるやつが必要なんだ」
そんな勝手な……!
誰の所為で、ライラさんが自堕落になったしまったと思ってるの!?
頑張りを認めてくれなかったからじゃない……!
一言いってやろうと立ち上がろうとする私の膝に手が置かれる。シルフィさんの手だった。
「我慢しなさい」
「でも!」
「ライラが楽しんで生きられるなら、応援してあげなきゃ」
それは……! そう、だけど……。
でも、こんなの……ただ大人の都合に振り回されてるだけだと思う……!
「ライラ、父さんからも頼む。傭兵なんて危ない仕事はやめて……ヴランに戻ってこい」
父親……っていう立場での言葉なら、わかる。
命を担保に戦う仕事だし、危険が多いから心配するのもわかる。
……確かに、家族のことを考えるなら……。
「それにね……」
「シルフィさん?」
「監督、父さん――悪いけど、パス」
「ライラが辞めるはずないでしょ」
シルフィさんの言う通りだった。
悩む仕草すら見せずにライラさんは即拒否。その言葉は実にあっさりとしていた。
「アタシは今の仕事にやりがいを感じてるし、楽しんでる。それに仲間も最高なのよ?」
そう言って、私たちの方に視線をやる。つられて監督もライラさんのお父さんも。
「無口だけど甘えん坊のユノちゃん。独占欲が凄くて意地っ張りだけど可愛いシルフィちゃん……ええと、あそこでパスタの大食いにチャレンジしてるのが、ムードメーカーのリースちゃん」
そんなことしてるの? ……してた! ほっぺたが凄いことになってるっ!
「それにここにはいないけどセクハラが趣味のフェンちゃんに、彼女に雇われてる毒舌のエレナちゃんもいるのよ、そして最後がー」
そこまで言うと、私を手招き。誘われるままライラさんのもとへ。
すると私の肩へと手を回し、がっしりとホールド。ちょっと苦しかった。
「これがリーダー、柔らかくて良い匂いがするヴィナちゃん」
「そんなに紹介に適してない言葉をチョイスするなんてことありますか?」
「まあそれは冗談としても、今のアタシは彼女たちといるのが楽しいんだ、だから帰らないし、帰れない」
だが……と尚も引き下がりそうになかった監督だけど。
それよりも口を開いたのがライラさんのお父さんだった。
「わかった」
「父さん……」
「だが体には気をつけること。寝過ぎないこと、真面目にやること。それが条件だ」
……えっ、その条件は……。
「最後のだけ厳しいんじゃ……あははははっ!!」
なんか脇腹をくすぐってきた!!
ちょ……やめて、くすぐったい!
「ま……任せて父さん! ちゃんとやるから!」
「む……無理じゃ……あはははっ! ごめんなさいごめんなさい、もう言いませんから!! あはははは!」
そんなにサボり魔なのバレたくないんだ……!?
暴れに暴れた私はライラさんの腕から解放。荒い息を吐きながら元々座っていた椅子に戻った。
「ひぃ……ひいぃ……!」
「随分楽しんだようね」
「そ……そういう風に見えますか……!?」
「見えたけど? あたしもやりたい」
「も……も……やめ……あははっ!」
「じゃあわたしも」
「ユノさんまで……!? だ、誰か助け……っ!!」
私が戻ってもイジメられている中、ライラさんのところは柔らかい雰囲気を醸し出していた。
「いつでも戻ってきなさい。あとたまには顔を見せてくれると嬉しい」
「うん、ありがとう。といっても後一泊はするんだけどねー」
「たまには父さんと一緒に寝るか?」
「やだよ、もうそんな年じゃないし」
逃げ出して絶縁状態だったみたいだけど、こうして和解できた。
それはとても喜ばしいことだし、私も見ていて嬉しい。嬉しいけれど……。
「ひ、あはははっ! い……いい加減やめてくださいーっ!!」
誰か助けてほしいんですけどーっ!
ちなみに翌日。
シルフィさんは全身筋肉痛で。
私は腹筋が筋肉痛だった。
「……さて、帰りましょうか。いたた」
「うん、帰ろう……家に」
「そうですね、帰りましょう……いたた」
「……二人とも、大丈夫?」
……誰の所為だと思ってるんですかぁ!




