31話 ライラさんの本領発揮です!
翌朝、日の出と同時に私たちは鉱山の入り口の一つにやってきた。
鉱山の入り口は幾つもあるけれど、ここだけが立入禁止とされている場所……つまり、崩落事故があったところ。
入り口近くには鉱夫の人や冒険者の人が、中を覗き込むようにひしめいている。
「はい、ちょっと通るよー」
斧を片手に人を押しのけ、ライラさんは鉱山の入り口に足を踏み入れる。
押しのけられたことに不満を露わにする冒険者の人たち、だけど鉱夫の人たちは不満よりも驚きが先に来ているみたいだった。
「お、おい……あいつ、ライラか!?」
「いつ町に帰ってきてたんだ……?」
「というか片手に持ってたのって……斧か?」
そんな声を背中に受け止めながら、私たちはライラさんに続いて中に入る。
埃っぽく、空気は悪い。等間隔で並べられたランタンの灯りだけを頼りに奥へと進んで行く。
中に入ってからも人とすれ違う。女性ばっかりの私たちを外に追い出そうと声をかけてくる人もいたけれど、ライラさんはそれらすべてを目でねじ伏せた。
焦りと怒り、悲しみと辛さ。
感情すべてを後回しにして、奥へ奥へと進んで行く。
そしてようやく目的の場所へ。そこは岩と土が混ざり合い、私の目からは隙間なくびっしりと埋め尽くされているように見えた。でも。
「……うん、空気穴はあるみたいだね、ならまだ大丈夫」
「…………あるの?」
「あるよ、見てごらんほら、あの上の部分」
リースさんが疑問を口にした時に場所を教えてくれるけど……。
正直、全然わからなかった。
「ふむふむ」
崩落した現場をしげしげと眺めるライラさんの背中を、手持ち無沙汰でぼうっと眺める。
この件に関して、私たちに言えることは何もない。だって何もわからないから。
ライラさんの指示に従うのが、最善手だと思うし。
……なんだけど、そんな私たちに向けて怒鳴り声が飛んできた。
「お前たち! 何やってるんだ!」
男の人の怒鳴り声。狭い空間だからか、何度も響くように聞こえていた。
振り返るとそこにいたのは口ひげがもっさりの男性。
見なくてもわかったけれど、見ての通り怒っているみたい。
「出て行け! 今ここは一刻を争う現場なんだ、社会見学なら別の日にしろ!!」
「社会見学ねー……ここはおすすめしないよ、女の子を寄ってたかってイジメる現場なんだから。そういうのが趣味なら止めないけど」
「お前……ライラか!?」
「お久しぶり監督、相変わらず威張り散らしてるみたいだねー」
にこやかに手を振るライラさんだったけれど、口からは刺々しい言葉。
そして監督が手に持った物を見て……ライラさんは監督の胸ぐらを掴んだ。
って……一体何を!?
「監督……手に持ってるそれ、何に使うの?」
「もちろん救助作業に使うんだ、手を離せ!」
筒状のそれは……。
…………なんだろう、見てもわからなかった。
「発破なんて……中にいる人のことを考えてないの!?」
「考えてるに決まってるだろ、だからこそ早く助けるためにだな――」
「この不安定な石の重なり方で無理やり吹き飛ばしたら、奥にいる人もただじゃ済まないでしょ!?」
発破って……。
「爆弾のこと」
「爆弾…………爆弾!?」
ユノさんがこっそりと教えてくれた。
爆弾って聞くと危ない感じしかしないけれど……。
聞くところによると、爆弾で坑道を開いたりもするらしいし、割と珍しいモノじゃないみたい。
「逃げ出したお前に何がわかる!!」
「逃げ出した? 逃げるように仕向けたんでしょ! アタシの言うことは何も信じなかったじゃない!」
「ああ、だから今回も信用しない、どけ!!」
ライラさんを押しのけようとする。
でも間に割り込んだ人がいた。
「…………むぅぅ」
「……な、なんだ」
「ライラちゃんに乱暴しないで!」
リースさんだった。
盾を背負った状態で、小さな体で睨みつける。
監督の方が体格は大きいはずなのに、リースさんが睨む視線で監督は怯んだ。
「はいちょっとごめんなさい、ここの現場監督って貴方?」
「今度は誰だよ……女ばっかり……」
「あたしはカルディラ商会の会長、シルフィよ。いったんこの場はあたしが預からせてもらう」
「預かるって……一体何の権利があって!」
「文句があるなら鉱石を卸してる商人に聞いてきたら? 言っとくけどカルディラ商会はここの商人とはと~~~~っても仲良くさせてもらってるから」
睨みつけるでもなく、むしろ笑みを見せているシルフィさん。
悔しそうな監督は、ついてきていた部下の人に確認に走らせた。
監督の相手を私たちに任せ、ライラさんは岩が積み重なる坑道をしげしげと確認。
「……ガスがここから出てるから、ここは何も触れずに……じゃあここから崩すと……ダメだ、ここが倒れてくる。じゃあここから……ううん、穴は開くけど不安定過ぎる」
呟きながら一つ一つ見ていくその姿はまさに職人。。
その後姿はいつもとはまるで違う、やっぱり鉱山が大好きなんだってわかるくらい、生命力に溢れてるように見えた。
歯ぎしりしながらライラさんの背中を睨む監督だったけど、戻ってきた部下の報告を聞いたら睨む視線はライラさんからシルフィさんへと移り。
「……勝手にしろ、ただし一時間だ。それ以上かかるようなら発破で無理やり押し通る!」
「だってさ、ライラ」
「充分。それまでに穴を開けて見せるから」
背中越しに答え、目線は崩落現場のまま外さない。
指でなぞりながら深く考える背中を見ていると、声を掛けられない雰囲気が漂う。
ふと、誰かが私の背中をポンと叩く。
「…………はっ!?」
……息をしてなかったみたいだ。重苦しい空気を、吸って、吐く。
「あんたが緊張してどうするの」
「シルフィさん……すいません」
「ううん、気持ちはわかるから」
「あ、ユノちゃん、ちょっといい? ここの岩の隙間に矢を差し込んでくれないかな」
「ん」
ライラさんの指示通りにユノさんは矢を差し込んでいく。
私たちはただ二人の作業を見守ってるだけ、とてももどかしいけれど、出来ることなんてないわけで。
やがて地面から円を描くように矢が刺さった丸が出来た。
「後三十分だ」
監督の声が狭い坑道に響いた。
刻一刻と近付いて行く時間制限。
……なんだけど。
「よーし、出来た」
「……は?」
監督の間の抜けた声もしょうがない。出来た、と言ったのは矢で囲った岩たちなのだから。
ライラさんは壁に立てかけておいた斧を持ち上げ、ピッケル部分を大きく振りかぶる。
「……んっ!」
ガキン、と岩の音が響く。
ライラさんが一振りするたびに、円の内側の岩は崩れ落ちていく。
「それ、貸して!」
ライラさんの行動を眺めていた鉱夫の一人からツルハシを借りて、リースさんも同じくツルハシを振り下ろす。
「…………」
「……はあ、力仕事は専門外なんだけど」
ユノさんも、シルフィさんも。
ツルハシを拾って振り下ろした。
……私だって!
近くにいた鉱夫の人のツルハシを借り、振り上げる。
「……えいっ!」
「って、ヴィナちゃんちょっと待っ……!?」
ガキン! と高い音が響いた。
パラパラと砂が舞い落ちながら、割れた岩がゴロリと落ちる。
「……ツルハシじゃ、私の力は発動しませんよ?」
「あーもー……今日一番心臓に悪かったよ!」
カルディラ傭兵団総出……と商会長も一緒になって何度も何度もツルハシを振り下ろす。
不思議なことに、間に矢を差し込んだ岩は崩れてくることなく、どんどんと穴は奥へ奥へと深くなっていく。
そして。
「残り十分だ」
「…………よし、繋がった!」
「……なにぃ!?」
まだ小さい穴だけど。
向こう側と繋がる穴が確かに開いた。
「そんなバカな!」
驚く監督をよそに、ライラさんは中に声を投げかけた。
「みんな!! 無事!?」
「…………その声、ライラか!?」
「父さん!!」
まだ生きていた。嬉しさからライラさんの肩からふっと力が抜けるのがわかった。
でも…………ライラさんのお父さんのセリフによって、更に力が込められる。
「ライラ……ライラ、助けてくれ! 岩の向こう側から……ま、魔物の声がするんだ!」
「えっ…………うん、わかった!」
ライラさんはツルハシを振り上げ、今までよりも力強く振り下ろす。
「――待ってて父さん……すぐに助けるから!!」




