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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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29話 ライラさんの生まれ故郷、です!


 ライラ・ヴラン。

 鉱山の町ヴランで生まれた女性。

 私からの第一印象は、ズボラで、サボりがちで、面倒くさがり屋。

 だけど本当は違う。いや、違わないかもしれないけど。

 優しくて、頼りがいがあって、思いやりもある。

 そんな彼女の故郷へ、傭兵団の仕事として向かってるのだけれど……。


「はいヴィナちゃん、お菓子食べる?」

「あ……ありがとうございます」


 手渡された焼き菓子を口に運ぶ。

 ……あ、美味しい。これ何処で買ったやつなんだろう。


「美味しい? これアタシが作ったんだ」

「ライラさんが!?」

「そんな驚くこと?」

「だ……だって! 面倒だからって料理当番の時に野菜の皮も向かずに茹でたり! 面倒だからって肉を切らずにそのまま焼いてしかも生焼けを出したりしてた人ですよ!?」


 そんなライラさんが!? しかもお菓子を!?

 あともっと言うなら、馬車の移動中なのに寝てないなんてっ!

 普段はずっと寝てるのに!


「アタシも気が向いたらするよ? 普段気が向かないだけでねー」

「それは……そういう時もあるかもしれませんけど」


 皆もポリポリと焼き菓子を口に運ぶ。

 シルフィさんもユノさんも、美味しそうに食べてるし、リースさんは言わずもがな。


「でもライラちゃんっぽくないね?」


 全部食べるだけ食べて言った言葉が、ライラさんを突き刺すような言葉だった。


「あっはは、かもね。でもたまには良いでしょ?」

「うん!」

「さて、もうすぐ着くだろうしもう一回説明しておくわよ」


 食べ終わったシルフィさんが、手を拭きながら注目を集める。


「行く先は鉱山の町ヴラン。知っての通りライラの生まれ故郷ね」

「帰るの何年ぶりかなあ」

「そこにあるとある坑道で発生したガスに引火して崩落事故が起こった。今ヴランでは冒険者や他の傭兵団がこぞって救助作業にあたってる。あたしたちはそのフォローをしに行くわよ」

「フォロー……ですか?」


 私の口からついて出た言葉を、シルフィさんは頷く。


「瓦礫の撤去作業とかは向かないからね。だけどライラ、あんたはもしかしたら手を借りるかも知れない」

「任せてー……とは言わないけど、出来るだけやるよ」

「言いなさいよ」

「いやほら、久しぶりだしね」


 ……やっぱりなんか、違和感。

 違和感の正体はわからないけど……なんか、腑に落ちない。


「もうすぐ着くよ」


 御者をしていたユノさんが言う通り、前には町並みが見え始めていた。

 ゴツゴツとした岩肌を見せる大きな山。その麓にあるのがヴラン。

 鉱山の町、ヴランだった。




 ヴランにたどり着き馬車を降りると、とても慌ただしい……というのが第一印象。

 普段は慌ただしいのではなく賑やかなんだろうけど、崩落事故の影響で色んな人が右往左往している。

 救助作業のための道具を運ぶ人、宿に泊まりきれない人の野営の準備や、炊き出しの用意をする人など。

 元々は鉱夫が多い町なので、食事やお酒が盛んな町だと聞いた。まあお酒は飲めないんだけど。

 けれど今はその面影は無い。


「さて、あたしたちは私物を下ろして……この様子じゃ宿あいてなさそうだけど、どうしようかしら」


 急遽決まった仕事のため、事前に寝る場所も用意できていないみたいだった。

 流石に今の状況を考えると、野営もやむなしだけど……。


「じゃあ皆、ついてきてくれる?」

「え? ライラさん?」


 言うが早いかライラさんは歩き始める。

 その足には迷いがなく、何処かに向かってまっすぐ歩き始める。

 私たちは慌てて追いかける。すると向かった先は……。


「家……ですか?」

「そ。アタシの家」

「はーライラさんの………………ライラさんの!?」

「うん、あーっと……ヴィナちゃんとシルフィちゃんだけ来てもらえる? リースちゃんとユノちゃん二人には悪いけど待ってて?」


 ライラさんの言う通り後ろをついて、家の中に入る。


「ただいまー」


 まるでお使いから帰ってきたかのような、軽い声。

 だけど家の奥からはドタバタと慌ただしい音が。


「ラ……ライラ!?」

「ただいま母さん」


 小柄でぽっちゃりとした女性が現れた。

 この人が……ライラさんのお母さん?

 スラッと高身長なライラさんとは真逆。


「あんた……今まで何処で何をやってたんだい!?」

「んー、まあ色々と……それより、今大変なんだってね」

「そうさ…………って、この人たちは……?」


 ここでようやく私とシルフィさんに目が向いた。同時に会釈をして挨拶する。

 返すようにライラさんのお母さんもぺこりと会釈。


「今アタシが働いてる傭兵団の団長のヴィナちゃんと、団のパトロンをしてくれてるシルフィちゃん」

「言い方……んんっ、どうも。カルディラ商会の会長を務めております、シルフィ・メール・カルディラです」

「は……はじめまして、ヴィーナ・メールです」

「あ、あらあら……これはどうも……ライラの母です……」


 私とお母さんはお互いにペコペコと頭を下げ合う。

 そんな様子をニヤニヤと見るのはライラさんと、何故か当事者のはずのシルフィさん。


「って、傭兵団!?」


 我を取り戻したお母さんはびっくり仰天。


「傭兵団ってあんた……あんた、一体何を!?」

「だから傭兵団だって。厩舎の掃除から魔物対峙まで何でもござれってやつだよ」


 そう聞くと『なんでも屋』って感じに聞こえるけど……。

 とはいえ、現状なんでも屋みたいなものか……だよね、うん。


「そ……そんな危ない仕事、やめちまいな!」

「鉱夫だって一緒でしょ…………それで、父さんは?」

「………………」


 お母さんは押し黙る。


「……嘘でしょ、もしかして?」

「…………ああ、中だよ」


 何処の中、なんて言わなくてもわかる。わかってしまう。

 崩落事故を起こした内部。救助する側じゃなくて、それは……救助される側の。


「行ってくる」

「ライラ!?」


 家を足早に出ようとしたライラさんだけど。

 シルフィさんに腕を掴まれて止められる。


「今日はもう遅い。体を休めて明日よ」

「言ってる場合!? だって父さんが、父さんが!!」

「これは会長命令よ。今のあんたじゃ二次災害が起こる。なんなら団長命令もつけてあげようか?」


 シルフィさんは私を見る。

 ライラさんの瞳は焦りに濡れていて、どう見てもいつものライラさんじゃない。

 気持ちはわかるけど……シルフィさんの言う通り、今行っても……。


「……はい、団長命令です」

「っ…………わかった。明日の日の出、それまで待つ」


 無理やりシルフィさんの腕を引き剥がした後、家の奥へと入って行くライラさん。

 その後、お母さんだけ残されて多少気まずい思いをしたものの。

 家で寝泊まりすることを承諾してもらい、私たちは一夜を明かすことにした、のだけど……。


「……ヴィナちゃん」


 ゆさゆさ。ゆさゆさ。


「ん……?」


 誰かに揺さぶられる感覚。

 寝ていた意識が浮上して、目を開くと覗き込むのはライラさんだった。


「ごめん……ちょっと、付き合って」


 そういうライラさんの目は、とても赤く充血していた……。

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