28話 ようやく日常……かと思ってました!
仕事がないときは日課の素振り。
これは真面目に訓練をしてるアピールと、それとは別に考えていることがあるから。
コボルトを倒した時のあの感覚。剣からすべての力を奪い去るような、剣の生命を奪って力に変えるような……そんな感覚を、思い出したいと思った。
出来れば自在に使いこなしたい。そりゃもちろん剣を壊さないことに越したことは無いんだけど、壊すなら壊すで、せめて最大限に使ってあげたい。
「……ふっ、……ふっ!」
何度も何度も剣を振り下ろすけど、あの時の感覚は得られない。
やっぱり木剣なのがダメなのかな? 本物の剣なら、もしかして……ううん、ダメダメ。無駄に壊すわけにはいかない、ただでさえ最近鉄が高くなったっていう声を聞くのに。
なら木剣でも力を引き出せるように訓練を……。
「……と思ってたんですけど、どうしてじっと見てるんですか?」
いい加減視線に耐えきれなくなって、声を掛ける。投げかけた先にいるのはシルフィさんだった。
中庭の訓練場所を囲む木の柵に肘をつきながら、私のことをじーっと見ている。
「え、見たいからだけど?」
「そんな当然みたいな顔されても」
「……ヴィーナって、変わったわね」
「そうですか……ね?」
自分ではそんな自覚は無いんだけど。あ、でも料理は少し上手くなったかもしれない。
今まではずっとおばさんに作ってもらってたし……出来ることが増えるというのは、やっぱり嬉しい。
「ええ、会った最初の頃はビクビクおどおどしてたっていうのに、今はなんというか……芯が出来たっていうのかな」
「いきなり部屋の扉を蹴破って現れられたら、そりゃビクビクもしますよ……」
「変わるのはいいんだけど……」
「いいんだけど……?」
「ライバルが増えるのはイヤよねー……」
「……? えっと……?」
最後だけよく聞き取れなかった。
変わらない方が良いってこと? ずっとビクビクおどおどしていた方がいいって……?
いじめっ子の思考なのかな。
「まさかヴィーナに罠にはめられるなんて夢にも思わなかったもん」
「罠って……」
言い方が悪いと思う。
私はごく普通に、シルフィさんとライラさんが仲直り出来る場所を用意しただけで。
二人にこっそりと、リースさんたちと手を組んで。
……あれ、言われても仕方ない気がしてきた。
「まあそれは置いといて。今日休みだし、一日あたしに付き合ってもらおうかな」
「シルフィさんに?」
「ええ、もしも断ったりしたら……ぶつわよ!」
「…………」
……えっと、それは……出会ってすぐの時の……?
「ほら、別に怖がったりしない……それどころか、なんで笑ってんのよ!」
「ふふ、いえ、実際は本当に殴ったりしないのに、とか思うと……可愛くて」
「…………」
「あいたっ」
おデコに衝撃。
衝撃の正体はシルフィさんの指先だった。デコピンされた?
「付き合うのは全然構いませんけど……行きたいところでもあるんですか?」
「無い!」
「何かに付き合え、とかではなく?」
「ええ」
……私、必要なのかな?
てっきり荷物持ちとか、そういった感じなのかと。
「鈍いわね、あたしがヴィーナと二人で何処かに行きたいだけよ」
「……なるほど、それならそう言ってくれれば」
「はいはい、悪かったわね」
木剣を片付けて、シルフィさんの元へと戻る。
「じゃ、行くわよ」
「はい……って、何処へ?」
「適当に!」
こうして今日の休日は、シルフィさんと町へ繰り出すこととなったのだった。
「…………見たまえエレナくん。青い春の匂いがここまで漂ってくるようだ」
「その表現は少しオヤジ臭いかと。あと盗み聞きは趣味が悪いです」
「しょうがないじゃないか聞こえてくるものは」
改めて説明すると、私たちカルディラ傭兵団の寮は町の防壁からはずれたところにある。
周囲には牧場や大きな畑、そして雑木林があり、人の気配はあまりない。
買い物をする時に毎度毎度町に出向くのは少し面倒だったけれど、町の賑やかさと寮の周囲の静けさが棲み分けられている感じがして、今となってはお気に入りだ。
「……やっぱりこの辺いいわね。あたしも寮に住み着こうかしら」
「やめといたほうがいいんじゃないですかね……」
「あらどうして? 一緒に住むのがイヤとか?」
「だって朝弱いじゃないですか」
遠征から戻ってきたその日とか、打ち上げパーティーを開催してそのまま泊まっていったりするけれど。
まー起きない。全然起きない!
ライラさんは惰眠を貪るけれど、寝起きは良い。彼女とはまた違う感じで深い眠りに入っている感じ。
「起こしてくれたらいいじゃない」
「……まあ、確かに」
頑張れば起きてくれるし、シルフィさんだけ違うところで寝泊まりしてるっていうのも寂しいし。
シルフィさんがこっちに来てくれればきっと楽しいと思う。
「……まあでもたぶん行けないけど」
「どうしてです?」
「夜に急に仕事が入った時に対応出来ないからね。それに皆いない寮に一人でいるのも……寂しいじゃない?」
なんて言ったって商会長。私には知らない多忙さがあるんだろう。
そこに軽々しく口を挟むことは出来ないし、その重圧を計り知ることも出来ない。
普段は商会長として毎日を忙しく生きてるなら……今日みたいな日くらいな、同世代の女の子として遊べたらいいな。
「そういえば、最近鉄が高くなったって聞いたんですけど」
「いきなり女の子とはかけ離れた話題持ってきたわね」
「ご、ごめんなさい……鉄を無駄遣いしてる身としては、気になってしまって」
「まあいいけど、鉱山の一部でガスが発生したみたいで、採掘がストップしてるらしいわ。ガスの元を塞ぐか、新たな坑道を別に作る必要があるみたいね。その目処はまったく立ってないから、一時的に高騰……って状態になってるみたいよ」
「そうなんですか……」
「……まあ、それに関しては鉄の値段どうこうより、ライラの方が心配なんだけど」
「ライラさんが? それはいったいどうして……」
「それは……」
シルフィさんが口を開こうとした時。
「シルフィちゃん!」
背後から呼び止める声がした。
二人で振り向くと、そこには息を切らせたライラさんの姿。寮から走って追いかけてきたのかな。
「ごめん、えっと、あの……あのね」
「…………ヴランの件?」
「……うん、そう」
「でもあんたが行って何が出来るの? 戻ってくるまで何年かかるの?」
「それは……」
……いったい、何の話だろう。
私にはわからないけれど、ライラさんの表情は今まで見たことないくらい不安に満ちている。
事情も何も知らない私が、簡単に手を貸すべきとも言えないし……。
その時、町の方からメイドの人が走ってくるのが見えた。
最初はエレナさんかと思ったけれど、違う人だ。見たことがある、カルディラ商会で働いてる人だった。
「……わかった、ありがとう」
シルフィさんに話しかけたあと、メイドさんは私たちに頭を下げて立ち去っていく。
「ライラ、事情が変わった」
「え……?」
「ヴランの鉱山でガスに引火して崩落事故が発生した。傭兵団として仕事を受けたから――全員で助けに行くわよ」
「……うん、ありがとう!」
未だに事情が飲み込めないけれど。
ただならない雰囲気なのは、間違いなかった。
「………………結局、二人の時間全然無かったじゃない。しょうがないけど」
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