27話 私が剣聖なんて、アリですか!?
「剣以上の攻撃範囲?」
「はい……そうなんです」
中庭にある鍛冶場。そこにいるフェンさんに、相談してみた。
内容はというと、コボルトと戦った時に感じた、あれ。
剣の力をすべて吸い出したような感覚。その結果剣で届くわけもない距離までまとめて斬れたんだけど……。
「槍でも持つかい?」
「いや、そうではなく」
「実寸以上の攻撃範囲なんて、それこそ魔法じゃないと無理だと思うよ。それでなくても、私は音で聞くことしか出来ないんだから」
確かにあれは、実際に見た人しか信じられないと思う。
そして、私しか見ていない。つまり……誰も信じてくれない?
「エレナくんはどう思う?」
「私は……そうですね、真っ先に逃げさせていただいた身分ですが、ヴィーナ様が剣一本でコボルトを一掃したというのも、にわかに信じ難いものがありますね」
「そうだねー……ヴィーナくんだものねー……」
「その納得の仕方は納得いかないんですけど」
確かにすぐ壊すけどさぁ!
好きで壊してるわけじゃないというか、ちょっと触ったら壊れたっていうか?
あ、ダメだ。自分が力を制御できない人にしか聞こえないや。
「じゃ……じゃあ! 今やるから見てくださいよ、エレナさんちゃんと見ててくださいね?」
そして用意した丸太を、中庭にある稽古場の端に置く。
私は反対側の端まで。この距離では槍でも届かない。届くとすれば、剣の力を引き出せたあの一撃だけ。
「いいですかフェンさん?」
「いいよ、音で大体の場所は把握したから」
練習用の失敗作の剣を握り、集中する。
剣先から力のようなものが集まってくる感じ。その力は剣を通して私の手に伝わってくる。
そう、これ。この感覚。
「……えいっ!」
力強く振り下ろした。風を切る重い音が響き、そして……。
「……どうなったんだい?」
「…………ええと」
答えにくそうにしてるエレナさん。
信じられない、といった感じかな。私だってそうだ。こんなの信じられない。
「……すごく力強い素振りでした」
「ちょっと待ってください!!」
前は出来たのに! 本当なのに!
なんで出来なかったの? 集まってくる感覚あったよね!?
……え? あれってただの勘違い? そんな気がしてただけ?
うわー……。
「……ほら、もしかして、失敗作の剣だから良くなかったとか……?」
「ヴィーナくん、こういう言葉を聞いたことはないかな」
「……なんですかぁ?」
ちょっと涙声になってた。
「道具のせいにしているうちは三流、真の一流は……」
「……ですよね、ごめんなさい」
「まあ背伸びしたい年頃だよね、わかるよ」
「違うんです! 本当に!」
「いいんだよ、キミにもそういう時期が来てるんだとわかっただけね」
からかわれてる、からかわれている。
お披露目のタイミングで失敗したわけだし、しょうがないかもしれないけど。
コボルトに使った時に成功した理由もわからないけど、なんなら今なんで失敗したかもわからない。
要するに何もわからない。
「フェン」
「ユノくん?」
そんな時だった。私の隣で突然声がしたかと思ったら、いつの間にかユノさんが隣に。
いつもの目深のフードにマスク姿。だけど隣にいるユノさんの距離がいつもより近い気がした。
「フェンは剣神って知ってる?」
「剣神っていうと……」
生まれつき剣の才があるものを剣聖。
努力で剣聖の領域にまでたどり着いたものを剣豪と呼ぶ。
そして剣神は……剣聖も剣豪も凌駕した、まさに剣の神と呼ぶべき存在。
「でもあれって、寓話……おとぎ話とかの話だよね?」
「一般的にはそう、でも剣豪も剣聖も実際にいる」
「……それで? いったい何故そんな話を? まさかヴィーナくんが剣聖っていうのかな?」
そんなまさか、みたいなニュアンスがフェンさんの言葉には含まれていた。私だってそうだ。
私がその……剣聖? って言われても、にわかには信じられないっていうか……。
でもユノさんは、いとも簡単に頷いた。
「うん」
「仲間だから贔屓目に見たいのはわかるけど……流石に剣聖っていうのは……」
「だけど、剣聖も剣豪もいる。私たちはそんな怪物を殺…………見てきたから」
……なんか、不穏なこと言わなかった?
どっちを深く聞くべきなんだろう、今の発言? それとも私のこと?
「ヴィーナは力も無いし、鈍くさいし、自信もない。剣豪には程遠い」
「さっきまで褒められてたはずなのに」
「にも関わらず何でも斬る。その代償として剣は壊れるけど」
「ヴィーナくんのその不自然さが、剣聖の兆しだっていうのかい?」
「うん」
私が、剣聖……?
自分の手のひらを見てみる、けれど何もわからない。そりゃそうだ。
「まあそれでもいいと思うよ。ヴィーナくんが本当に剣聖なんだとしたら傭兵団に箔が付くのは間違いないし、そんな彼女に剣が打てるなら鍛冶師としても名誉だからね。じゃあ、彼女の力はどうやって安定させるのかな?」
問題はそこ。剣が壊れなくなれば傭兵団の経済も助かるし、フェンさんも忙しくしないですむ。
それに私も申し訳ないし……壊れなくなるに越したことはないんだけど。
「それは知らない」
「知らないって……」
「でも、さっきから聞いてるとフェンはヴィーナの才能を見出そうとしてなかった。仲間の言葉を信じようとしてなかったから」
「………………ああ、そうだね。悪かった、確かにそうだ。ヴィーナくんすまない」
「えっ、いえ、別に……?」
「実際に見ないことには信じられない、という感じなだけだったんだ。言い訳に聞こえてしまうだろうけど、すまない」
確かに、自分の常識から離れた事を言われても、すぐに信じることは難しい。
例えばさっきのユノさんの不穏な言葉。実は暗殺者の生まれとか言われても信じられないだろうし。
「裏を返せば、この若さで剣聖の兆しがあることが目覚ましいともいえるね」
「そんな……私なんて、なんの力も無いし……」
「ヴィーナくん、私の二の腕を触ってみてくれないかな」
「なんですいきなり……?」
と疑問を持ちつつも触ってみる。
毎日ハンマーを振り下ろしてるからか、火に焼けた肌の下は筋肉でカチカチだった。
「硬いだろう? 胸は柔らかいんだけどね、揉んでみるかい?」
「大丈夫です」
「残念。それで? ヴィーナくんの腕はどうかな?」
言われるがまま自分の腕を揉んでみる。ちょっとだけ力を入れてみたりして。
でも。
「ぷにぷに……ですね」
「どれどれ」
「そっちは胸です! こっちです!」
まったく油断も隙もない! どさくさに紛れてセクハラしてこようとする。
隣にいるエレナさんも頭が痛そうな顔をしていた。
「そんな細腕で、そんな柔らかさで丸太がいとも簡単に斬れること、魔物が簡単に斬れることがおかしいんだよ」
「……それは……そうなんでしょうけど」
でも、実際に出来るんだし……剣が犠牲になるけど。
「ヴィーナのそれは間違いなく剣聖の芽。そして毎日訓練を続けてるヴィーナなら、いつか剣豪になれる日も来るかもしれない……たぶん」
「生まれつき剣聖であるヴィーナくんが剣豪に至るまで訓練をすれば……」
「いつか剣神になる……かも、たぶん」
「なるほど、それは確かに私の目が節穴だったみたいだ。ありがとうユノくん、教えられたよ」
私の話なのに、二人だけで盛り上がってる気がする……。
何故かユノさんは誇らしげだし、フェンさんは自分のことのように夢を馳せている。
二人にこうやって喜んでもらえるのは嬉しいけど……剣神?
荷が勝ちすぎてるどころの話じゃない。
「頑張ってヴィーナ」
「頑張れヴィーナくん」
「……え、あ、はい……頑張り、ます……?」
「……剣神って、頑張ってどうにかなる領域なんですか……?」
エレナさんの呟きは、二人の耳には入らなかったみたいだった。




