26話 仲直りをするのは、アリです!
……空気が重い。
「…………」
「…………」
寮のリビング、シルフィさんがお茶を飲んでる時にやってきたのは、寝起きのライラさん。
二人とも目を合わそうとも、会話もしようともせずに、それでも同じ場所に居続ける。
……たぶんこれ、あれだよね。
どっちも謝るタイミングを見計らってるように見える。ううん、そうとしか見えない。
取り乱して、進むべき道が見えなくなっていたシルフィさんを、ライラさんが煽って背中を押した。
けれどその背中の押し方が非常に乱暴だったおかげで、二人には確実に溝が出来ていた。
まだケンカしてるなら、同じ場所にいないだろうし、それに……。
お互いそんなにチラチラ見てないと思うんだ。視線がバッティングしないように交互に器用にチラチラと。
「ヴィーナ」
「ねえヴィナちゃん」
「…………」
「…………」
この空気に限界が来たのは二人とも同時。声をかけてきたのも同時だった。
お互いが譲り合うように沈黙の時間が再来。でも、たぶんそろそろ……。
「ただいまー! お仕事貰ってきたよー!」
リースさんだ!
彼女が家に帰ってくると、途端に部屋が賑やかに花が咲いた。
満面の笑顔を見せる彼女はウキウキで私の元にやってくる。
「ね、ね? 偉い?」
「はい、とっても」
「えっへへー!」
「ちょ……ちょっと待って、仕事ってなに?」
目を白黒とさせるのはシルフィさん。
商会長である彼女を飛ばして仕事を受けてきたことが信じられないみたいだ。
まあ、これは仕事といっても……。
「あのね、町外れの教会のお掃除の仕事を貰ってきたんだよっ!」
「教会なので報酬とかはないので……ボランティアみたいなものです」
町の片隅にあるエルシオン教会。
布教のために建てたその教会は、信者もこの国には少なく足を向ける人も少ない。
なので、教会周辺は荒れ放題、中はホコリが積もっていて廃墟同然って聞いた。
確か神父さんが一人だけ派遣されてるんだっけ、お年も召されてるみたいだから、掃除などには手が回らないみたい。
「へえ……リースやるじゃない、カルディラ傭兵団の名を上げるには確実な一手ね」
「えっへへ、ボスありがと!」
「じゃあ頑張ってきなさい」
そう言ってお茶タイムを継続しようとしたシルフィさん。
だけどその両脇を抱えるのは……。
「……リース!? ユノまで!?」
「今日はボスも一緒だよー!」
「なんで……なんであたしまで!?」
「たまには一緒にやろ」
ズルズルズル……。引きずられていく。
残されたのは呆気に取られたライラさんと私だけ。
「……もしかして、何か企んでる?」
「もしかしなくても、企んでます」
教会に行くまでネタバラシは出来ない。
私に出来るのは、悪戯っぽい笑みを見せるくらいだった。
……慣れないことをしたけど、上手く出来てたらいいなあ。
防壁の内側に入り、住宅街の隅にある教会。
建物自体の年季は入っていないけれど、周囲の草は荒れ放題。
長い物なら私の身長くらいの高さもある雑草まであった。
「リースさんが今日貰ってきたのは、草むしりと教会内部の掃除。後は裏にある薬草畑も草むしりですね」
おつかいを頼む度に迷子になるリースさん。持ち前の明るさは人と打ち解けるのが誰よりも早い。
知らない間に神父さんと知り合いになっていたらしく、最近の困りごとをよく聞いていたらしい。
「リースさんとユノさんは教会内部の掃除を。私は薬草畑の草むしりをするので……ライラさんとシルフィさんは、周辺の草むしりをお願いします」
「はーい!」
「わかった」
二つ返事をくれるリースさんとユノさん。
しかし返事をくれなかったのはライラさんとシルフィさん。どちらも顔が引きつっているけれど……。
「あの……ヴィーナ? どうしてあたしまで……」
「今日は戦闘もありませんし、ただの肉体労働です。それにボランティアなら、なおさら参加しない理由は無いと思うんですけど」
「でも、ほら、あたし基本的にデスクワーク中心だから、体力に自信が無くて」
「なら日頃の運動不足も解消出来ていいかもしれませんね?」
「う……っ、でも……」
チラリ、と横を見るシルフィさん。居心地の悪そうなライラさんの横顔を。
そう、これは二人を仲直りさせる荒療治。
いつまで経っても謝るタイミングを掴めない二人に共同作業させて、会話をするキッカケを持たせよう。
ユノさんも、もちろんリースさんも快諾してくれた。
「……はあ、しょうがない。やろっかシルフィちゃん」
「…………わかったわよ」
「じゃあリースたちは中やってくるねー!」
「がんば」
ライラさんは私の意図を読んでる。だからこそああやってシルフィさんに声をかけてくれたんだろう。
彼女もこのままじゃいけないと思ってたみたいだし……渡りに船と思ってくれればいいけどなあ。
……っと、私も仕事しなきゃ。
教会裏の花壇には、栽培している薬草が生えている。
家庭用で使う傷薬も、戦闘に使うポーションも、一般家庭では少しばかり高額だ。
少しの怪我を放置していて悪化してしまう、なんてケースも珍しくない。
そこでここの神父さんは薬草を安価で譲り渡していた。布教でもなんでもなく、町の人の為に出来ること。
そういった点では、この町ではエルシオン教よりも神父さんの信者の方が多いかも知れない。
「……あのさ、シルフィちゃん」
二人で並んで草むしり……とまではいかず、背中を向け合いながら作業していた。
だけどライラさんが思い切ったように口を開く。
「この前は、ごめんね……酷いこと言ったよね」
「…………正直に言えば、ムカついたわ」
「……うん」
「なんでこんなこと言われなきゃいけないの、って思った」
「……うん」
「でもそれは……あたしに気付かせるためよね」
シルフィさんもシルフィさんで気付いていたのだ。
背中を押すため、奮い立たせるためだって。ただやり方が本当に乱暴だっただけ。
「だから、ずっと言えなかったけど……ありがとう、ごめん」
「ううん、アタシこそごめん。本当に言い過ぎたと思ってる」
ここで、ようやく二人はお互いの顔を見る。
「仲直り……でいいのかな」
「ええ、そうね……これからもよろしく、従業員さん」
「適度にサボらせてくれるなら、かなー……雇用主さん?」
「ふふ……っ」
「あっはは……っ」
良かった。うまくいったみたいだ。
このまま黙々と作業されたらどうしようかと思ったけど。
元々お互いに関係を修復したがってたみたいだし、キッカケさえあればすぐだったのが、本当に良かった。
「でもライラ、あの時言ってたヴィーナのこと……本気じゃないわよね?」
「それは…………えーと……そのー……」
……おや?
なんか空気が不穏な方向に……。
「わっきゃー!!」
ガシャーン、とけたたましい音が教会の中から。
誰か、なんて考える必要なんて無い、リースさんだ。
「おっとお? リースちゃんのトラブルみたいだね、行こうシルフィちゃん」
「ちょっと!! 質問に答えなさい、こらあ! ライラ!!」
一時はどうにもならないかと思ったけど。
うまくいってよかった……たぶん、いったよね?
「……って、私も行かなきゃ!」
教会内部の惨状を想像しながら、早足で向かう。
また一つ、傭兵団の絆が強くなったのを実感しながら向かう足取りは、少しだけ軽かった。
読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ評価と感想を、よろしくお願い致します!




