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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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25話 見つけました、ユノさん!


 ユノさんを探しに、家を飛び出した。

 後は足を動かして探すだけ、なんだけど……。

 私はユノさんのことを全然知らないんだ。普段どうしてるか、とか。どういうところが好きか、とか。

 日は既に落ちかけていて、空はもう茜色を過ぎていた。


「じゃあ探してくるー!!」


 だだだー、と走り去っていくのはリースさん。たぶん闇雲にだと思う。


「私はリース様のサポートを。ミイラ取りがミイラになりかねませんので」

「エレナさん……お願いします! 私たちはとりあえず町中を探しましょう!」


 落ち着かない様子のシルフィさんと、いつもと変わらない表情のライラさん。

 二人を連れて町の中へ。入り口に立つ自警団の人に聞いてみたけれど、成果はなし。それはそうだろう、ユノさんが本気を出したら彼らに気付かれずに町に入るのはお手の物だろうし。

 ……あれ? じゃあどうやって探せば……。


「……ライラはあっちを探して。あたしとヴィーナはこっちを」


 いつの間にか落ち着きを取り戻していたシルフィさんが指示を出す。

 当てもなく探すよりも、これはずっと一緒にいたシルフィさんに従うほうが見つかる確率も上がるかも……。

 と、思っていたんだけど。


「シルフィちゃん、ちょっと待って」


 ライラさんが動こうとしていた足を止めた。

 表情は変わらない……ううん、少し怒ってるような……?


「結局さ、シルフィちゃんはどっちが良いの?」

「……は? こんな時に何の話を……」

「ユノちゃんがどうして飛び出してったのか、わかってるよね?」


 ……本当に、何の話を……?

 私だけ探しに行くわけにもいかないし、直接的な関係は無さそうだけど留まるしか無い。

 通りのど真ん中、空も暗くなってきて家に帰る人が増えてくる。そんな場所でシルフィさんとライラさんは睨み合っていた。


「アタシさー、金持ちは嫌いなんだよね。欲しいものが全部手に入ると思ってる、そんな傲慢なところがたまらなく嫌い」

「……なんなの? ケンカ売ってきてるってワケ? ただの雇われの分際で?」

「あーヤダヤダ、口じゃ勝てないからって身分差を強調して負かそうって考える。シルフィちゃんもやっぱりその辺の金持ちと一緒だったんだね」


 ……いたたまれない。

 通り過ぎていく人の視線が痛い。中には足を止めている人もいる。

 とりあえず探しに行くよう言いたいところだけれど、今の二人の耳に私の声が届くとも思えない。


「いったい何が言いたいのよ、こんな状況で言うからには、さぞ大事なことなんでしょうね?」

「言ったじゃん、どっちが良いのって。ヴィナちゃんとユノちゃん、どっちを選ぶの?」

「……はあ?」


 私無関係だと思ってたんですけど……!?

 ここに来て私の名前が上がった。どういうことかと視線を送るけれど、ライラさんの目はシルフィさんしか見ていない。

 こんな時に『私のために争わないで!』とか言えたらいいのに……。や、言えてたら今こんな性格になってないか……。


「ユノちゃんは今回、ヴィナちゃんばっか特別扱いするのが我慢出来なくなった。なのにヴィナちゃん連れたままあの子を探してさー、もし見つけても神経逆撫ですることになるとか、考えないわけ?」

「だって事実だもの、ヴィーナは私の特別」

「あ、あの……二人とも? ここ道の真ん中ですから……」

「それはさ、ずっと慕ってきてる子を視界の隅に追いやれるくらい特別だってこと?」

「当然じゃない」


 ……聞いてくれない!


「じゃあユノちゃんは諦めたらどうかな、もしくはヴィナちゃんはアタシがもらうってのは?」

「は!?」

「へ!?」


 なんでそうなるの……っていうか私の意思は!?

 二人とも私がここにいるって気付いてるよね……っていうか外だっていうのも知ってるよね!?

 みんな見てるよ!?


「シルフィちゃんにはユノちゃん、アタシにはヴィナちゃん。はい二つのカップリングかんせー」

「ふ、ふふふふふ……ふっざけんじゃないわよ!?」

「ふざけてなんかないよ、ヴィナちゃん可愛いし、柔らかいし、大人しいし、従順だしー」


 嬉しいけど……最後のだけなんかイヤ。

 って喜んでる場合じゃない、この羞恥プレイをなんとかして止めないと……!?


「走り回るくらいユノちゃんが大事なんだよね? じゃあヴィナちゃんちょーだい」

「あ、あのライラさん……冗談ですよね?」

「んー? 本気だよ」


 言いながらライラさんは私に手を伸ばす。

 その手つきは抱きつくかのような手つきだったけれど。

 ……その前に、反対側から引っ張られた。


「……冗談じゃない、渡すわけないじゃない。あたしはこの子に会うためにずっと頑張ってきたのよ、そう簡単に諦められるわけがないでしょ!」

「シルフィさん……」

「へえ、じゃあどうすんの? ユノちゃんは納得しないよ?」

「…………させてみせるわよ! あたしはヴィーナが特別! そのうえでユノも必要なの! 何が何でも納得させてやるわよ!!」


 私を絶対離さない、という風に腕にしがみつくシルフィさん。

 その腕は力強く、少しだけ腕が傷む。

 けれど振り払う気にはなれなかった。


「金持ちが嫌い? 金持ちと一緒? お生憎さま、あたしはメール村で大人しかった頃から強欲だったんだから、口数は少なくても求める物は人一倍多かった! だから今あたしは今ここにこうして立ってる!」

「……ふうん? 納得させるんだ?」

「ええ、絶対にね!」

「そうまで言うなら頑張ってみれば? もし出来なかったら指差して笑ってあげるからさー」

「そういうあんたこそ、後で上手くいってから謝っても遅いんだからね!」


 私から手を離し、ライラさんに背を向けるようにシルフィさんは立ち去っていく。

 そしてライラさんが私を見る目は、さっきまでとは違い……少しだけ困ったように笑った。


「わざと、なんですよね?」

「……やっぱ、わかる? 宙ぶらりんだったのがムカついてたのは事実だけど、ここまで発破がかかるなんてね。あーあ……クビにならなきゃいいけど」

「クビになったらなったで別の所を探すだけ……じゃなかったんですか?」

「うっ…………ここは、案外居心地がいいのよねー……」


 素直じゃない。

 でもそのひねくれた態度は……可愛く思えた。


「ヴィーナ、早く来なさい!!」

「あ、はいっ! じゃあ行ってきますライラさん!」

「うん、頑張れー…………あーあ、ヴィナちゃん手に入れそこねちゃった、結構本気だったのに」


 ……最後の言葉だけは、聞こえなかったことにしておこうっと。

 シルフィさんの背中を慌てて追いかける。大股で歩く彼女だったけれど、ライラさんが見えなくなった途端歩みは遅くなっていった。


「あんな挑発されるなんてね……」

「わかってたんですか?」

「見え見えよ。といっても……言われた時は頭に血が上ってそれどころじゃなかったけれど」

「……本当にわかってたんですか?」

「ええ、熱くなりすぎて今は逆に冴え渡ってるわ。その頭で考えれば、あの子がいる場所はここしか考えられない」


 大きな塀、大きな門。

 大きな屋敷があるその敷地は、何度も何度も足を運んだ。慣れ親しんだ場所。


「カルディラ商会……」

「ええ、あたしは確信してる。あの子がここにいるってことを」


 屋敷に入り、向かった部屋はいつもの執務室。

 何処からともなくハシゴを持ってきて、向かう先は天井裏。


「ヴィーナ、お願い」


 肝心の部分を私に託したシルフィさんの表情は、まるで祈るようだった。

 ここにいて欲しい、ここにいますように。

 そんな気持ちが痛いほど伝わってくる。


「……わかりました」


 天井裏を開いて、執務室の方向を覗き込んでみる。

 真っ暗で、埃っぽ……くはなかった、普段から人が出入りしてるからなのかな。

 そして、その出入りしてる人は……シルフィさんの想像通り、そこにいた。


「ユノさん」

「ヴィーナ……見つかったね」


 何を言おう。色々考えていたけれど、ユノさんを見ると全部何処かに行ってしまった。

 もう逃げて欲しくない。だから、だから……。


「帰りま――」

「わかった」

「そんなあっさり!?」


 私の横を抜け、天井裏から脱出。

 ……いや、いいよ? いいんだけど。そんなあっさり……!?


「ユノ……」

「シルフィ……」

「聞いて、あたしはヴィーナが一番大事。何よりも特別よ」

「ん……じゃあ、私は二番目?」

「ええ、そうね。ユノは二番目に大事よ」

「わかった。じゃあ私もシルフィのこと二番目に大事」

「……ちょっと待って、じゃあ一番目って誰!?」


 ようやく天井裏から脱出。

 ホコリは少なかったけれど、やっぱり狭くて居心地は良くない。

 それに、少ないだけでやっぱりあるし……っ。


「けほ、けほ……どうしたんですかユノさん、何かついてます?」

「…………別に?」

「ちょ……っ、まさか……嘘でしょ!?」

「どうかな」


 ……何の話?

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