24話 私が知らない話、です!
ユノさんを追いかけよう。
何処に行ったかわからないけれど、探さなきゃ。このままでいいはずがない。
シルフィさんは全員を見渡して、頭を下げる。
「ごめん皆、手伝って」
今この場で断る人なんて、一人もいやしない。
私も含め、全員は頷いた後に寮を飛び出していく。
「エレナくん、キミも手伝っておいで」
「ですがフェン様一人では」
「流石に人探しは役に立てないからね、留守番しておくよ」
「…………わかりました、行ってまいります」
そして傭兵団の寮にはフェンが一人残される。
「もう行ったよ。出てきたらどうかな…………ユノくん?」
「……気付いてたんだ」
リビングの天井裏から音もなく現れたのは、皆が探し求めている少女、ユノだった。
「気付かれるなんて、複雑」
「私は目が見えないからね、その代わり他の…………って、私の話はいいか」
「わたし、出ていく。皆には伝えておいて欲しい」
「ああ、わかった」
あっさりと。
小さな笑みを見せながら頷くフェンに、ユノは少しばかり目を見開く。
てっきり止められると思っていたから。
お決まりの言葉、月並みな言葉で引き止められ、それに対して言葉を返す想定をしていたからこそ、フェンの言葉には驚いた。
「私はここに来て一番日が浅い新参者さ、私なんかの言葉で引き止められると思えないんだよ。だからこそ私に出来ることはキミの言葉をしっかりと伝えることしか出来ない。キミの、仲間にね」
「仲間……」
「ああそうさ、ひとつ屋根の下で寝食を共にして、危険なこともただの雑務も共にしてきた彼女たちは、今やキミの立派な仲間だと思うよ」
「でも……わたしはいつも一人だった。ううん、気が付けば独りになってた」
真っ暗な暗闇。ピクリとも動かず、何日も何日もその場で待ち続けていた。
その結果は……孤独という末路。
フードを目深にかぶり、マスクで口元を隠し。感情を見せないように教えられてきた。
だけど無くなった訳じゃない。一人は寂しいし、誰にも求められていないというのは泣きそうになる。
「人に歴史あり、私もユノくんも例外じゃないね。だけどカルディラ傭兵団に来てからも孤独だったかな?」
「…………」
「その沈黙には意味があると思うよ。首を横に振るでもなく縦に振るでもないその沈黙には、キミが思ってる以上に尊いものさ」
「……なんか、意外」
「何がだい?」
「わたし……フェンのことは、ただのセクハラする人だと思ってたから」
先程までの重苦しい空気を吹き飛ばすように、フェンは大声で笑う。
「あっはっはっ、違いないね! まあでも、あれは私の処世術なんだよ」
「処世術?」
「そう、私の盲目は先天的なモノではなく後天的なモノでね。今まで出来ていたことが出来なくなった、という恐怖は私の精神をゴリゴリ削っていくのさ」
常に脳裏にこびりついていたのは、見えないという恐怖。
今この瞬間にも、誰かに見られているかもしれない。もしかしたら指をさして陰口をたたかれているかも。
疑心暗鬼、被害妄想。
本来明るかったフェンの少女時代は、すっかり影を落としてしまった。
「ハンデを持ち、暗くなってしまった子に対する周りの感情はどうなると思う?」
「……それはやっぱり……同情、とか?」
ユノの声を聞いたフェンは、自虐気味に微笑みながら首を振る。
「正解は面倒くさい、だったよ」
「フェンの所為じゃないのに?」
「そう、私の所為じゃないのに。もちろん最初は皆憐れんでくれたよ、率先して手を引いてくれたり、物を取ってくれたりね。でもそれが毎年、毎月、毎日やるとなると?」
「……なるほど」
「慣れっていうのは恐ろしいものでね。皆、私が見えないことに“慣れて”来るんだよ。かくいう私自身は、見えないことにずっと慣れないのにね。近くに人がいるにも関わらず、私は孤独だった」
頼み事ひとつ、ふたつ、みっつ。
次第に相手の声に怒気が見え隠れするのがわかった。
頼みたい、だけど頼めない。だから自分でやった。
見えない状態での手探り、失敗はするし、怪我もする。すると相手はより一層怒気を隠さなくなった。
悪循環だった。フェンは申し訳なさからより暗くなってしまい、暗い少女に周りはうんざりしてくる。
「だからね、無理してでも笑うようにしたんだ。私はこんな状態だけど世界を恨んでいません、私は毎日を楽しく生きています、ってアピールするようにしたんだ」
「どうなったの?」
出ていく、と公言したはずのユノは、いつの間にかフェンの近くの椅子に腰を下ろして彼女の話を興味深く聞いていた。
孤独という部分に共感したからだろうか?
近くに来たというのを感じたフェンは、薄く笑みを見せながら口を開く。
「うんざりしていた人たちは、また手伝ってくれるようになったよ。しょうがないな、と呆れながらもね」
「……なんか、現金」
「だろう? 私もそう思うよ。でもこの人たちはまた、私が明るいということにも慣れてくるはずとも思った。だから私は必死で練習したんだ、視覚以外の感覚を磨き上げるためにね」
「なら……今まで見せてたえっちな顔は、仮面だった?」
ユノが問いかける。すると先程までの穏やかな笑みから一転、いつもと同じ悪戯っぽい笑みを見せる。
「しかしその仮面は、私の顔にピッタリと張り付いて取れなくなってしまった。元々その素養もあったのかもしれないね?」
「やな素養」
「あっはっはっ、その通りだとも!」
言葉が途切れる。不快な沈黙では無いが、自分の頭の中を整理するには必要な時間。
彼女が何のために自分を語ったのか、決して無意味ではない。
「仮面をかぶる……シルフィの目が向かないことに、ヴィーナしか見てないことに……慣れろってこと?」
「いいや、それは悪手さ。私と同じ道を歩むだろうね」
「なら、やっぱりいない方が……」
「だけど、皆はいずれキミがいないことに慣れてしまうよ。キミもまた皆がいないことに慣れる。それでもいいのかな?」
「……それは」
イヤだ。思わず口から出そうになった言葉を思わずつぐんだ。
何故? 何故言えなかった?
認めてしまうのが怖かったのかも。口に出すと、それは想像じゃなくて現実になってしまうから?
しかし、最後の一歩を踏み出さないユノを引っ張るように、フェンはこんな言葉を投げかけた。
「惹かれていたんじゃないかな、いつも面倒くさそうにするけど本当は周囲を気にかけてるライラくん、ドジもするけれど底抜けに明るいリースくん、会長として傭兵団を作り上げた者として、私たちを拾い上げてくれたシルフィくん、そして……不慣れそうにしながらも、頑張ってリーダーを勤め上げようとしている、優しいヴィーナくんに」
「…………」
「認めた方が良い。心惹かれる仲間がいない現実に、慣れちゃいけない。居心地の良い場所を、自ら捨てることはない」
「……でも、シルフィはわたしを見てない。ヴィーナばっかりで、それを見てるのは……辛い」
「そうかな? 今も率先して探しに行ったと言うのに?」
半分以上意地のようなものだった。
ここで頷けば、飛び出した覚悟がなんだったのかと思えてしまうから。
でも、想像してしまった。
このままここに留まり、いつものようにシルフィの影を支える生き方を。
礼を言うシルフィが簡単に頭の中で蘇る。
……しかし、シルフィの向こう側に視線が行く。そこには。
笑顔でユノを褒める、ヴィーナの姿があった。
「……っ?」
「どうかしたのかい?」
「……なんでも」
どうして。彼女はシルフィを奪った張本人なのに。
ぶっきらぼうに接したのに、冷たく当たったのに。
それでもいつも自信が無さそうにユノを見つめ、少し受け入れると笑顔を見せるヴィーナが、簡単に想像できた。
「……わかった。わたし……残る」
「良い決断だと思うよ」
「でも……この勝負にわたしが負けたら、だから。わたしを見つけることが出来たら、その時は……」
「なるほどね……まあ、それもまた一興かもね」
フェンの知覚から、ユノの気配が消えた。
遠くに行ったのか、それとも完全に気配を消したのか。
「このかくれんぼ、見つけるのは一体誰になるのかな」
椅子に深くもたれながら、楽しそうな笑みを浮かべるフェンであった。
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