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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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23話 頑張ったのに怒られるなんて、アリですか!?


 無事に依頼を終え、今となっては我が家と言えるくらい住み慣れた寮に帰ってきた私たち一行。

 疲れはしたけれど達成感で胸いっぱいだった私は意気揚々と入る、なり……。


「…………」


 正座させられていた。

 目の前には椅子に座り、足を組んで冷たい視線で私を見下ろすシルフィさん。なんで?


「聞いたわよ」

「な……何をですか?」

「自分だけ残って、コボルトの群れと戦ったんだって?」

「はい……」


 良くやった。偉いわね。すごいじゃない。

 そんな感じの言葉を予想していたのに、シルフィさんの顔からはどう見ても讚辞が投げられそうじゃない。


「この……バカヴィナ!」


 ほらやっぱり、でもなんで!?

 全員怪我も無く、無事に戻った。あ、もしかして……。


「剣の入ったカゴを置いてきたことですか? あれは転がる木から逃げるのにそれどころじゃなくて……」

「あっははっ、あれはびっくりしたけど、面白かったよねー」

「…………」

「ねえ、なんでアタシってシルフィちゃんに睨まれてるの……?」

「恐らく、空気が読めないせいだと思われますが」


 シルフィさんの組んだ足のつま先が私の顔の前をブラブラと揺れ動く。

 その姿は、まるで女王様のよう。見下ろす細い視線が余計にそう思わせる。

 組んでいた足を下ろして、椅子から立ち上がって私の前に屈み込み、そして。


「なんでそんな無茶をするのよ!」

「……えっ?」


 私の頬を挟み込むように掴み、真正面に視線を合わせる。

 その瞳は……少し潤んでいるように見えた。


「一人だけ残るなんて、もしも勝てなかったらどうするつもりだったのって聞いてるのよ!」

「いや、あの、その……いけると思ってて……」

「思う、で自分だけ犠牲になろうとするなって言ってるの!」

「……あ、はい……」


「まあまあシルフィちゃん、結果的にアタシたち無傷なんだし、そこまで言わなくても――」

「結果的に無傷なのが問題なの。同じ状況になったらこの子またやるわよ。次もまた無事だとは限らないじゃない」

「……それは、そうだけど」

「だからって怪我して欲しいわけじゃない、せっかく仲間がいるんだから、頼りなさいよ!」


 あの時は、あれが最善だと思った。

 確かに根拠のない自信だった、だけど上手く行くとも思ってた。

 今考えると、戦闘でハイになってただけもしれないけど……でも、シルフィさんの言うこともわかる。

 私は仲間を頼るんじゃなく、仲間を逃がすことだけを考えた。

 それは傷付いてほしくなくて。誰も犠牲を出したくなくて。


「……シルフィ、でもあの時のヴィーナの指示は的確だった。非戦闘員のエレナを連れて行ったから、彼女を守るのを最優先にしただけ」


 意外にも、ユノさんが私の味方をしてくれた。

 ……でも、それは今度はユノさんが睨まれる行為でしかなくて。


「ユノ、あたし言ったわよね? シルフィのことを頼むって、なんであんたまで一緒になって逃げてるのよ!?」

「…………コボルトは包囲する知能を持ってた。なら退路先に隠れてる可能性もゼロじゃない、ライラとリースだけじゃ対応出来ないかもしれなかった、から……」


 ユノさんの言葉が尻すぼみになる。シルフィさんの目がどんどんと吊り上がっていくのがわかった。

 正直に言って、間違ったことはしていないと思ってる。誰も犠牲を出したくなかったし、私一人ならなんとか逃げられるとも思っていた。

 どうやって……と言われると説明するのも難しいけれど、あの時は謎の自信に満ちていた。

 それこそ戦闘ハイだったのかもしれないけど。

 でもシルフィさんが心配している通り、また同じような状況になったら……私は同じことをすると思う。


「あたしが……あたしが何のために傭兵団を作ったと思ってるの……?」

「それは……」


 ……シルフィさんのためじゃ?

 全員の思考は満場一致。無理もない、以前言ってたことだし。

 若くして大きな商会を作り上げたシルフィさんに敵は絶えない。そんな彼女のことを守るために、傭兵団を作り上げた……と。


「あたしのためっていうのはただの建前! いや、一部本当ではあるんだけど!」

「じゃあ、どうして……?」


 思わず口から漏れた。ようやくユノさんから離れて、私に視線が戻る。

 怯えきったユノさんが、とても可哀想に見えた。


「それは……ヴィーナ、あんたの為よ」

「え……? 私のため…………って、あれは冗談なんじゃ……」


 元々傭兵だったわけでもないし、戦士だったつもりもない。

 言ってしまえばただの村娘、近況を付け加えるなら引きこもりの村娘。

 そんな戦いとかけ離れた私のために、どうして傭兵団を……?


「そんなことない、あたしは過去、あんたに……ヴィーナに助けられた。同い年なのにとっても大きな背中を見て子供心ながら思ったの『ああ、この子は戦うことで輝くんだ』って。だからあたしは傭兵団を作る土台としてカルディラ商会を作ったの」


 コネも名声もない小さな傭兵団。

 維持費は? 拠点は? 雇用費は?


 そんなもの保証は何処にも無かった。長らく続く魔族との戦いで、冒険者も傭兵も今は沢山いる。

 じゃあ沢山いる中で誰を雇うか? 名声高く、腕が立つ傭兵に決まってる。

 その高みに至るまで……カルディラ商会を使って、高みに昇らせてくれるんだ。


「ヴィーナの……ため? あの時言ってたことは……本当だった?」

「ええそうよ、カルディラ傭兵団はヴィーナがいなくちゃ成り立たない。逆に言えば、ヴィーナ以外は誰でも良かった!」

「……ヴィーナ、ヴィーナ。ずっとヴィーナ……っ!」


 ……ユノさん?

 俯いて、震えて……。


「シルフィにとって、わたしって……?」

「はあ? 今そんな話をしてるときじゃ……」

「…………もういいっ」


 影が縫うように、ユノさんは部屋から姿を消す。

 残ったのは一陣の風と、開け放たれた扉のきしむ音だけ。

 ユノさんが依存していたのは知っていた。きっとシルフィさんも迷惑には思っていなかったはず。

 だから、今のは失言なんだと思う。ユノさんが去って行った扉を見つめるシルフィさんの表情を見ればわかる。


「シルフィさん」

「……なに?」

「申し訳ないですけど……私は、またやると思います」

「あんたね……っ!?」

「でもっ!」


 シルフィさんにまた火がつく前に、声を強く張り上げて言葉を遮った。


「でも、次も無事に帰ってこれるように、強くなります。それが私の役目だし……一番輝ける……ですよね?」

「…………ヴィーナ……」


 シルフィさんの瞳をじっと見つめる。

 自分より、周りの人が犠牲になってほしくない。だから同じ状況になったらきっと同じことをする。

 だけど次はそうならないように。そうなっても切り抜けられるように。

 今日以上に強くなる。明日よりももっと強くなる。


「…………はあ、そうね。悪かったわね、言いたいことばっかり言っちゃって」

「いえ、でもその言葉は私より……」

「ええわかってる、みんなごめん。あたしの都合で振り回して」


 ユノさんを除く全員に向かって、シルフィさんは謝罪の言葉を口にする。


「アタシは別にヴィナちゃん中心でも構わないよ。ゆるく働いて生きていけたらそれでいいし…………それにヴィナちゃんは良い子だしね。でも、次は同じ状況にならないように……少しだけなら、頑張ってみようかな」

「リースはボスに拾われてなかったら、今はここにいれてないから……ボスがヴィーナちゃんのため、っていうなら、それでいいよ! リースももっと皆を守ってみせるから!」


「ライラ……リース……」


「んー、とってもシリアスな空気だけど、疎外感というか外野感があるね。ま、私に出来ることは限られてるから、今まで通り頑張るだけさ」

「私は……いえ、私も外野だと思っていましたが、今回は当事者でしかありません。門外漢ではありますが、今後はお手伝いできるように……少し考えてみようかと思います」


「フェン、エレナ……みんな、ありがとう」

「だけど……」

「そうね、ごめん皆。ユノを探すのを手伝ってくれない?」


 断る人なんて、いるわけがなかった。

 シルフィさんも、ユノさんも。どっちも……大事な仲間なんだから。


 ユノさん……いったい、何処に……?

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