表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/37

22話 コボルトが罠なんて、アリですか!?


 剣神、と呼ばれる存在がいた。

 それは剣の道の頂点に立つ人物で、剣を持つ人間からはそれこそ神様のような存在。

 生まれつき持った天賦の才を持った人間を、剣聖と。

 才は無くても、自分の腕だけで高みに登った人間を、剣豪と。

 なら、剣神は?

 剣神とは剣聖と剣豪を更に越えた存在、更なる高みにいる――伝説上の称号。

 今の私は知らない。

 今の私が、最も剣神に近い――剣聖だと言うことを。




 険しい山道の中、草木をかき分ける音以外だと……ライラさんの愚痴が耳に届いていた。


「つ、疲れたぁ……ヴィナちゃん、休憩しよ……」

「またですか? さっきもしたばかりなんですけど……」


 朝早く出発し、もうお日様は頂点にあるけど目的地にはまだつかない。

 予定ではもう辿り着いてるはずだったんだけど……。


「いやー、もうマジ無理。斧重すぎ、なんでアタシ斧にしたんだろ」

「なんでなんです?」

「なんでだっけ……あ、そうだ、ツルハシに振り方が似てるからかな? ほら、アタシ元々鉱山の町の生まれだし」


 ……似てるのかな? 頭の中で想像してみる。

 うーん、振り下ろす時は確かに似てるかも知れないけど。


「でもそれって、ハンマーでもいけそうじゃないですか?」

「……言われてみれば。でもどっちにしろデカくて重いじゃん?」

「たしかに」


 でも重さで言えば、リースさんの大盾の方が重そう。

 なんだけど、元気っ娘のリースさんからしてみれば大した重さじゃないのかも? 今も鼻歌交じりに辺りを見渡してるし。

 それよりも大変そうなのが……。


「エレナさん、大丈夫ですか?」

「……問題、ありません」


 とてもそうは見えない。

 剣が詰め込まれたカゴを背負って、歩きにくそうなメイド服でついてくるのは問題ありありに見えた。

 額からは大きな汗を流し、常にぜえぜえと息は切れてるし……。


「ユノさん、目的地まで後どのくらいかかりそうですか?」


 姿が見えないけれど声をかけてみる。

 たぶん近くで警戒してくれているはず……たぶん。


「このペースなら後一時間くらい」


 よかった。近くにいたみたいだ。

 一時間くらいなら……休憩してもいいかな。ライラさんはともかくエレナさんは無理そうだ。

 腰を下ろそうとした、その時だった。


「ヴィーナ、休憩する時間はないみたい」


 何処からともなくユノさんの張り詰めた声が聞こえてくる。

 木の上にいるんだろうけど、何処かまではわからない。


「匂いを嗅ぎつけたのかそれとも散歩の時間か知らないけど、コボルトの群れがこっちに向かってる。数は五体」


 全員に緊張が走るのがわかった。

 無理無理言っていたライラさんも、斧を握りしめて立ち上がる。


「エレナちゃん下がってて。ヴィナちゃんが攻撃したら、彼女に向けてカゴの中の剣を投げる。わかった?」

「わ……わかりました……っ」


 どう見ても実戦慣れはしていない様子。

 ……といっても、私たちだってそうだ。元々全員ただの村娘で、戦闘なんてズブの素人ばかり。

 それでも、たった一度だけでも経験したからかな、ゴブリンのときより慌ててはいない。自分でわかる。


「来るよ」

「はい……! リースさん、一歩前に出てください」

「うん!」


 ガサガサとヤブが音を立てる。その向こう側から現れたのは……。

 コボルト。二足歩行の犬……という説明は少し乱暴過ぎるかも。

 大まかな説明としては間違っていないけれど、防具を装備し、武器を手にするという知能を持っている。

 けれどそれ以外は本能のまま生きるといった感じで、脅威度的にはそこまで高くない。

 でもそれは戦いに慣れた人の感想。私たちみたいな素人から見れば、一体だけでも恐ろしい存在だ。

 私たちの姿を見るなり、歯を剥き出しにして犬のようにうなる。


「ライラさんと私は一体ずつ相手にしましょう。ユノさんはリースさんやエレナさんに近付いたのを攻撃してください、リースさんは…………目を閉じないように!」

「わかったー!」


 リースさんの叫ぶような大声の返事に、コボルトたちはビクリと反応し……襲いかかってきた!

 手に持っているのは、ボロボロの剣や棍棒。誰かから奪った物なのかな……?

 ゴブリンとは違う、犬のように素早い踏み込み。土の上に大きな犬の足跡を残しながら……持っていた剣を振り上げる!


「うわわわ……っ!?」


 リースさんに向かったのは二体、それぞれ左右から攻撃を仕掛けている。

 でも目を閉じていなかったら攻撃が見えているみたいで、振り下ろされる方向に盾を向けて防御している。たぶん……大丈夫そうだ。

 大盾で弾かれ、バランスを崩したコボルト目掛けてユノさんが矢を放つ。一番戦闘慣れしていそうなユノさんの矢は、たった一発でコボルトを倒した。


「よ……っとぉ! なんだ、意外とやるねー」


 ライラさんはコボルトの攻撃を真正面から受け止め、押し返す。

 ガラ空きの胴体に斧を振るい、難なく倒していた。

 声の通り案外余裕そう。


 でも問題は私。

 戦闘は慣れてないし、怖いし、命のやり取りなんてしたくない。

 でもやらなきゃ……!!

 剣を振りかぶる。

 コボルトは私の動きを見て武器を構えて防御するけれど――。

 相手と私の武器が砕ける音と共に、倒れるコボルトの姿があった。


「ヴィーナ様、こちらを」

「わっ……ありがとうございます」


 難なく倒してる姿に恐怖が薄れてきたのか、エレナさんの声色もいつも通り。

 残るは一体、一体だけは何故か襲ってこなかったけど……。


「ヴィーナ、早く倒して。そいつ仲間を呼ぶ気だ」


 ユノさんの焦ったような声。

 その言葉を聞いてから近づこうとするけれど、もう遅い。

 大きく息を吸ったかと思えば、空に向けて遠吠えをした。

 思わず耳を抑えたくなるほどの大きな鳴き声、ビリビリと耳のあたりが振動する。

 そしてその声を聞いて……。


「ちょ、ちょっとちょっと……!?」

「ヴィ……ヴィーナちゃぁん……!」


 ……囲まれてる。

 最初の四体は威力偵察。相手をしている間に他のコボルトたちが周囲を取り囲んでたみたいだ。


「……一度下がりましょう、リースさんとライラさんはエレナさんを連れて山を降りてください。ユノさんは援護をお願いします」

「ですがヴィーナ様は!?」

「出来るだけ食い止めます。だからカゴは置いていっても構いません! 私が道を作ります、だからっ!」


 話し合ってる暇はない。こうしてる間にも、じわりじわりと囲む輪は小さくなっている。

 脅威度が低い? そんなことなかった、私たちにとって、コボルトは十分脅威だ。


「やあああっ!」


 剣を強く握る。山を下る方向にいるコボルトをまとめて斬り伏せた。


「今です、早く!!」

「……絶対、無事に帰ってきなよ!」

「はい! ライラさんもご無事で!」

「約束、約束だよっ!」

「もちろんです、リースさんもエレナさんのことをお願いします!」


 ライラさんはエレナさんを抱えて山を全速力で降りていく。

 コボルトが投げる石を、リースさんの大盾で防ぎながら姿は小さくなっていった。


「私、残ろうか?」

「いえ、まだ待ち伏せがいないとも限りませんから……あちらをよろしくお願いします」

「ん……わかった。シルフィーが悲しむから、怪我しないようにね」

「ありがとうございます」


 ガサガサと音を立てながらユノさんが遠ざかって行く。

 これで、私一人……。

 無謀とも言える、この行動だけど。

 だけど私には、秘策があった。寮で剣を振っていた時には出来なかった、秘策が。

 何度も何度も剣を振っていると、剣を握った指先から変わった力が流れ出そうになる感覚があった。

 その時、咄嗟にマズいと思って止めた、あの力を使えば……もしかしたら……!


「もう……取り囲む必要もなくなった、ってこと?」


 気が付けば、囲まずに目の前に全部のコボルトが集まっていた。

 歯を剥き出しにするその姿は、私のことを笑っているようにも見える。


「でも助かった……うん、助かったかも」


 絶対成功するとは言い切れなかったし。

 剣を一本カゴから抜き取り、強く握る。

 ……うん、この感覚だ。剣から力が湧き出てくるような、不思議な感覚。


「行くよ……っ!!」


 剣を横に振りかぶった。

 その攻撃は絶対届かない。そんな遠い場所からの攻撃だけど。

 ……今の私には、届く確信があった。


「ええええええええいっ!!」


 大きく振り抜く。

 剣は砕け散って、土の上に破片が散らばっていく。

 剣が届くはずもない距離にいたコボルトたちは……まっぷたつに斬られ、全部地面に崩れ落ちた。


「で……出来た……やった……っ!」


 喜びも束の間のこと。

 メキメキメキ。


「……何の音?」


 コボルトの向こう側、高く大きく伸びた木は私の剣で切り倒され、倒れてくる。

 何処にかって?


「うそ、うそうそうそうそ待って待って!?」


 重力に従い下り坂へ。

 つまり……私に向かってえ!?


「きゃああああああ!!」


 コボルトの群れは倒せた。

 けれど、何処か締まらない結末、だった。


「助けてえええええ!」

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価や感想を、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ