21話 二度目の魔物退治って、アリですか!?
「し……仕事を、持ってきたの」
これでもかと髪の毛を手入れされたシルフィさんが、机に突っ伏しながら息も絶え絶えにそう言った。
仕事があるなら、こんなことをしてる場合じゃなかったんじゃ……?
顔を伏せたままゆっくりと息を整え。
次に顔をあげた時は、いつものシルフィさんだった。
「ここから三日くらい行ったところにある宿場町の近くに、鉱山があるらしいんだけど。あ、もう廃坑なんだけどね。そこにコボルトが巣を作ったらしくて、それの討伐依頼よ」
「討伐……前回のゴブリンみたいに、護衛じゃなくて、ですか?」
「ええ、あのゴブリンのダンジョンとは違って魔族の土地からは大きく離れてるから、個体としての脅威度は下がるの。だから問題ないだろうと判断したわ」
魔物は基本的に魔族の土地で生まれる。
それは自然発生だったり、交配の結果だったりと、色んな説を論じられているけれど、どの説もただの推論に過ぎなくて、確たる証拠はどれもない。
何故なら自然発生だった場合、生まれる場所は魔族の土地。そんな場所でいつ起こるかわからない自然発生を待ち続けるわけにはいかないから。過去に何度か無謀な研究者が実地に出向いたけれど、誰も戻ってこなかったらしいし。
交配に関しては、最も数が多く捕らえやすいといわれているゴブリンだけど、オスしか見たことがない。
メスのゴブリンを見たことがなく、交配の研究が出来ないみたい。
「と、いうわけで皆出かけるわよ。さあ馬車に乗って!」
そしてゴブリンを始めとした小型の魔物には理性も知性も無く、巣を作ってひたすらに数を増やし続ける。
……のだけれど、魔族の土地から離れた場所に巣を作った魔物は数を増やすことが出来ず、また強力な個体へと進化する可能性も低い。
だからまだ駆け出しのような私たちでも対処できると、シルフィさんは判断したに違いない。
「ヴィーナ、行くわよ」
「……はいっ!」
寮を出て馬車に向かう。
馬車の荷台の中には座席と荷物置き場があって、そこには見慣れないカゴがあった。
木の皮で編まれた頑丈そうなカゴ。その中にあったのは、たくさんの剣。
「……これは?」
「ヴィーナ用の剣よ」
「こんなに?」
「こんなに必要になるくらい砕くでしょ」
言い返せなかった。
「あ、そうそう。目的地は廃坑らしいけど、もしも鉄とかが残ってたら掘ってきて、こっそりね」
「……いいんですか?」
「いいわけないじゃない、だからこっそりよ」
その時のシルフィさんは、とても悪い顔をしていた。
兎にも角にも出発。ユノさんもシルフィさんと共に残ろうとしたけれど、それは却下されたらしく渋々座席に座っていた。
「って、あれ? エレナさんも行くんですか?」
「はい。と言ってもフェン様の指示ですが」
「皆にはそれぞれ役割があるだろう? となると剣を砕きまくるヴィーナくんに剣を放り投げる人材が必要だと思ってね。あ、もちろん心配いらないよ、この家のことはすべて把握したからね」
「フェンさん……ありがとうございます」
「もしお礼がしたいというなら、帰ってきた後に冒険譚を聞かせてほしいな」
「あはは、はい。わかりました」
「もしくはそのスケベハンドで――」
「さあヴィーナ様、参りましょう」
嫌なことを思い出させないで欲しい。
私とエレナさん以外は既に乗り込んでいて、走り出すまでめいめいに過ごしていた。
緊張してるのは……リースさんだけかな? ユノさんはいつも通りだし、ライラさんは寝てるし。
「鉱石がありそうかそうでないかは、ライラに聞いて。鉱山の町生まれらしいから、他の誰よりも詳しいはずよ」
「わかりました。じゃあ……行ってきます!」
「行ってらっしゃい。ユノ、シルフィのこと頼んだからね」
「ん、任せて」
御者にエレナさんが乗り込んで、馬車は進み始める。
半日ごとに宿場町で休みを取りつつ、目的の場所へ。
道程で特にアクシデントもなく、順調に目的地へ――
「つい……たぁー!!」
馬車に降りるなり、リースさんが大声を上げながら両手を高く突き上げた。
「まあ、半日馬車に乗って宿場町で寝て、また半日馬車に乗って……って繰り返してたら、そりゃ動きたくもなるよねー」
「ライラさんもそうなんですか?」
「あたし? まさか、ずっと寝てられるから馬車最高よ」
でしょうね、ずっと寝てたし。
宿でもグッスリだったらしいし、馬車でもずっと寝てたし。
一日の殆どを寝て過ごしてるけど、寝れないなんてこと…………無いんだろうなあ。
「今日は宿に泊まって、明日から取り掛かりましょうか」
「りょーかい! ね、ヴィーナちゃん、散策しよ!」
ライラさんとは正反対に、体を動かせないことが我慢ならないようで、喋りながらも私の周囲をグルグルと回っていた。
でも確かに、私も少し体を動かしたいかも。
「ユノさん…………はもういないし、エレナさんはどうしますか?」
ライラさんは馬車でもう寝てた。
「私は馬の世話もあるので結構です。それに、明日実際に戦われるのは皆様なのですから」
「でも……」
「明日のために、どうか英気を養ってくださいませ」
深々と頭を下げて言うエレナさん。
取り付く島がない、というか……何処となく距離を感じる。
仕事に徹するというか、あくまで仕事で一緒にいる、という雰囲気。
出来れば仲良くしたいけど、まずは明日の仕事に集中しよう。なにせ実戦なんだ、余計なことを考えると命がいくつあっても足りない。
「あの見えてる山かなぁ?」
「聞いていた情報によると、確かにあそこみたいですね」
歩いて二時間くらい、ってところかな。
近いというわけでもないけれど、遠くもない。
この中途半端な距離が、この宿場町で住んでいる人たちにとっては恐怖でしか無い。
……明日は、絶対何がなんでも、成功させないと。
「……ヴィーナちゃん、怖い顔してるよ?」
「あ、ごめんなさい」
「怖いの?」
「いえ…………ううん、怖いかも、ですね」
「大丈夫だよ! リースが守るから! なんたって、リースは盾を持ってるんだからね!」
私に抱きつきながら励ましてくれる。
……そうだよね、私だけで戦うわけじゃない。
リースさんも、ライラさんも、ユノさんも。
全員が、一丸となって。
「明日……頑張りましょう!」
「うんっ!!」




