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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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20話 いまさら転職なんて、ナシです!


 今日も一日が始まる。


 とっても平和な一日、傭兵なのにそれはどうなの、って感じはするけど。


 でも平和が一番。そう、いちば――


「ヴィーナちゃんヴィーナちゃん!!」


 リビングでのんびりしていると、やってくるのは台風みたいな女の子。


「リースさん、おはようございます」

「おはよう、髪の毛やって!」

「うっ」


 ゴム片手に私の膝の上に飛び乗ってくる。背中を向けながら見えるそれは、ボサボサの後頭部。

 オレンジ色の艷やかな髪の毛が、くるくるとうねるように跳ねる。

 手ぐしで整えていきながら思う。


 ……どうして私は、リースさんの髪の毛の手入れをしてるんだろう?


 迷子の女の子を無事届けたリースさんを褒めた翌日……というかその日から、妙に打ち解けた。

 それ自体は嬉しいことだし、良いことだと思うのだけれど……。

 リースさんのぶきっちょで、ショートポニーが毎日色んな場所にあるのを見る楽しみが減ったという点は、マイナスかな?


「ヴィーナちゃんに髪の毛やってもらうの好きー。なんか気持ちいいんだー」

「もうすぐ終わりますからね」


 癖っ毛というわけでもないので、手ぐしですぐにまっすぐになる。

 後は結んで終わり。いつものショートポニーのリースさんの出来上がり。


「終わりましたよ」

「…………」


 膝の上から降り、頭の後ろにあるポニーを指でもてあそぶ。


「ありがとっ!」

「ズルい!!」

「……え?」


 いきなりリビングに響き渡った怒声は、私の声でもリースさんの声でもない。

 なら一体誰なのか? それは……。


「リースだけズルくない!?」

「シルフィさん?」


 シルフィさんだった。

 ユノさんが警護のように傍らに立っていて、いつものようにフードをかぶってマスクをしている。

 というか……ズルいって?


「あたしにもやりなさい」

「いやでも、やってって……」


 シルフィさんの髪を見てみる。

 二つに結ばれたツインテール。もう私の出る幕はなさそうなんだけど。

 その私の戸惑いは彼女にも伝わっていると思う。すると彼女が取った行動は……。


「ホラ、ハイ」

「ってなんで解くんですか!!」

「じゃないとやってくれないでしょ!」


 ……そこまでして、私にやらせたいのかな。

 まあ、別に重労働ってわけじゃないからいいけどね。


「じゃあよろしく」

「うぐっ……し、シルフィさん……そこの椅子に座ってもらえませんか……?」

「リースは乗ってたのに?」


 リースさんは小柄だから、まだ耐えれたけど……。

 ちなみに一番小さいのはユノさん。聞けば最年少だとか。

 でも同い年のシルフィさんは私と似たような体格で、そうなると……やっぱり、ちょっと……重い。

 でも、直接言うわけにもいかないし……。


「あははっ、ボスって結構あまえんぼなんだね!」

「…………」


 リースさんに冷やかされたのが嫌だったのか、椅子に座り直して背を向ける。

 今彼女がどんな表情をしてるか確認は出来ないけれど……。

 と、とりあえず結んでしまおう。えっと、ツインテールだから……。


「……っ!」


 綺麗な黒髪に指を通して整えると、シルフィさんの体がビクリと震えた。


「大丈夫ですか……!?」

「へ、平気……ちょっとびっくりしただけだから」

「じゃあ……続けますね?」

「え、えぇ…………ひうっ!?」


 手ぐしすると、ビクビクと体が震える。

 くすぐったがりなのかな?

 なら早く終わらせないと。

 背中まで伸びる長い黒髪を半分持ち上げ、ゴムを通していく。


「っ……! っ…………!!」


 後はもう半分を、同じように……。


「うぅ~…………!!」

「……よし、終わりました」

「はぁ……っ! はぁ……っ!!」


 前からも見て、位置がズレていないか確かめる。うん、大丈夫。

 ……何故かシルフィさんの顔が真っ赤だったけど。


「……この……えっち!!」

「なんでですか!?」

「ふぁぁ……騒がしいなぁ」

「あ、ライラさん。おはようございます」


 頭をボリボリとかきむしりながら起きてきた。


「ヴィナちゃん、ヘアスタイリストにでも転職したの?」

「いえ、そういうつもりは無いんですけど」

「ふ~ん…………ね、あたしのもやってよ」

「えっ」


 ライラさんは自分のことに無頓着というかなんというか。

 面倒なのが嫌いって感じで、いつもボサボサのままなのに。


「よろしくー」

「え、えっと……じゃあ」


 茶色の髪に指を通す。

 ……おお、すごく髪質が硬い……。

 これでこの癖っ毛だと……手だけじゃムリかも……。

 というか腰まで届きそうなんだ、すごく長い。

 うーん、どんな髪型がいいかなぁ……。

 手ぐしで整えながら考えていると。


「……ごめん、やっぱいいや」

「え? どうしました?」

「ヴィナちゃんに髪の毛触られると、すっごいゾワゾワする。すごいね、スケベハンドだね」

「スケ!?」


 そんな不名誉な名前イヤだ!?

 っていうか、言われたからやっただけなのに、なんで私が!


「ヴィーナ、もう一回やって!」

「シルフィさん!? なんで解いたんですか!?」

「最後がライラっていうのが気に入らないからよ!」


 せっかく頑張ったのにっ!

 ライラさんを押しのけるように座り、さっきと同じように背中を向ける。

 ……やるけど、やるけどさぁ……。

 頭に駆け巡るのは『スケベハンド』という単語。

 言われないように……ゆっくり、ゆっくり…………。


「っ……!? ひあああ!?」


 バッ、と離れていった。どうして。


「や……優しく触りすぎて、もっと悪い!」

「そんなぁ!」

「あっははっ! シルフィちゃんはヴィナちゃんを独占したいんだねー」

「……むぅ」

「ユノさん、睨まれても困ります……」


 とはいえ、結ばないままというわけにもいかない。

 暴れるシルフィさんをリースさんとライラさんで取り押さえ、結んでいく。


「ちょ、は、離してえっ!!」

「ムリムリ、こんなに楽しそうなことやめられないー」

「ボス、もうちょっとの我慢だから!」

「いやああああっ!!」


 一方、寮の入り口近くの鍛冶場では。


「エレナくん、これは私も行くべきかな!? スケベハンドを味わうべきかな!?」

「いいから仕事してください」

読んでいただきありがとうございます。


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