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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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19話 頑張るお姉ちゃんは、アリです!


「……何処、ここ……?」


 リースさんの手伝いをするべく、スキップしながら上機嫌の彼女を追いかけた私。

 だけどリースさんに追いつくことは出来ず、見失った私は帰り道まで見失ってしまった。

 慣れたはずの王都だったのに、まだまだ知らないことがいっぱいある。

 ……なんて、考えたところで現実逃避なことには変わりないわけで……。


「い、いったん大通りに…………でも、大通り何処ぉ……?」


 グルグルグルグル、何度も同じところを通ってる気がして、急に不安になってきた。

 ミイラ取りがミイラになる。狩人罠に掛かる。

 不吉な言葉が頭の中を何度も何度もよぎって、目から涙が流れそうになった時だった。


「……? 泣き声……?」


 小さな声だったけれど、誰かが泣いている声がした。私じゃないはず、たぶん。

 ……もしかして、リースさんが迷子になって泣いてるとか!?

 少しだけ足早に泣き声の場所へと向かう。

 リースさんが泣いてるなら、助けてあげないと!

 まるで自分が泣きそうなのを誤魔化すための言い訳に聞こえたけれど、それはきっと気のせい、うん。


「あ、いた……けど……?」


 少しだけ広い道に出た。

 小さな川があり、橋がかかっているその真ん中には、確かにリースさんがいた。

 でも泣いてる子は別の子だった。小さな女の子。

 迷子なんだろうか? 妙な親近感が湧いたのを慌てて振り払う。

 すぐそばでリースさんがしゃがみ込むけれど、女の子は気付く様子もない。


「どうしたの? 迷子?」

「あああぁん! あああぁん!」


 答える様子はなく、小さな二つの腕で目から流れる涙を拭い続ける。

 だけど泣き続けている以上、涙はどんどんと次から次へと溢れてくるわけで。


「……うーん、困ったなぁ」


 泣き続ける女の子、すぐそばで困り顔の少女。

 通りかかる人たちは、親身になってくれるどころか迷惑そうな顔をして遠ざかって行く。

 私も姿を見せれば良かったけど、何故か隠れたまま様子を伺っていた。

 何故自分がそうしたのかわからない。それを考えている暇はなく、橋の方から声がした。


「~♪」


 さっきまでスキップしながら口ずさんでいたメロディ。

 といっても、女の子を置いて立ち去ろうとしているわけじゃない、女の子に聞かせるように口ずさむ。

 隣にいる知らないお姉さんが、唐突に歌い始める。

 泣きじゃくっていた女の子は、ふと泣き止んでリースさんの方を見た。


「お姉ちゃん……誰?」

「リースはリースだよ、キミは?」

「ミュー……」

「ミューちゃん! こんなところでどうしたの?」

「ミュー、ママが……いなくなって……うぇぇ……」


 また泣き始める。そう私が思うより早く、リースさんは立ち上がった。


「そっか、じゃあ探しに行こう!」

「え……?」

「ママに会いたいよね? じゃあ探しに行こう!」

「……うんっ!!」


 リースさんが差し出した手を、ミューちゃんはギュッと握って歩き始める。

 泣かないようにさっきのメロディを口ずさみながら、遠ざかって行く。

 ……って、出るタイミングのがした!?

 しょうがない、このまま後ろで見守りながら行こう。周囲の人からは怪しい人物、みたいな視線を送られてるけど……。


 それからの旅路は、散々なものだった。いや、私じゃなくてリースさんたちが。

 花壇を蹴飛ばし、持ち主に怒られて新しい花壇に植え替えたり。

 リースさんが水たまりで転んでびしょ濡れになったり。

 何度も何度も行き止まりにぶつかったり。


「うーん……広い道に出ないね?」


 そんなトラブルに何度も見舞われ、女の子も泣きじゃくるかと思いきや……。


「そうだね……」


 さっきよりも何処か大人びた顔を見せる。

 でも、私にはミューちゃんが何を考えているのかわかる。今、あの子の頭の中にはきっと。


――私がしっかりしなきゃ……!!


 だと思う。ううん、きっとそう。

 なにもないところで転んだり、あえてトラブルの方向へと行こうとしているかのようなリースさんの姿を見ていると、自立心がぐんぐんと芽生える。わかる、すごいわかる。


「お姉ちゃん、次こっち行こ!」

「ああ、周り見ないと危ないよ!」

「……お姉ちゃんには言われたくないかも……」


 そう言いながらリースさんの手を引いて、先導し始めるミューちゃん。

 だけど……。


「……わっ!?」

「うわあぁ!?」


 甲高い鳴き声と共に、二人は大きく仰け反る。

 一体何が……?

 ……ああ、そうか。ミューちゃんが野良犬の尻尾を踏んでしまったようだ。

 痛みと驚きから、野良犬は牙をむき出しにして二人を睨みつける。


「お、お姉ちゃん……っ!!」


 助けを求めるように一歩、二歩と下がる。

 それに合わせるように野良犬も歩を寄せる。

 ……助けないと! 私が身を出すよりも早く、野良犬は大きく口を開いて飛びかかる!


「……うぅ!!」


 ミューちゃんを庇うように片手で抱き寄せ、もう片手を野良犬に向ける。

 野良犬はリースさんの腕に噛みつき、獰猛な唸り声を上げた。


「ごめんね……わざとじゃないの。痛かったよね、ごめんね」

「……お姉ちゃん……」


 リースさんの痛みにこらえながらの謝罪は、何度も続く。

 ずっと唸り声を上げていた野良犬も、リースさんの謝罪が届いたのか……噛みついていた口を離す。


「お姉ちゃん、血……!」

「え? あ、うん、大丈夫だよ」

「でも……」


 野良犬も謝罪するかのように、傷跡をペロペロと舐める。


「あはは、くすぐったいよ。ありがとね」


 リースさんが頭を撫でると、野良犬はされるがまま目を細めていた。

 ……って、また出るタイミングのがした……。


 それから。

 城門からの中央の大通りに出たとき、ミューちゃんのお母さんと出会う。

 ママと合流できたミューちゃんが大きく手を振りながら立ち去っていくのを、リースさんも同じく手を振りながら眺める。


「……さて、買い物しなきゃ!」

「言ってる場合ですか!?」

「ヴィーナちゃん!?」

「帰りますよ、傷を手当しないと!」


 噛まれた方とは別の腕をグイと引っ張る。


「でも、買い物……」

「後で、です! 手当て終わった後に私も付き合いますから!」

「う、うん……今までに無いくらい強引だね……?」

「頑張ってました、からね」

「……見てたの!?」

「はい、出るタイミングがなくて、そのまま……」

「声かけてくれればよかったのに」


 本当にね。どうして見てたんだろう。


「リースさんは偉かったですよ」

「えへへ……ホント?」

「はい、カッコいいお姉ちゃんでした」

「なら……良かった! ホントはミューちゃんを、ちゃんとお母さんに会わせてあげられるか不安だったの。泣きそうだったんだぁ」

「でも、会わせることが出来ました」


「――うん! 本当に良かった!」


 そう言って笑うリースさんの笑顔は。

 ドジっ子ではない、お姉ちゃんとしての笑顔だった。

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