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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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17話 宴会で振り回されるなんて、アリですか!?


「あっはっはっ!! いやー、楽しいねえ!」

「ほんとほんと、あっはは!!」


 というわけで、フェンさんとエレナさんの歓迎会の真っ最中。

 私が料理を作って並べている間にも、唯一お酒が飲める年齢のフェンさんとライラさんはすっかり出来上がっていた。

 ジョッキをぶつけ合い、酒を酌み交わす。

 その光景は村の宿場でも、町の酒場でも……傭兵団の家の中でも変わらないみたい。


「ヴィーナ様、お手伝い致します」

「エレナさん? いいんですよ、今回の主役の一人じゃないですか」

「……いえ、今あの方の近くにいると無理やり飲まされそうなので」


「おやぁ? エレナくん!? エレナくんは何処かな!?」

「フェンちゃんが絡むから逃げちゃったよー! あっはははっ!!」

「ちゃん!? ちゃん付けとはこれまた新鮮な! あっはっはっ!!」


「……なるほど、確かに」

「でしょう? ですので避難させていただく意味でも、お手伝いさせていただければと」


 シルフィさん、リースさんにユノさんの三人の未成年組も早々にお酒の席から遠ざかったところで話に花を咲かせていた。

 お酒は、人をダメにするんだなぁ……。


「いえ、どちらかというとお酒を飲んだあの方がダメなだけです」

「……今、私声に出してました?」

「飲んだあの方を見て、私が常々思い至ることなので」


 肉を焼いても焼いても追いつかない、お酒のツマミに消えていく。

 あとリースさんがすごい速度で食べてる!


 シルフィさんとユノさんは私が作ったコーンスープに舌鼓を打っているらしく、時折おかわりを注ぎにやってくる。


「そういえば、エレナさんって幾つなんですか?」

「……何故、そのようなことを?」

「エレナさんは所作も綺麗で落ち着いていて、大人の女性っていうかメイドの鑑っていうか……そんなとき、見ていて思ったんです。何歳くらいなのかなって」

「秘密です」

「え、どうして――」

「秘密だからです」


 どうやら禁句みたいだ。

 ……ま、まあ、いいか、うん。年齢なんて大した問題じゃない。

 それよりも酔っ払い二人の食べる速度に合わせるように料理を作らないと!


「ヴィーナ様、これで如何でしょう」

「はい……ってうわ、なんですかそれ!?」

「見ての通り山盛りサラダです」


 お皿にうず高く盛られた葉野菜の山。

 ところどころに色の違い野菜を盛り付けて、見た人を楽しませる工夫がなされている……じゃなくて!

 持っていけそうにないんですけどっ!


「肉と酒ばかり摂取している山賊のようなお二人に、ぜひぜひ食べていただけたらと思いまして」

「な……なるほど?」

「ですので、お願い致します。料理は私が引き継ぎましょう」

「って私ですか!?」

「はい、絡まれたくありませんので」


 私も絡まれたくないです。

 と、抗議を申し立てたところでしょうがない。大人しくサラダを運ぶことに。


「ヴィナちゃん! 野菜じゃなくて肉ちょうだい、肉!!」

「ダメです、お野菜もちゃんと食べてください!」

「ヴィーナくん! ヴィーナくんちょっと来たまえ!」


 逃げようとしたけれど、既に腕を掴まれていて逃げられない。

 大人しくフェンさんの隣に座ると、ガッチリと肩を組まれる。もう逃げ場はないみたいだ。


「あ、そうだ。ヴィーナくんで思い出した。ライラくん、作った斧はどうだい?」

「斧~? あー、そうだねー……手に馴染むといえば馴染むけどー……やっぱり使う機会が無い方がいいかなー?」

「あっはっはっ! そりゃそうだ、でもそうなると私の仕事が無くなってしまうよ!!」

「これ、私いらなくないですか?」

「でもどうしてだい? 傭兵と来れば武器を振るうのが生業というものだろう?」

「アタシは元々戦士じゃなく、ただの鉱夫だしねー」

「聞いてます?」


 絶対聞いてない。

 エレナさんに助けを求めるべく首を動かして当人を見ると。

 何故か笑みを浮かべていた。どうして?

 普段はエレナさんがこうやって絡まれてるから、自分が絡まれなくて良かったってこと?

 私身代わりじゃない!


「ちょっとフェン! ヴィーナを離しなさい!」

「これはこれは雇用主様! ご機嫌うるわしゅう!」

「麗しくないわよ、ヴィーナから離れないんだから!」


 これはまさしく宴会。

 参加者の全員がビックリマークをつけて喋るくらい盛り上がっている。

 嬉しい、それに楽しい。なんだけど……。


「ねーヴィーナちゃーん! こっちお肉なくなったー!」

「……むぅ、ヴィーナばっかりシルフィに心配されてる……!」

「ヴィナちゃん、こっちもお肉なくなったよー!」

「早くヴィーナを離しなさい!」

「嫌だとも、柔らかくて良い匂いで抱き心地は最高! 今日から私の抱き枕だよ!!」


 収拾がつかない事態になってるのは間違いないわけで。


「ふう、やはり料理は良いですね」

「一人だけ遠くに離れていられるからじゃないですか!?」

「もちろんです。騒がしい場所は遠巻きに眺めている方が楽しいというものです」

「当事者になりたくないだけですよね!?」


 ビックリマークと笑い声が途絶えない歓迎会はまだまだ続く。

 本日分の料理が底を尽きても、まだまだ終わる様子は見せない。

 何故なら。


「料理の後はお風呂に行こう! 裸の付き合いで親睦を深めようじゃないか!」


 なんて、おじさんっぽいことを歓迎される人が言い出したからだった。


 ……というわけで、浴場にやってきた。

 ちなみにライラさんとリースさんはそれぞれ酔い潰れ、そして食い倒れている。


「よーし、お風呂だお風呂だ!」


 ポイポイと恥も何も無いかのように脱ぎ捨てていくフェンさん。

 最初は人をからかうのが好きなお姉さんなのかと思っていたけど、どんどんおじさんっぽくなるなぁ……。

 お酒のせい? お酒のせいなの? やっぱりお酒を飲んだフェンさんはダメな人なの?

 脱ぎ捨てた服を拾い上げ、畳んで置いておく。


「ヴィーナ、行きましょ」

「あ、はい。ちょっと待ってください」


 シルフィさんを追いかけるように服を脱いで、浴場に入る。

 出迎えてくれるのは湯気と……フェンさんの騒がしい声。


「いやいや、これは良いお風呂場だね、まあ見えないんだけども!」


 反応に困るジョークはやめてほしいかな。

 見えない、と言いつつ危なげない足取りで歩いて行くフェンさんは……。


「あっ」


 ザッパーン、とお風呂にダイブした。


「ぶくぶく……」


 って違う、見えてないから入っちゃっただけだ!?

 起き上がれないのか、溺れてるように見えるけど!?


「エレナさん、エレナさん!?」


 フェンさんのメイドであるエレナさんに助けを求める。

 当の本人は背中を向け、体を洗っていて……。


「本日の業務は終了致しました。またのご利用をお待ちしております」

「そんなー!?」


 慌てて助け起こす。


「いやー、死ぬかと思った!」

「なんで笑ってるんですか……」


 このテンションの高さ、ついていくのが必死で疲れる……。

 ……と思っていたけれど、肩までお風呂に浸かるとようやく静かになった。


「……はあ」


 歓迎会だからしょうがないとはいえ……疲れた、本当に疲れた。

 体を洗って、私もお風呂に体を沈める。


「お疲れ、ヴィーナ」

「シルフィさん……本当に疲れました」

「ま、ヴィーナが頑張ってくれたから、あたしはリフレッシュ出来たわ。本当にお疲れ様」

「リーダーであるシルフィさんのお手を煩わせるわけにはいきませんからね」

「それは違うわよ」


 何がですか? と首をシルフィさんの方に向ける。

 彼女はお湯を両手で掬い……手の隙間からポタポタと流れ落ちるお湯を眺めていた。


「あたしはあくまで雇用主。ここカルディラ傭兵団のリーダーはヴィーナ、あんたよ」

「……じゃあ、リーダーである私のリーダーがシルフィさんでしょうか?」

「ヴィーナのリーダーかー……悪くないわね」


 隣にいるユノさんも、口を挟むこと無くお風呂を満喫してるみたいだ。

 時折むくれたような声が聞こえるのは気の所為だと思いたいけど。


「そうだシルフィさんに聞きたいことがあったんです」

「なに?」

「……いつも狙われてるって、本当なんですか?」

「…………誰にそれを……って、決まってるか」


 シルフィさんが首を横に向ける。

 そっちは私の座る方角じゃなく、ユノさんがいる方で……。


「ダメだった?」

「ダメじゃないけど……時期尚早だった感はあるわね」

「ゴメン」

「いいわよ。それで狙われてるっていうのは、本当」

「っ……!? それなら、自警団に相談を……!」

「無駄よ。影から狙ってくる奴らが自警団なんかに捕まえられるわけがないでしょ?」


 涼しい顔で言うシルフィさん。どうしてそんな冷静に……?

 でも確かに、実害が無ければせいぜいが巡回を増やす程度。

 そして実害が出た頃には……。


「シルフィさんが傭兵団を作ったのって……もしかして」

「それも目的の一つね。私の手掛けた傭兵団が世界に名を馳せる傭兵になれば、バカなことをしでかす輩も減るから」


 今まで商会を営んでいた人が、どうしていきなり傭兵団を作り上げたのかわからなかった。

 しかも傭兵団にいる人全員が戦闘未経験……いや、ユノさんだけはありそうだけど。

 すべては自分の身を守るため。

 確かに……歴戦の兵士でいきなり身を固めたら、相手を余計に刺激してしまうかもしれない。

 でも未経験の少女ばかりなら? 商会長の道楽と見る人も多いだろう。そしてその少女たちが、気が付けば世界に轟く傭兵団になっている……。これ以上の抑止力は無いのかも。


「それで、他の目的っていうのは……?」

「それ……」


 先程までの涼しい顔から一転。真剣な表情。

 表情の変化に、私の喉は勝手にごくりと音を立てた。


「…………それよりも、フェン放っといて良いの? たぶん寝てるっぽいけど」

「え?」

「ぶくぶくぶく」


「きゃあああ! フェンさん! エレナさん、エレナさん!!」

「本日の業務は終了致しました。またのご利用をお待ちしており――」

「言ってる場合じゃないですよーっ!?」


 溺れてるフェンさんを助けるのに必死で、その時は気付かなかったけど。

 …………私、誤魔化された?

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