16話 一緒に買い物は、アリです!
突然だけど、傭兵団で使ってる広い家。そこでの家事は当番制だったりする。
といっても、各自の自室の掃除や洗濯は個人で。それ以外の、共用部の掃除やその日の夕食が当番制。
引きこもりで、料理に縁のない私にも当然当番はやってくる。不安だったけれど、特に大きな不満は聞こえてこなかったのはホッと胸を撫で下ろしたものだ。
で、今日も当番なわけだけれど……。
夕食の買い物に行くために町へと向かう。
ヒザーク王国の南部にある王城のお膝元。王都ヒザーク。
さすが王都ということもあり、大体のものは揃う品揃えの良さ。
具材にお菓子に服やアクセサリー。なんでもござれのラインナップ。
そう、それは普段姿を見せない人も思わず姿を見せてしまうほど。
「ユノさん」
「……ヴィーナ」
私の顔を見た時に、一瞬嫌そうな顔をしたのは気の所為だと思いたい。
だけどこれはチャンス。
未だ溝が深いユノさんとの仲を深める機会でもある。それに……。
「ユノさん、今から夕食の買い出しに行くんですけど、もしよかったら――」
「イヤ、ムリ、ヤダ」
「そんな何度も言わなくても」
「じゃ」
スッと姿が消える。
見晴らしの良い通りで、何処かに姿を消すとか難しそうだけど……。
「まあ、いいか……」
荷物を持って欲しかった、という私の淡い期待は露と消えた。
フェンさんとエレナさんが増えたことで、当たり前だけど二人分買う量が増えた。それはつまり、私の腕力の許容量をオーバーしつつあるということ。
前の四人分だけでもギリギリだったのに……しかもたまにシルフィさんも来ることがあるので、一人分多めに用意しておく必要がある。
つまり七人分の食材。後もう少しすれば、私の腕は重さで悲鳴を上げるのは間違いない。
ちなみに、一番料理が上手いのは意外にもライラさんだった。
そして、一番覚悟がいる日はリースさんが当番の日。
ユノさんは作った……というよりも、何処かの店で買ってきたらしい。だってお店の名前が書いた袋に入ってたからね。
「……トレーニングだと思えば、いいか」
昼間の個人練習とは別に、日常にもトレーニングを織り交ぜていく。
そうすることで皆の足を引っ張らないようにしていたいし、それにいつか剣を砕かずに戦えるようになる、かもしれない。
さてと、今日は何を作ろうかな。といっても、難しいものはまだ出来ないんだけど……。
ユノさんに断られたことに、思ったよりもダメージを受けていないことに気付いた。
まあ、ダメ元だったし。何故か嫌われている、という事実にも少しずつ慣れてきた。
慣れるべきじゃないかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながらも、農家の人が屋台を出している直売所に到着。
今日取れたであろう新鮮な野菜が、色とりどり並んでいる。
売られている野菜を見ながら、作る料理を考えていると。
「ヴィーナ」
突然背後から声がかけられた。
料理に思考を割いていた私は、いきなりかけられた声に全身が跳ね上がる。
「……ゆ、ユノさん?」
「シルフィが、買い物手伝えって」
「ありがとうございますっ」
「礼はいらない。シルフィに言われたから、仕方なく」
憮然とした表情。シルフィさんのそばを離れることが納得いっていない様子だった。
それでも言い付けを守るあたり、忠実というか義理堅いというか。
「そうだユノさん。食べたい物ってありますか?」
「別に」
会話のきっかけにもならない。
そっぽを向く姿は、あくまでも荷物持ちとして来たというスタンスを崩さない様子。
「せっかく一緒に買い物してるんですし、リクエストに応えたいなあと思ったんですけど……」
「…………」
つーん。振り向く気配は無さそう。
しょうがない、自分で考えよう…………と思っていると。
「……あっ」
「ユノさん?」
「な、なんでもない……」
何かを見つけて声を上げたみたいだけど……慌てて視線を外していた。
だけどやっぱり気になるのか、チラチラと見ているそれは……。
「トウモロコシ……ですか?」
「………………」
無言。
と思っていたけれど。
「…………ま、前に食べたトウモロコシのスープ。甘くて美味しかった……」
コーンスープかな?
そういえば、珍しくおかわりもしてくれていたような……?
「すいません、これください」
お店の人にトウモロコシを指を差す。
「べ……別に、食べたいって言ってない」
「思い出したら、食べたくなっちゃいました。構いませんか?」
「好きに、すれば」
そう言ってそっぽを向く横顔がほんの少し赤く見えたのは。
夕日のせいにしておいた方がいいんだろうな、きっと。
農家の店を後にし、次は肉を人数分買い込んで家に帰るだけ。
ライラさんが肉がないと文句を言うタイプだったからね。
「ヴィーナは、シルフィに特別扱いされてる」
「……そうでしょうか?」
「なんで?」
「うーん」
なんで、と言われても……。
同じ村の出だから?
それとも……助けたことがあるから?
「わたしのほうが、シルフィをいっぱい助けてるのに」
「ですよね、ユノさんの方が…………って、え? それ、どういう意味です?」
「シルフィは、普段から誰かに狙われてる」
「…………」
え?
世間話みたいな軽さで、とんでもないことを言わなかった?
狙われてる? 誰が? シルフィさんが?
どうして?
「わたしたちと変わらない年齢で王国で五本の指に入る大商会を作り上げた。昔から営んでる人や、二代目三代目の人からすれば、目の上のたんこぶ」
「まだ何も言ってないんですけど……」
「そんな驚いた顔見せられたら、誰でもわかる」
「だから……狙われてる?」
「うん。誘拐、暗殺とか。流石に商会の中にいる間は安全だし、普段は警護もつけてるけど」
「それ……私と買い物してる場合じゃないですよね!?」
傭兵団はシルフィさんあっての傭兵団だ。彼女がいなくなったら、全員バラバラになってしまう。
「てっきり、ユノさんはシルフィさんが好きなだけでベッタリしてるんだと思ってました」
「それはそうなんだけど」
それはそうなんだ……。
「わたしはシルフィに救われたから。だから一生をかけて恩を返す。影から守り続けるの」
「……とても素敵だと思います。カッコいいです」
「………………ヴィーナに言われても、嬉しくないし」
だけど、それなら……!
ユノさんに持ってもらってる荷物を持とうと手を伸ばす。
「後は私一人で充分です。だからシルフィさんのところへ――」
「それには及ばないわよ」
と、背後から声が。
振り返ると、黒いツインテールを揺らしながら得意げに微笑むその人は……。
「シルフィさん!」
「シルフィ!」
「今日は早めに仕事終わらせてきたの。フェンとエレナの歓迎会だしね」
そう、今日は二人の歓迎会。
一応家を出る前に二人に食べたい物のリクエストを聞いてきたけれど。
フェンさんは『お酒が美味しく飲めるならなんでもいいさ』
エレナさんは『皆様が食べたいモノで構いません』
という、とても困る提案をされた。だからフェンさんには、ガツンとお肉でお酒を飲んでもらって。
エレナさんのリクエストは、ユノさんが食べたがったコーンスープで。
その他諸々の副菜は……なんとかなる、うん。
「ヴィーナ」
「はい?」
シルフィさんに聞こえない程度の耳打ち。
「……食べたい物、聞いてくれてありがとう」
短い言葉を私の耳に残しながら、シルフィさんの傍へと駆け寄っていくユノさん。
……どうしよう、嬉しい。
心を開いてくれたかもしれない、という感動。
お礼を聞けた、という感激。
胸にじんわりと広がっていく喜びを噛み締めながら帰路へつく。
すると、いつの間にか私の隣に立っていたシルフィさんが、一言。
「それに今日はヴィーナの当番でしょ? なら当然食べに来るしかないわよね」
「……あっ」
「………………むぅぅぅ……!!」
睨まれてる。
シルフィさん越しに、すごく睨まれてる。
心を開いてくれたかもしれないという感動は冷や汗に変わり。
お礼を聞けたという感激は、膨らんだ頬と鋭い視線で不安と動悸に早変わり。
「一歩進んで三歩下がるって、こういうことを言うんですかね……?」
「……? よくわからないけれど、ヴィーナがそう言うなら、そうなんでしょうね?」
「むぅぅぅ……!!」
……ああ、出来れば前に進みたかったなぁ……。
読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ評価・リアクション・感想を、よろしくお願い致します!




