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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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15話 つらい過去なんて、アリですか!?


「ええと、なんだっけ。そうだ、私の身の上話だったね」


 鍛冶場に置かれた木の椅子。そこに座るように促された。

 言われた通り座ると、向かい合う形でフェンさんも座る。

 すると、フェンさんの隣で立ったままのエレナさんがぽつりと呟く。


「そういえば、私も良く知りませんね。聞いてませんでしたし」

「おや、そうかい? ならちょうどいいかもね」


 足を組み、何処か遠くを見るように顎を少し上げる。


「私が生まれ育った村はレイスナーといってね、街道沿いにある小さな宿場村だったんだ。私はレイスナー村唯一の鍛冶場の娘として生を受けた。しかし父は跡継ぎの息子を欲していたようだった、けれど子宝に恵まれなかったようでね、産まれたのは私一人だけだったんだ」


 そう言うフェンさんの表情は何処か重苦しい。

 忌まわしい記憶だって言ってたし、思い出すのはやっぱり苦しいのかな……。


「やがて父は私に自分の鍛冶技能をこれでもかと詰め込むようになった、男児を産むことを諦めたんだろうね。来る日も来る日も火と共に起き、火と共に眠る生活さ。同年代の女の子たちがオシャレに興味が出始めた時分には、私は既にススまみれ。オシャレとは無縁な生き様だったね」

「その頃って……」

「目のことかい? もちろん見えていたよ。先天的なモノではなかったからね。後天的なモノさ」


 口調は、さも軽いことかのように喋っているけど……。

 一言一言口にする度に、フェンさんの表情は歪んでいく。だけどすぐ隠す。


「幸いにも私には鍛冶技術のポテンシャルがあったみたいでね、手前味噌ながらメキメキ上達していくのが自分でもわかった」

「でもフェン様、普段から鍛冶は嫌いだって言ってますよね?」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ、そうだよ? いくら才能があったって言っても、父親に無理やりやらされ、思春期を過ごすことも出来ず、しかも目が見えなくなった直接的な原因なんだ。どう頑張っても好きにはなれないさ」


 ならどうして……。

 口に出さなかった私の疑問を答えるように、フェンさんは言葉を続ける。


「食べていくためだよ、目が見えない人が出来る仕事は多くない。幸いにも私が打つ武器は好評でね、それなりの付加価値がついていたんだ。それに稼がないと、エレナくんのお給料を払えなくなってしまうからね。無給で働かせるのも心苦しい」

「もしそうなったら転職しますので」

「そんな! キミがいなくなったら私はどうやって生きていけばいいんだ!?」

「そうならないために働いてくださってるんでしょう」


 フェンさんに対して歯に衣着せず、言いたいことを言っているのは嫌いなのかな? と思う時もあった。

 でも違うみたい。慕っているからこそ、言いたいことが言えるんだ。

 エレナさんの乱暴な言葉遣いは、信頼の裏返し。そう考えると、フェンさんへの毒舌も可愛く見えてくるのが不思議。


「…………なんですかヴィーナ様。そんな変な顔して」

「え? なに? どんな表情かな?」

「女児向けの人形を二体、組んずほぐれつの状態にして微笑んでる。そんな感じです」

「そ……っ、そんな顔してませんけど!?」


 してないよね!?

 うん、顔触ってみたけどしてない! わかんないけど……っ!!

 っていうか私には歯に衣着せて欲しい!


「話を戻すけど、私が上達しても父は満足しなかった。まだまだ、もっともっとと要求は上がっていく。次第に頭打ちになっていく実力では、求める声に応えるのが辛くなっていった。そんな時だよ、私が目を失ったのは」

「…………まさか、自分で?」

「まさか、自虐の趣味はないよ。鍛冶場の奥には大きな蔵があってね。普段は鉄を置いたり失敗作を放り込んだりする乱雑な倉庫みたいな扱いだったんだけど…………私は、そこに閉じ込められた」


 閉じ込められた、って……。

 誰に? 父親に……? どうして?


「外から鍵をかけられ、三日三晩鉄を打つことを強制された。寝ることも許されず、太陽の明かりすら差し込まない蔵の中で、ひたすら火を見続けた。その所為で、解放された頃には私の目は炎に焼かれ、待ち望んだ外の世界を見ることは叶わなかった」

「ひどい……」

「ええ……実の子にすることではありません……っ」

「個人的に酷いのはもっと後のことさ。自分の無茶振りで目が見えなくなったっていう愛娘を、使い物にならなくなったと放逐したんだから」


 そんなことって……!?

 際限のない要求に応え続けたっていうのに。自分の目が見えなくなるほど、父の要求を聞いていたのに。

 そんな勝手なことって……っ!!


「お母様は何も言われなかったのですか?」

「母は父の言うことに逆らえなかったからね。小さな手荷物を握らせてくれる時、すすり泣く声と、謝罪の声だけが聞こえていたよ」

「えっと…………」


 ……なんて言えばいいのかな。

 思っていたよりも重くて、想像のつかない惨さを味わった。フェンさんの口調からはそれを感じさせないくらい明るさで言うけれど、きっと当時は泣きたくなるくらい辛かったはず。


「不幸中の幸いは、レイスナー村のみんなはとても優しかったことかな。行商の馬車に乗せてくれて、近くのそこそこ大きな町まで連れて行ってくれたんだ。エレナくんと出会ったのも、その町でだったよね?」

「ええ、ヒザーク王国北部に位置する、フクラという町ですね。小さいながらも三国の行商馬車が行き交う、活気のある町でした」

「そうだね、私はそれから視覚を除いた残りの四感を鋭敏にするべく鍛え上げた。もちろん味覚もね。最高級の岩塩と美少女の汗を見極め……いや、舐め極めれる自信はあるよ」

「シンプルに気持ち悪いですフェン様。そういうところが無ければよかったんですが」

「あっはっはっ! 暗い話ばかりだったからね、ちょっとおちゃらけて暗い空気を吹き飛ばさないと!」


 無理に明るくしようとしてる、っていうのはわかる。

 けど、今私が暗くなってもしょうがない…………のかな。こんな機会、今まで無かったから……。


「ヴィーナ様、そもそも本当に言いたくないことであるのであれば、フェン様自身から仰る必要は無かったはず。そこまで気に病まれる必要はないかと」

「そうだね『目が見えなくなるまで鉄打つなんてバカじゃないの?』って言うくらいでいいよ」

「それは流石に!?」


 私の言葉に大笑いを見せるフェンさんに後悔は見られない。

 でもきっとあるはず、無念や後悔っていう感情が。だけど見せないようにしてる。

 ……私も見習うべき。私の罪は消えないし、ずっと後悔し続けてるけど。

 見せないように、シルフィさんにちょっとでも、償いを……。


「そういえばエレナくん。身の上ついでに聞くんだけどさ、どうしてメイドになりたがってたんだい?」

「それしか出来る職が無かったからです。ずっと使用人としての職務しか行っていなかったので」

「前の職場はどうしたんですか?」


 私が尋ねると、自分のメイド姿を正すように、袖や裾を正すエレナさん。


「前職は、とある小さな商会でした。そこで接客や御主人様の身の回りの世話などをしておりましたが、クビになりました」

「クビ、ですか」

「はい。その商会は小さいながらもとある商品のシェアをほぼ独占する商売上手……だったのですが、いきなりそのシェアを食い込む……いえ、食い破るかのように現れた商会がありまして」


 フェンさんが「ほう?」と言って足を組み直す。

 ……なんか、嫌な予感が。


「瞬く間に売り上げは右肩下がり。売り上げ低迷による規模縮小で、私もお役御免……ということです」

「なるほどねえ…………時に、そのライバル商会の名前は?」

「はい、カルディラ商会です」


 ……やっぱり。

 この傭兵団の名前はカルディラ傭兵団。雇い主であるシルフィさんが会長を務める商会の名前は……。

 カルディラ商会……。エレナさんが働いてきた商会を半壊させたのが……シルフィさんってことに……なるよね。


「はっはっ! これはこれは数奇な縁だね、じゃあ恨んでたりするのかい?」

「まさか、前の御主人様は単純にシルフィ様よりも商売が下手だった、というだけの話です。それに……今は、フェン様に仕えられて、良かったと思っておりますので」


 フェンさんからは見えないけど、私からはよく見える。

 声のトーンだけはいつも通りだけど、目を閉じて言うその表情は……。


「顔、赤い……」

「なっ……ヴィーナ様!」

「あっはっはっ! エレナくんがデレた!」

「デレておりません! ……まったくもうっ」


 中庭に私とフェンさんの笑い声が響く。

 今こうやって笑っていたとしても、過去にどれだけ深い傷があったかを、私たちは知らない。

 だけど……ううん、だからこそ。


 これからを笑って過ごしていきたいと、強く思う。

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