14話 むりやり名剣を振るなんて、アリですか!?
翌朝、中庭に出ると見慣れないモノが建っていた。
「……いや、昨日見たよね……?」
それは鍛冶場。そうだ、昨日フェンさんって人がやってきたんだった。
食事中とかもひたすら明るく、笑みを絶やさない彼女は場の空気をとても明るくする。
リースさんもライラさんもとても楽しそうだった。
昨日はじっくり見れなかったけど、へえ……こんな感じなんだ……?
炉の中に見える黒ずみは……石炭? 木炭かな?
近くに樽に入った鉄の塊は、剣というより鉄の棒といった感じ。
へぇぇ……普段見ないものだから、結構面白いかも。
「ふああぁぁ……その気配は、ヴィーナくんかな?」
「きゃああぁぁ!? ふぇ、フェンさん!?」
炉の陰からむくりと起き上がってきたのは、鍛冶師のフェンさんその人だった。
って、なんでこんなところで寝て……!? あ、ベッドまで置いてある!
「外で寝てるんですか!?」
「だって私はこの場所にまだ慣れていないからね」
確かに……いやでもだからって!
あ、そうだ、メイドのエレナさんは?
「彼女ならまだ寝てるよ、寝るのが早くて朝起きるのが遅いのが彼女の特徴なんだ」
「それはただよく寝る人では? それならそれで言ってくれれば……」
「新参者だからね、遠慮はするさ」
「しないでください! えっと、じゃあ顔洗いに行きますか? それともトイレ?」
「じゃあ両方頼もうかな」
フェンさんに肩を貸して、ゆっくり歩いて先導する。
自分の浅慮さが恥ずかしい。目が見えないっていうのに、明るいからって配慮も何も出来なかったなんて……。
「私に出来ることがあったら何でも言ってくださいね」
「じゃあ遠慮なく」
「ひゃあ!?」
肩を揉まれる。凝りをほぐす……というよりは、ただ揉んでるだけ。
とてもくすぐったい。肩から背中へと指が移動していく。
「ちょ……フェンさん?」
「とても柔らかいね。これだけ未発達の筋肉から、どうして剣を壊すほどの怪力が出るんだい?」
「怪力って言わないでください! 私よりライラさんの方が力持ちなんですから」
料理に使う小麦粉の袋すら持てないっていうのに。
ライラさんは片手でひょいっと肩に担ぐんだから、彼女のほうが力持ちのはず。
「フェン様」
家の中に連れて行くと、入り口にエレナさんが立っていた。
……あれ? 朝弱いんじゃ……?
「戯れにからかいになるのはおやめくださいと、何度も申し上げたはずですが」
「いやいや、こればかりは生き甲斐だからね」
私の肩からスルッと手を離し、スタスタと歩いて行くその姿は、見えずに困っている様子はない。
「……慣れてなかったんじゃ?」
「慣れてはないけど、把握はしているよ? じゃないと私は生きていけないからね。ありがとうね、ヴィーナくん」
そう言って家の中へと消えていく。
呆然。私にはその二文字しか出てこなかった。
「エレナさんも、夜早くて朝が遅いねぼすけさんだって……」
「フェン様? 人をからかうために私を貶めたのですか?」
「あ、まずい」
……いったい、何処からが本当の話だったんだろう?
悩めば悩むほど頭が痛くなってくるのを感じたので、私は考えるのを止めることにした。
そしてお昼。中庭にいる私の傍には、何本かの剣が並んでいる。
向かい合うのは、カカシにくくりつけられた盾。
「左から、とても悪い、悪い、普通、良い、とても良い。そして最後が私史上最高の名剣だ」
「その名剣だけはヤメておいたほうが……」
「大丈夫さ、亀の魔物の甲羅すら斬り裂けるという代物なんだ。理論上は」
「最後なんて?」
「さあ、やってみてくれたまえ!」
とりあえず“とても悪い”から。
剣筋は歪、急ごしらえにもならないお粗末な剣だった。
カカシが持った木の盾に振り抜く。盾は真っ二つ、そして剣は粉々に。
「……どうなった?」
「盾は右上から左下に真っ二つになりました。そして一番左の剣が粉々に」
砕け散った剣の破片を掃除しながら、エレナさんが簡潔に報告。
「ふむ、じゃあ次行ってみよう」
いつの間にかカカシに新しい盾が結ばれていた。いつの間に?
もしかして非常に優秀なメイドなのかも?
……そして。
残すは名剣のみ。
ちなみに名剣以外の五本は全部同じ結果だった。
これ、ひょっとして状態の悪い剣を大量に持ち歩けばいいんじゃ……?
あ、ダメだ。たぶんとてもじゃないけど持てない。
「……本当にやるんですか、嫌な予感しかしないんですけど?」
「なに、壊れたら壊れたで私史上を塗り替える剣を打てば良いだけのことさ」
「わかりました……じゃあ、いきます」
剣を構え……振り抜くっ!
「ま、私史上最高の剣なんだ。砕けるはずがないんだけどね」
「振ってから言うのやめてくださいよ!?」
盛大なフリにしか聞こえないんですから!
とはいえ、振った手を止めることは出来ずに、盾の上を滑っていく。
盾は横一文字に真っ二つ。そして……。
「……待ってくれたまえ、今とても嫌な音が……?」
「ご想像の通りです。フェン様史上最高の名剣は、音を立てて砕け散りました」
「…………うそ? うそうそうそうそうそうそだろう!? 嘘だと言ってくれ!?」
「じゃあ嘘です」
「でもそれも嘘なんだろう!?」
「はい嘘です」
ややこしいな。
確かに、フェンさん史上最高の剣は私の手で粉々に砕け散ったけど……。
残されたのは柄だけ。でも一つ違うことがあるとすれば。
「ですがカカシも真っ二つになりましたね。さすが史上最高の剣、藁を斬ることなど造作もないんですね」
「それ慰めてないよねえ!?」
「ええ、まあ。大丈夫です、フェン様史上最高を塗り替えていけばいいのです。ふぁいとっ」
「言うは易しだね!!」
二人が激しい……いや、フェンさんだけかも。エレナさんは涼しい顔で言い返してるだけだし。
とにかく、二人が会話をしている中、私は名剣の柄を持って呆然としていた。
これは……私の能力なのかな。とても燃費が悪そうだけど……。
子どもの頃、私はよく村の裏山を駆け回っていた。
そこには色んな動物が住んでいた。木の棒片手に野山を駆け回り、今思えば男の子みたいな幼少期を過ごしていた。
そこで私はとんでもない過ちを犯し……。
思えば、そこが初めて戦った場所だ。シュシュちゃん……ううん、シルフィさんを守るために、落ちている剣を拾い上げ……そして……。
「…………くっ……」
頭が痛い。私にとっては後悔しかない古い記憶。思い出すのを拒否するかのように、頭痛が走った。
いつからこうなのか? 最初からこうだったのか? それを紐解く最初の鍵は、私の人生最大の過ちを思い出す必要がある。
なのに……私の記憶は、まるで鍵のかかった扉のように開くことを許さない。
「……ま、まあ、そこまで悔やむ必要はないよ、ヴィーナくん。形あるものはいつか壊れるものさ」
「名剣にもその言葉って当てはまるんですね」
「蒸し返すねえ!?」
私の頭痛によるうめき声が聞こえたんだろう。その声を悔しんでいる声と思ったのか、フェンさんはフォローしてくれた。
……きっと、自分の方が悔しいはずなのに。私にそこまでしてもらう価値なんて……。
「ヴィーナ様」
「……え? あ、はい?」
「私には詳しいことはわかりかねます。ですがここにいるフェン様は痴女でも変態でもありますが、それ以上に腕の良い鍛冶師。目が見えずともいつかヴィーナ様が振っても壊れない剣を作り上げることでしょう」
「エレナさん……」
「そうだね、私は剣を打つのが仕事。もしもその剣が壊れなかったのなら、私の仕事はそこで終わっていたからね」
「また無職に戻るところでしたね」
「あっはっは! それだとまたエレナくんの給金払えなくなるところだったね!」
「短い間でしたがお世話になりました」
もう悔やむ気持ちをポジティブに受け取ってるみたいだ。
私もそう出来れば…………ううん、あれはどうやってもポジティブには考えられない。
「……そういえば、フェンさんに聞きたいんですけど」
「なんだい?」
「どうして、盲目なのに鍛冶を?」
「…………」
「あっ……答えにくいなら、別に……」
「いや、いいさ。私にとっては忌むべき記憶だけどね、キミたちの仲間になるんだ。私の暗部をさらけ出そうじゃないか」
そうして語られるのは、フェンさんが鍛冶を志した記憶。
そして、目を失った過去の話。
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