13話 新しい仲間は、アリです!
「…………」
家の中庭に知らないモノが出来ていた。
これは……炉? 鉄床に、砥石……?
まるで、ここで鍛冶をするみたいな…………というか。
「…………」
この人は誰だろう。
呆然と立ち尽くしていると、私の後ろにいる二人。
「時は少し」
「……遡る」
ライラさんとユノさんが呟いた。
「ふわ……ぁ……ん?」
あくびをしながら廊下を歩く。すると入り口に誰か立っているのが見えた。
人数は二人、来客かな?
だけど敷地内に入ってくる様子はない。……いったい誰だろう?
対応するべく入り口へと向かう。
そこにいたのは、女性が二人だった。
長身のお姉さん。真っ赤な髪を三つ編み一本で束ね、目を細めて朗らかな笑みを見せていた。
半歩後ろにいるのがショートカットの金色の髪の女性。無表情に少し目を伏せている。
「あの……?」
私が声をかけると、長身のお姉さんが私の方を見た。朗らかな笑みは更に明るさを見せる。
個性的な服装だった。なんというか……ツナギ? のような。
対する半歩後ろの女性は、なんとメイド服。裾の長いクラシックメイドスタイル。
アンバランスな二人に、続いてなんて声を掛ければいいかわからない……と悩んでいると、見知らぬモノが出来ていたことに気付く。
……それで、冒頭に繋がるわけだけど。
「いやー、遡るほど情報量無かったねー」
「無駄に付き合わされた」
「異次元での会話やめてもらえませんか?」
そんな無駄なやり取りも、お姉さんはニコニコと微笑みながら見ているし、メイドさんは逆に見てすらいない。
「……それで、この人たちは誰なんですか?」
「知らないよ?」
「同じく」
誰も知らない、鍛冶場についても知らないみたいだ。
……じゃあ、この人たちは……? と悩んでいると、シルフィさんがやってきた。
「あら、ちょうどいいじゃない。揃ってるわね」
「リースさんがいないんですけど」
「連れてきなさい」
そしてしばらく。
「ぅー……眠いよぉ……」
ユノさんによって無理やり叩き起こされたリースさんが、目をこすりながら現れた。
……というか。
「……なに、ヴィナちゃん?」
「いえ……起きてるんですね、そういえば」
「なかなかに失礼なこと言ってくれるじゃない?」
「はいはい、聞いてちょうだい、忙しいのあたし」
こちらの会話を無理やり打ち切るように、手を叩いて注目させるシルフィさん。
こくりこくりと船を漕ぐリースさんはともかく、私を含む三人は黙って次の言葉を待つことに。
「新しい人を雇うことにしたわ。挨拶して」
一歩前に出る長身のお姉さん。笑みはそのままに、明るく大きな声で。
「レイスナー村から来た、フェン・レイスナー・スミス。気軽にマイスター・スミスと呼んでくれたまえよ」
メイドさんの肩に手を添えながら、私たちの近くに歩いて握手を求めてくる。
その手に応じるように、私も手を伸ばした。
触れた途端ビクリと驚いた様子を見せたのは……? ううん、それよりも。
「マイスター……ですか? 女性ですよね?」
「ほほう?」
何処か楽しそうに笑いながら、自分の胸を両手で持ち上げ……。
「触って確かめてみるかい?」
やっぱり大人の女性。その豊かな……じゃなくて!
出会い頭になんてことを!?
「申し訳ありません、フェン様は空気が読めないもので」
どうすればいいものか慌てていると、隣にいるメイドさんが淑やかに頭を下げた。
明るいフェンさんと比べると、とても物静かな様子。これぞメイドさんといった――
「朝っぱらから痴女痴女してる駄主人は、鎖に繋いでおきますので」
「…………えっ!?」
「あっはっはっ!! 駄主人と来たか、こりゃ手厳しい!」
メイドらしからぬ毒が聞こえた気がした。言われた当人も気にしていない様子で、笑い飛ばしている。
ユノさんは無表情だけど、ライラさんですら呆気に取られていた。リースさんは立ったまま寝てる。
「ま、冗談はともかくとして……専属鍛冶師として雇われたフェン・レイスナーだ。よろしく頼むよ」
「ちなみに先程の『マイスナー』と『スミス』は自称なので気になさらなくて結構です」
「一応職人としてスミスは名乗っておきたいところだけどね!」
「よ、よろしくお願いします……ヴィーナです、ヴィーナ・メール」
私に続くようにライラさんもユノさんも自己紹介。立ったまま寝てたリースさんはシルフィさんに小突かれてからようやく挨拶。
「ちなみに彼女はエレナという。私の身の回りの世話を頼んでいるのさ」
「はじめまして、エレナと申します」
身の回りの世話?
実はものすごいお嬢様とか?
「ねね、どうして目を閉じてるの?」
ようやく起きたリースさんが、おもむろに質問をぶつける。
というか閉じてたんだ? 単に目が細いだけかと思ってた。
「えーと、リースくんだったかな。簡単な理由さ、私は目が見えないからね」
「え、そうなの!?」
「じゃあ、あたし帰るから」
話の流れをぶった切るように、シルフィさんが背を向ける。
「ちょ、ちょっとシルフィさん!? フェンさんを雇った理由は?」
「理由……?」
ゆらりと振り返る。ちょっと怖い。
「アンタの所為でしょうが!」
「え……私ですか!?」
「そう! 使った武器は全部壊す、毎度毎度買ってたらキリがないんだもん!」
「そ……れ、は…………はい、ごめんなさい」
確かに私の所為だった。
それに関しては私からは何も言えない。それくらい非しか無かった。
「だから彼女を雇って剣を作ってもらったほうが安上がりだと思ったのよ。ゆくゆくはヴィーナが使っても壊れない武器を打ってもらったり、とかね」
「そういえばアタシの斧もボロボロになってきてるんだよねー」
「ううっ……!」
良心が、罪悪感で胸が痛む!
とはいえ……なるほど、そういった理由なら私からは何も言うことはないかも。
ううん、元々私はただの従業員だから言える言葉は無い。
それに悪い人じゃないみたいだし……。
「ねーねーヴィーナちゃん! すっごい柔らかいよ!」
「あっはっはっ! 遠慮がないねキミ!!」
「リースさん!?」
何故かリースさんがフェンさんの胸を揉んでいた。少し目を離しただけでどうしてこんなことに!?
隣に立つエレナさんが大きな溜め息を見せる。
「……申し訳ありません。フェン様は誰にでも揉ませる習性をお持ちのようで」
「誰にでも!?」
「まさか! 可愛い女の子限定だよ」
「フェン様、もう少し自分の体を出し惜しみしてください。巨乳の持ち腐れですので」
「ふむ、巨乳はここぞという時に触らせるから真価を発揮する、ということかな? ならば貧乳は?」
「…………この頭の悪い会話を今すぐ終わらせるために、ハンマーで貴女の頭を殴ってもよろしいですか?」
「あっはっはっ! 困るっ!」
なんというか、とても賑やかになった気がする。
というかいつの間にかシルフィさん帰ってるしっ!
それに合わせてユノさんの姿も消えていた。
「ライラくん、少し手を握らせてくれないか」
「え、胸でも揉ませる気?」
「それも良いけどね、キミの手の大きさを知りたいんだ」
良くはないでしょう。
右手を差し出したライラさんの手を握り、指の長さや感触を確かめる。
「……なんかぞわぞわする」
「私のテクニックに溺れては困るからね? ……ふむ、なるほど。明日までにはキミの斧を用意しておこう」
「ん……お願いするね。じゃあアタシ寝るから」
「おやすみなさいませ」
いや、朝なんだけどね。
さっき起きてきたと思うんだけど……まあライラさんだし、いいか。
「ふむ、炉がここで……鉄床、そして水場に砥石…………素晴らしい! 私の要望通りの配置じゃないか!」
ひとつひとつを手で触って配置を確かめていく。
火とか危なくないのかな……?
「ご安心ください。フェン様はああ見えて鍛冶師としては腕のあるお方。ご心配されてるようなミスは致しませんので」
「そうなん……ですか? というか、よくわかりましたね?」
「盲目の鍛冶師というのは、やはりそういったリスクが目立ちますので。どの方も今のヴィーナ様のような表情をなされます」
「私、いまどんな顔してますか……?」
「不安、戸惑い、でしょうか。大丈夫です、人間的には頭のネジが数本外れていますが、鍛冶師としてはネジ一本の緩みすら無い腕前です」
一言多い気がする。
「そうだヴィーナくん、キミが武器を振るうと何でも斬れるけど絶対に武器が壊れるらしいね?」
「え? あ、はい」
「ちょっと手を触らせてほしい」
言われるがまま手を差し出す。
私の右手に手を這わせる。指の長さを測り、手の大きさを測り…………うん、確かにぞわぞわする。
でもフェンさんの表情は真剣そのもの。と思っていたら。
「っ……!? これは……っ!?」
「な……なんですかっ?」
「すごく…………柔らかい……!」
「…………」
真面目なのか不真面目なのか良くわからない人だった。




