二十五、女難
祝杯が挙げられた翌日、皆はある一部屋に集まり、今後について話し合っていた。
その場にいなかったのは、熊耀と玲莉、そして、この部屋の外で護衛をしている譚子安と玲莉と一緒にいる羅洋だった。
「一度それぞれの国に帰りましょう。曽も熊耀が皇帝になったことで、楚と魏との交易や人の行き来がこれからは問題なくできるでしょう」
熊耀の代わりに来ていた上官亮は、孟景天の言葉に深く頷いた。
「そうですね。熊耀は動機はどうであれ、国を変えたいと思っていた男です。それに、熊耀も再び皇帝となり、以前とは違い頼もしい皇帝になりました。力でねじ伏せるというよりかは、自分の国へに思いを熱く語り、それなりに支持を得ています。これからはきっと大丈夫でしょう」
「それで、当の本人は何をしているんだ?」
上官亮は劉翔宇からの問いかけに、口に手を当て、笑いを堪えながら話した。
「熊耀の前の皇帝が、まぁいろいろと・・・自由にやりすぎたというか・・・国の至る所から奏上という名の文句というか不満というか・・・それを一つ一つ解決しなければならなくて。簡単に言うと熊耀は今、皇帝として一生懸命頑張っているのですよ。それで、他のことは私に全て一任しているという訳なんです」
「あの熊耀がねぇ・・・」
皆、熊耀が意外と皇帝らしく頑張っている話を聞いて、感心していた。
「一番おかしい・・・いや、大変なことは妃問題ですよ」
「どういうことですか?熊耀には妃はいなかったと思うのですが」
皆顔を見合わせながら、前のめりになり、興味津々に上官亮の話しを聞いた。
「前皇帝は皇帝の座についてすぐに行ったのが、妃選びだったのです。しかも、七人も同時に婚姻して。それで、その妃たちが実は・・・まだこの皇城内にいるのですよ」
「なるほどですね・・・」
孟景天はその話を聞いた時点で、おおよその話の展開が見えていた。
「若様は話の落ちがわかっているようですね」
「そうですね。その妃たちはそのまま熊耀の妃になろうとしているのではないですか?」
「ご名答」
劉翔宇、蘭玲、逸翰はご愁傷様とでも言いたそうな表情をしていた。
「そんなの皇帝の権限で追い出せばいいのでは?」
「そうなのですが・・・熊耀は女に慣れていませんので、七人もいると圧倒されて、どうすればいいかわからないのですよ。一応、一旦保留ということで落ち着いているのですが・・・私としては正式な皇后を見つけて、追い払った方がいいと思うのですが、何せ、その妃の中には高官の娘がいまして、どうにもこうにも難しいのですよ。他の問題は順調に解決してるのですが、この問題だけはなかなか難しいのですよ。話がそれてしまって申し訳ありませんが、何か解決方法はありませんかね」
孟景天は頬杖をつき、やる気のない目で上官亮を見ていたので、あまり真剣に考えているようには見えなかったが、一番に口を開き、ある提案をした。
「この際、上官亮が女装して、熊耀の女です、ということにしたらいいのではないでしょうか?」
突拍子もない提案に劉翔宇は思わず噴き出した。
「それはないだろ、さずがに」
「そうとも限らないですよ。曽は楚と魏と違って、無理に子孫を残す必要はなりません。世襲ではありませんので。上官亮が妃のふりをして子が産めなくても、この国にとっては問題ではないと思うのですが」
「一理ありますね」
逸翰が感心していると、上官亮は拒否していた。
「私が熊耀の妃に?ご冗談を」
「熊耀が妃にしたい女が現れるまででいいと思います。その人が現れたら、病で亡くなったとか理由をつけて、姿を消すことも可能だと思いますので」
上官亮は孟景天の提案が意外と有効なのかもと思いはじめていた。
「さて、本題に入りましょう。玲莉をどうするかですよ」
やる気のない目つきをしていた孟景天が冷酷な目に切り替わり、その目は鋭く、突き刺すかのように劉翔宇を睨んでいた。
「熊耀さん?どうしたのですか?」
熊耀は息抜きのために玲莉のところに来ていた。
羅洋は熊耀を部屋の中にいれるかどうか迷っていたが、熊耀は玲莉に危害を加える人物ではなかったため、承諾した。
「熊耀さんのいろいろと大変そうですね」
「ほんとだよ。前の皇帝は何をしていたんだよ。問題が山済みだよ」
「私と呑気に話をしていていいのですか?」
「息が詰まり、頭がおかしくなりそうだったから。気分転換でもしないと、俺このままだと死んでしまう」
玲莉と熊耀は楽し気に笑い合っていた。
「それで、玲莉はどうするんだ?劉翔宇と楚に行って婚姻するのか?それとも魏に戻って孟景天と?」
その話になると、玲莉は微妙な笑みを浮かべながら、熊耀から目を逸らした。
「俺はまだ本気で人を好きになったことがないから、よくわかないが、心に正直に生きたほうがいいぞ。聖女だからとか、この人が運命の相手だとか、そういうの関係なしに。俺はそう思う」
熊耀は優しく玲莉の手を握った。
握られた手の暖かさは勇毅の手の温かさと似ていた。兄の勇毅が妹の玲莉を励ます時の手の温もりと全く同じだった。
外で急に騒がしい声が聞こえてきた。
「入ってはいけません」
羅洋が必死に誰かを止める声が聞こえていた。
「まさか・・・」
玲莉が熊耀を見ると、ため息をつきながら、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「玲莉、ちょっとだけ付き合ってもらえるか?」
「えっ?」
戸が開くと同時に、熊耀は戸を背に向け、玲莉を抱き寄せた。
「何をしているのですか!皇上」
傍から見ると二人が抱き合い、口づけをしているように見えていた。




