二十三、勝算の無い戦い
熊耀が皇帝に返り咲いたこともあり、皆で祝杯を挙げていた。
「建明はどこに行った?」
空気の読めない熊耀は蘭玲の方を見ていたが、蘭玲は何も答えずにお酒を飲んでいた。
玲莉も複雑な表情をしながら、蘭玲を見ていた。
「熊耀、建明は西の部屋にいます。詳しい事情は分かりませんが、この場に呼ぶのは良くないと思いますので」
熊耀はだけが建明と蘭玲の関係をよくわかっていないようだった。
建明は自らこの祝杯に参加することを辞退していた。
建明は自我を取り戻したとはいえ、これから先、蘭玲へどう償っていけばよいのか、また、玲莉に対してもどう接すればよいのかわからなくなっていた。
部屋にこもり、ひたすら自問自答を繰り返していた。
そばで見張りをしている譚子安は同情はしないものの、段々と、ある意味被害者である建明が可哀想に見えていた。
「それにしても玲莉の姉の蘭玲は強いな。本当に魏の公主であることを疑ってしまうほどだ。どうだ?私の妃になるか?」
「ご冗談を?」
熊耀を見る蘭玲の目は殺気に満ちていた。熊耀は背筋が凍るほどの悪寒を感じ、凄い速さで首を横に振って、蘭玲に謝り、すぐさま話題を変えた。
「そ・・・それにしてもまさか地下に眠っている閻充を隠すために、安楽宮をあのような場所にしていたのが、初代聖女様だったとはな」
「どうりで安楽宮を管理する侍女たちを見なかったはずです。初代聖女様が管理していたのですから」
死魂宮は申玲瓏が消えたと同時に跡形もなくなり、安楽宮はあの汚らわしい場所から、聖女を祀る元の姿へと変わっていった。
聖女たちの魂は皆、候清揚、申玲瓏と共に散ってしまった。
過去の聖女たちの存在を示すのは、玲莉が受け継いでいる聖女の血だけとなった。
「しかし、上官亮は残念だな。あの場所がなくなって」
熊耀はにやにやしながら、上官亮に近づき、肩を組んでいた。
「別に問題ありません。どこでも女を抱くことはできますから」
「さすが、上官亮!」
熊耀と上官亮は盛り上がっていたが、他の者は若干引いていた。
「それで、孟景天、これからどうするんだ?」
「そうですね・・・この後、話し合うことにします。それでいいですよね?翔宇殿下」
「あぁ、そうしよう」
二人が普通に会話している様子を見て、皆驚いていた。
「おいおい、いつの間に仲良くなったんだ?」
「何を言っているのですか、熊耀。私たちは別に元々仲が悪かったわけではありませんよ」
「その通りだよ」
(いやいや、玲莉を巡って火花を散らしていたのはどこのどいつだよ)
蘭玲、逸翰、熊耀、上官亮は同じことを考えていた。
「あれ?蘭玲、玲莉はどうしたのですか?」
蘭玲の隣にいたはずの玲莉の姿がなく、心配になった孟景天は蘭玲に尋ねた。
「外の空気が吸いたいと言って外に出て行きました。安心してください。羅洋に護衛をお願いしていますから」
「そうですか・・・」
いつもなら追いかけていきそうな孟景天であるが、寂しそうな表情でどう行動すべきか迷っているようだった。
痺れを切らした劉翔宇が横目で孟景天を見ながら、立ち上がった。
「私が行ってくる・・・」
いつもとは違う空気を醸し出している孟景天と劉翔宇に、微妙な空気が漂ってた。
「よし、どうせ皆国に帰るのだろう?好きなだけ酒を飲んで帰れ」
熊耀の一声で、再び騒がしい雰囲気になっていた。
「玲莉公主、どうされたんですか?」
満月の月を見ながら、物思いにふける玲莉に羅洋は思わず声をかけてしまった。
「羅洋さん、どうしても私、あの人のことが気になるのです」
「あの人とは・・・若様・・・いや、孟景天様のことですか?」
玲莉は静かに頷いた。
「翔宇のことが好きで、翔宇との婚姻もうれしいはずなのに・・・なぜかあの人のことが頭から離れないのです。羅洋さん。私と孟景天さんは何か深い関係があったのでしょうか?」
「うーん・・・」
羅洋は悩んでいた。羅洋の口から玲莉と孟景天の関係を話すのは簡単なことだが、玲莉の性格からして、孟景天を必死に思い出そうとするし、思い出せないのに取り繕って、何とか以前のように接しようと努力するはずだ。しかし、孟景天はそのような玲莉の姿を望んでいないことはわかっていた。だからあえて、羅洋は玲莉に何も話さないことにした。
「玲莉公主、それは・・・私の口から話すのはふさわしくないことだと思います」
玲莉は何か言いたそうだったが、羅洋の気持ちを察したのか、それ以上何も言わなかった。
(やはり・・・私ではだめなのか・・・)
物陰に隠れ二人の話を聞いていた劉翔宇は、自分には勝ち目がない事を悟った。
劉翔宇は大きな足音を立てながら、孟景天に近づき、手を引っ張った。
「痛いですよ。どうしたのですか?」
劉翔宇は悔しい表情をしながら、孟景天に向かって叫んだ。
「玲莉と話してこい!もし玲莉が景天のことを思い出さないなら、明日、玲莉を私の女にする!」
孟景天は劉翔宇の言葉の意味がすぐに理解できた。
孟景天は鼻で笑って、いつもの冷酷な目をし、劉翔宇に言い放った。
「玲莉は私のものです。誰にも渡しません」
孟景天は劉翔宇の手を振り払い、玲莉のいる外へ向かって行った。
「あぁ・・・」
劉翔宇は手で目を覆い、大声で笑いながら、涙していた。




