二十二、盟友
(ここはどこ?)
茉莉花の香りが漂う、見知らぬ部屋で玲莉は目が覚めた。
(この布団は動物の毛皮?それに部屋中に動物の骨が飾ってある)
居心地の悪さを感じながらも、身体が十分に動かないため、座ったまま周りを見渡していた。
少し離れたところに眠っている男の影が見えた。
玲莉はゆっくりと立ち上がり、恐る恐る男に近づいていった。そして、男が起きないように顔を覗き込んだ。
(翔宇?翔宇がどうしてここに?それに何で・・・)
悪い夢でも見ているのか、劉翔宇は眉間にしわを寄せ、うなされていた。
玲莉が劉翔宇の頬にそっと触れようとした時、戸を開ける音がした。
「玲莉!目が覚めたのですね」
一人の男が近づき、いきなり玲莉を抱きしめてきた。
男は玲莉を抱きしめた瞬間、違和感を感じ、すぐに離した。
「玲莉・・・もしかして・・・」
「あの・・・申し訳ないのですが、お兄さんはどちら様ですか?」
男は衝撃を受け、呼吸が乱れていた。
「あの・・・大丈夫ですか?」
「玲莉・・・私のことを忘れたのですか?」
玲莉は困った顔をしながら、追い打ちをかけるように、あることを告げた。
「あの・・・私の知り合いの方でしたか?実は・・・その・・・何も覚えていないようで・・・」
男は大きく深呼吸をし、心を落ち着かせようとしていた。
男は一旦、玲莉の状況を確認するために、寝台の隣にある長椅子で話をすることにした。
「私の名は・・・孟景天です。本当に何も覚えていないのですか?」
「いえ、その・・・何も覚えていない訳ではないのですが・・・」
「では、覚えていることを教えていたただいてよろしいですか?」
玲莉の視線は自然と劉翔宇の方を見ていた。
「あの男のことは知っているのですか?」
「・・・はい。ただ・・・」
玲莉は落ち着きのない様子を見せ、言葉を詰まらせていた。
「んん・・・」
「翔宇!」
劉翔宇の目が覚めると、玲莉はすぐさま劉翔宇に駆け寄った。
孟景天はその様子を見ていて、劉翔宇に嫉妬していた。
「えっと・・・玲莉か。ここはどこだ?」
「私もわからないの。それに・・・」
玲莉は耳元で劉翔宇にあることを告げた。
劉翔宇は驚いた表情で飛び起きた。
「それは本当か?」
「うん」
孟景天は二人の会話を遮るように、声をかけた。
「翔宇殿下、玲莉は殿下に何を言ったのですか?」
劉翔宇は頭を掻きながら、玲莉を見つめ、どう話すべきか悩んでいるようだった。
玲莉は不安な表情をし、劉翔宇の衣の袖をつかんでいた。
孟景天は抑えられないほどの嫉妬の炎が心に燃え上がっていたが、今は劉翔宇、玲莉の状況が理解できていないため、必死に堪えていた。
劉翔宇は玲莉の両手を手に取り、微笑んだ。
「景天と話してくる。大丈夫だ。私に任せろ」
「・・・わかった」
劉翔宇は玲莉の頭を優しくたたき、寝台から下りた。
「景天、二人だけで話せるところはないか?」
「ついてきてください」
「玲莉はここで大人しく待っているんだよ」
「わかった」
劉翔宇はわざと孟景天に向かって優越感にひたっているような笑みを見せていた。
孟景天は劉翔宇からの挑発を無視して、別の部屋に案内した。
「そういうことでしたか・・・玲莉が私ではなく、劉翔宇のことを頼る理由がこれではっきりしました。しかし・・・困りましたね」
「私としては困らないのだけどな」
玲莉は前世と今世の記憶が入り混じっていた。
名は王玲莉、王家の末娘で、父が魏の皇帝であること、兄、姉がいることなどは認識していた。
しかし、劉翔宇と孟景天との関係においては全く異なっていた。
劉翔宇とは前世からの縁でつながっており、玲莉の中では、劉翔宇とは相思相愛の仲だと思っていた。
孟景天に関しては、ただの知らない男だった。
もちろん、自分が聖女であることは自覚があり、結ばれる相手が他にいることも理解していた。しかし、それが孟景天であるとは結びついてないようだった。
「それで、聞くのを忘れていたが、ここはどこだ?」
「ここは曽の皇城ですよ」
「???曽の皇帝と交渉でもしたのか?」
「いえ、力づくですよ」
「あぁ・・・なるほど」
劉翔宇は力づくの意味がおおよそ想像できていた。
「ということは、熊耀が皇帝に?」
「当たり前ですよ。私がここに来たのはそれが目的でもあるのですから」
「曽の前皇帝に同情してしまうな」
曽に集まっていたのは、孟景天、熊耀、上官亮、蘭玲、逸翰、羅洋、譚子安。おまけに建明もいる。
きっと曽の皇城に攻め入った時もほぼ無双状態だったことが想像しなくても理解できていた。
「それよりも、まずは玲莉のことを何とかしないといけません。玲莉の誕辰日まで時間がありません。それまでに私のことを思い出させないと・・・」
「私がそのままもらってもいいのだが」
「忘れたのですか?何のために候清揚と申玲瓏が全ての魂と力を玲莉に与えてまで、存在の消滅を選んだと思ったのですか?魏、楚、曽を再び平和な三国にするためでしょう?」
劉翔宇の想いは複雑だった。王晟の気持ちが今なら痛いほど理解できた。
聖女という立場を捨てさせてまで、申玲瓏への愛を貫いた王晟。
しかし、劉翔宇はわかっていた。自分が願っているのは、玲莉の幸せで、愛ゆえに玲莉の聖女という立場を奪うべきではないことを。
「・・・わかっている・・・安心しろ。私は景天に協力する。それが・・・玲莉の幸福につながるのであれば」
「・・・ありがとうございます」
今まで散々好敵手としてぶつかってきた孟景天と劉翔宇だったが、ここで初めて二人は盟友となった。




