二十一、最後の最期は聖女として
「それで私が閻充に教えてあげたのよ。時を経て生き、愛する者を手に入れる術をね。まさか、神に全て知られているとは思っていなかったわ。私たちは神の手のひらで転がされていたのかもしれない。私も閻充も申玲瓏も王晟も・・・所詮、私たちは己が欲求を満たそうとしかしていなかったのよ・・・聖女とは清く、高潔で、慈愛に満ちた心を持つ者と定義されるかもしれないけど、聖女だって完璧な人間ではないのよ。負の感情だって抱くものよ。だけど、それでも聖女を演じなければならないの。神に選ばれた聖女なのだから。私たちは失敗してしまったけど・・・でも、きっと・・・この先は大丈夫よ・・・」
候清揚は過去の自分をさらけ出し、心が軽くなったのか、穏やかな表情で申玲瓏を見つめていた。その顔は誰が見ても聖女そのものだった。
候清揚は覚悟を決めたか、立ち上がり、孟景天の目の前に立った。
孟景天は候清揚が何を考えているのか分からず、無意識に戦闘態勢をとっていた。
「孟景天、そんなに構えなくていいわよ。もう、正直疲れたわ。それに神に知られている以上は遅かれ早かれ、私たちはいずれこの世界から消し去られてしまうわ。自ら蒔いた種は自分で刈り取るから。全てを終わりにするわ。孟景天、玲莉のことを大事にしてあげてね。先ほども言ったように、聖女も一人の人間なの。玲莉は聖女に相応しい子で聖女の力も桁違い。成人してからはもっと成長するはずよ。玲莉が道から外れないよう支えてあげてね。私たちのような聖女にならないように」
候清揚は孟景天に手を差し出した。その手は晴れやかな顔とは裏腹に震えていた。
孟景天は悟った。候清揚は最後に微かに残っていた聖女としての清い心のまま、この世から去ることを望んでいることを。
「玲瓏さん・・・」
「孟景天、私からもお願いするわ。大丈夫、玲莉と劉翔宇が消えることはないから。ただ・・・何かしらの代償はあるかもしれない。それが何かは、私でもわからないわ」
「そうなのですか?」
孟景天は候清揚に確認すると、候清揚も同じ意見だった。
「安心してください。劉翔宇はどうでもいいですが、玲莉のことは私が必ず守りますから」
孟景天の言葉を聞き、申玲瓏と王晟は顔を見合わせ笑っていた。
「私はお二人が正しいことをしたとは思っていませんが、ただ、愛する人のために聖女としての役割を捨てる覚悟には、心を打たれました。私はどんなことがあっても、玲莉だけを愛し、守り抜き、支えたいと思います」
二人は安心したように微笑みながら、手を取り合っていた。
孟景天は候清揚に玉佩と龍の簪を渡した。
皆が固唾を飲んで見守る中、閻充だけが叫んでいた。
「やめろ!!!」
候清揚は閻充を無視し、龍の簪で自分の指を刺した。
すると、龍の簪は青白い光を帯びてきた。
「いい、孟景天。私たちが消え去った後は過去の聖女たちも皆消え去ることになる。ある意味、私が神に聖女として選ばれたあの時とほぼ同じ状況になるわ。あなたの母と協力して、玲莉を支えてあげてね」
「もちろんです」
孟景天の力強い返事に、うれしそうに笑みをこぼした。
候清揚は自分の血を使い、玉佩に字を書いていた。
そこには、候清揚、王晟、閻充の名を綴っていた。
「最後にあなたの名を」
申玲瓏は候清揚と同じように自分の指を刺し、玉佩に書かれた自分の名をなぞるように血で名を綴った。
申玲瓏の手から玉佩が宙に浮かび、四人の身体が同時に光りはじめた。
四人の頭上には青白い光の龍と炎のような光を帯びた鳳凰が絡むように舞っていた。
申玲瓏と王晟は硬く手を握り合っていた。
閻充は最後の最期まで抵抗していた。
候清揚は晴れやかな表情で涙を浮かべていた。
「あとは頼みますよ、玲莉、孟景天」
申玲瓏の言葉を最期に、候清揚、閻充は消え去り、玲莉と劉翔宇はその場に倒れていた。




