9.コスモス(6)
「それはどういう意味だい?」
ボルナトは優しく顔で聞いた。ディアンはそれに怯まなかった。
「みんな、嘘をついて生きています。やりたくない仕事を押し付けられている人、自分の意見を言いたくても聞いてもらえないから、言わないようにしてきた人。自分が陰で適当にあしらわれているのを知っているのに隠している人……」
ボルナトは何も言わなかった。ディアンはそのまま続けた。
「陛下だってそうです。外交のためにいろいろ動くけど、実際には自分の国が征服されないように他国にへりくだっているだけの人じゃないですか」
ボルナトは話さない。その間隙を埋めるようにディアンは話す。
「だから、僕はありのままを、本当の姿を描くんです」
話し終わって、一呼吸置いたあと、ボルナトは受け取ったような表情をした。
「分かった。君の言うことは分かった」
その目に涙を浮かべているようだった。
「確かに、私は君に対して、いやパウロの国民に対して誠実でなかったな。君の作品も、この外遊で外国の貴族に渡してしまった。アーネのこともちゃんと知っていたよ、直接密書が届いたから恐れてしまってあんな行動をした」
「密書……」
「ああ。アーネを貴族に登らせないと輸出制限をするとか」
ディアンは裏でそんなことがあったのかと開いた口が塞がらなかった。
「しかし、それに恐れていては弱い国なだけだ。厳しい戦争を乗り越えて独立した国だ。もっとたくましくあらないといけないのに、情けない」
「情けないなんて……そんな」
「いや、国民全員の未来への期待を背負った国王の立場なんだ。今までやってきたことを全部謝罪する」
すると、彼らの後ろのドアが開いた。デビンが入ってきた。ボルナトはそれを見て笑顔で言った。
「こんなにも国のことを想ってくれる人が城にいるなんて驚きだ」
「そうですよ、お父様。彼は純粋な心を持った画家です。パウロで一番の」
デビンも笑顔だった。ボルナトはディアンの目を見てはっきり言った。
「今回ばかりは私の負けだ。君の選択を聞かせてほしい。どちらでも構わない」
ディアンはサインした紙を机の真ん中に置いた。
「ぜひ、ここに残してください」
ボルナトは笑ってそれを手にした。安堵の声が彼から漏れた。
「もちろんだ」
「ただし……」
「何だ?」
ディアンは静かに息を吸った。最後に彼がしなければならない大事な仕事をしようと。
「アーネさんを、僕の弟子にしてください」
「家令のポジションから下ろして?」
「そうです。他国の声を恐れない国にするんでしょう?」
ボルナトは笑った。何の企みもない、心からの笑み。
「そうだな。約束だもんな、なら受け入れよう」




