9.コスモス(3)
残り5話です
「今日の夕方、ボルナト国王陛下がお戻りになられる。集中して、ホコリひとつ残さず清掃するように」
朝、ディアンが通りかかったところでアーネが声を張り上げていた。ディアンはデビンに呼ばれて部屋に向かっているところだった。
陛下が帰ってきたら、すぐ決めないといけない。大事な時間なのに、どうして今呼ぶのだと、じわじわ不満を浮かばせながら廊下を歩いた。
「ディアン、遅いじゃないか」
「そんな朝早くに呼ばないでくださいよ」
「大事なことなんだ」
ディアンはデビンの前に座った。皇太子は少し嬉しそうに話し始めた。
「今日から、幾つか兵を出して、ウィリアムス家を探す。国外に追放出来るように準備している」
「それは、国王陛下と一緒に決めたことなんですか?」
「いや、自分の勝手だ」
「それは良くないのでは?」
ディアンは驚きを隠せなかった。だがデビンはそこまで不安に思っていないようだ。
「親子関係には良くないが、国の安全にも良いことだろう?」
するとデビンはこの決断に至った経緯を説明し始めた。
「アーネがウィリアムスの家に里帰りしたことがあるそうだ」
「いつ?」
「去年のこの時期だ」
ディアンはその頃アーネが帰省しているのを見たのを思い出した。その後の帰ってきた表情もありありと。
「確かに、そんなこと言ってましたね」
「そうだろう。つまりこの国の中にまだいる。そいつらを国から引きずり出して、パウロを救ってやるんだ」
ディアンはその話に納得したり、納得しなかったりした。
「でもアーネさんはそれを聞いて嬉しいでしょうか?
「はあ」
「確かにアーネさんは嫌がってますし、政治目的の達成なんてやりたがってません。でも家族ですよ。アーネさんの大事な」
「それはそうだな」
デビンは少し俯いた。苦い表情を浮かべている。
「弟さんがいるそうです。その人だけは残してやってください」
「分かった。約束する」
デビンは立ち上がって、兵を召集しに行った。これがおそらく、息子の小さな抵抗だ。未来の国王は父親に向かって自分の意思をぶつけようとしている。それを見たディアンは静かに呟いた。
「僕も、決断の時だな」
日が傾いてきた頃、国王を乗せた馬の団体が城に帰ってきた。ボルナトは少しだけ険しい表情をしていた。
帰ってくると、即座にデビンを呼び立て、話し合いが始まった。
「おい、何をしているのだ!パウロ王国を潰す気か!」
ボルナトの罵声が城内に響き渡る。デビンはまだ何も言い返せていない。
「分かったなら、さっさと兵を呼び戻せ!」
「お父様!」
デビンは急に話を止めた。
「お父様、私はもう耐えられないのですよ。他の国にへりくだって、パウロが仮初の安全を保っている姿には」
「この国を、馬鹿にするな!私がどれだけ時間をかけてやってきたか、平和に保とうとしてきたか!」
デビンは負けた。自室に下がってしまった。




