9.コスモス(2)
アーネもディアンもまだ何も決めていなかった。決める勇気すらもなかったのだろう。ディアンはデビンの部屋に向かった。どこにも出せない気持ちを向けに行った。
デビンは至っていつも通りだった。
「そうか、アーネもまだなんだな。それは良かった」
「良かったんですかね……」
「そりゃそうだ。もし決まってたら、お前の選択も制限されてしまうかもしれないからね」
デビンはいくら話しても、明確な答えをディアンに与えてくれない。それに少しだけディアンはいらいらしていた。
「結局、どっちが良いんですか?」
「それはお前が決めることだ。お前は俺の答えを欲しがってるように見えるけれど、今は与えるべき時じゃないな。それはまだ先だ」
欲求不満を抱えてディアンはアトリエに戻った。こういう時、彼はいつもアトリエを掃除している。
すると、懐かしい絵を見つけた。コスモスの絵だ。
♢♢♢♢
初めて国王がディアンの絵を見つけたのは、コスモス畑でのことだった。
「君だ。君が次の宮廷画家だ」
ディアンがラッセルの看病に行っている時、誰もいないコスモス畑で2つ並んだキャンバスがあった。そのうち、ディアンの絵を指名した。
「僕……が……?」
ディアンは呆気に取られて何も言えなかった。才能のない自分が選ばれるなんて、スカウトされるなんて思ってもいなかったからだ。
「そうだ、君だ。君の景色を切り取ったような絵に、私は心を奪われてしまった。最高だ。ぜひ来てくれ」
「そんな、僕よりも適任の人がもっといますよ」
ディアンは言い訳を洗いざらい話した。人物画を描けないから、花の絵ばかり描いていること。芸術学校では賞の一つ取れなかったということ。自分ではないということを徹底的にアピールした。
「そんなの関係ない。ただ君の絵が好きなだけだ」
ボルナト国王はそう言って譲らなかった。それはそれでディアンは嬉しかった。
♢♢♢♢
初めて誰かに認めてもらえた、コスモスの絵。ディアンはそれをしきりに模写し始めた。あまり過去の作品を描いたりしないディアンも、この日は描きたくて仕方なかった。
実はこの作品は国王には見せていないものだった。ディアンは別アングルからもう一枚描いていて、それを国王に渡したのだ。今彼が模写している作品はその後に完成したものだ。
とっておいて良かったと、ディアンはその時強く思った。
昔の作品は、まだ慣れておらず、少し迷ったような跡があったり、間違えたところもあった。ディアンはそれを修正しつつも、出来るだけそのまま写し取った。
少し短い花、色が褪せている花、花びらが一枚飛んでいってしまった花、全部そのまま、ありのままを描いた。




