9.コスモス(1)
最終章で、あと7話です。ぜひ最後までお付き合いください。
外遊は一週間の予定だったが、会議が立て込み、長引いてしまうという情報が入った。そして、ペルカの王室にパウロ王国から紫陽花の絵が贈られたということが分かった。
「なぁ、ラッセル。僕、どうしたらいい?」
「そんな難しいこと俺に言われても」
ディアンとラッセルは城下の外れの店で向かい合って座っていた。
「国王が帰ってきたら、契約の期限が迫っちゃう。もう時間がないんだ」
「焦る気持ちも分かるけど……焦ってもいい決断なんて出来ないよ」
宮廷画家はかなり厳しい立場だ。今まで延長を申し出てもらった画家は存在しない。ディアンが初めてだ。
「絵は周りの国に配られてる。もう残ってないだろうし、でも宮廷画家やめて民衆の世界で食べていけるかな」
「ディアンの絵はいいと思うんだけどね」
「どうして分かったように言うのさ」
するとラッセルは水を一口飲んで、考える素振りを見せた。少し後、パッと明るい顔で言った。
「ディアンの絵は、透明なんだ」
「ちょっとよく分かんないや」
「何て言うんだろう、こう……まっすぐ描いてる感じかな、そういうのがいい」
上手く言葉にならないことを言葉にしてくれたラッセルを見て、ディアンは優しく微笑んだ。
「ありがとうね。自信になるよ」
「まあね。さて、俺もそろそろ絵描いてお金もらわんとな」
「もう美術展とか出してるの?」
「割とね、結構な頻度で」
ラッセルは前に進んでいる。自分も一歩踏み出さないといけないと、ディアンは少し気合いが入った。
丘を登ってディアンは城に帰った。すると、庭の道を掃除するアーネが見えた。彼女はすぐに気づいた。
「ディアン様、お帰りなさいませ」
「ただいま戻りました」
アーネも、どこか「心ここに在らず」な様子が見えた。すると、心配そうな顔でディアンに尋ねた。
「ディアン様は、もうお決めになったのですか?」
「春からのことですか?それは……」
「残られるんですか?」
ディアンの答えを待たずにアーネはズカズカ聞いてきた。いつもの様子とは確実に違った。
「まだ、何も」
「そうですか……」
「アーネさんは?」
「私は、もうここにいるしか無いです。もうどうしようもない。今日までもですけど、自分を騙し騙しやってきました。これからも、きっと」
アーネの顔が沈んでいった。そこに西陽が差して眩しかった。
ディアンはそれを無理矢理でも励ますように言った。
「絶対、絶対……大丈夫です。きっと春には、もっと笑っていられるはずです」
「そんなこと言ったって……相手は国ですよ。使用人の、没落貴族の一身が歯向かう相手じゃないです」
アーネが珍しく悲観的だ。ディアンは居た堪れなくなって、強く言った。
「身分がどうとか……関係ないです」




