第9話 そして鬼狩りは現れる(お姉さんの出番!)
入口をゆっくりと開け、私を先頭に奥へ奥へと進む。床、壁面天井とどこも黒塗りで全体的に暗い。照明で明るさは確保しているものの、ライブ中だったのか、光は奥に集中してる。今頃本当なら演奏で耳が刺激されてるはずだけど……そんなことはなく。足元には血が抜かれて息の止まった男女が何人も倒れていた。
「こ、これ…………!」
「言ったでしょ~千尋ちゃん。お客さんが生きてればって」
収容人数もそこそこだから被害も多い。ただ……単体の吸血鬼による一回の被害にしては多すぎるかな。
「ん……?」
で、ステージ上には自然体で立つ金髪黒Tと、三人の女の子。制服姿でギター、ベース……あとはドラムかな? 多分マルビの代わりに出演してたガールズバンドだろうね。私達が見えて震えながら声を絞る。
「た……助けて…………!」
「おー、まだ生きてる人いたんだ。千尋ちゃん、確認した?」
「民間人3人、確認しました!」
「あんたが巫女喰らいね?」
「あぁ、そうだ」
怯える女の子たちを他所に、金髪黒Tはゆっくりこちらに目線を移した。
「お前たち巫女は本当に良い……一回襲えば次々と釣られてやってきてくれるからな。粗末な血を飲んで待った甲斐があったものだ」
「釣り針が大きくても食いつく仕事だからね。ダボハゼってやつ」
「哀れな小娘だな」
ありゃ、一応煽ったつもりなんだけど。さっすがは『巫女喰らい』、会話が噛み合わない。今まで出会った奴らとおんなじだ。もちろんお姉さんは違うけどね。
「ん……? おぉ、非力な巫女まで連れてきたのか。伝達の為に見逃してやったのに、わざわざその身を捧げに来たのか?」
「…………っ!」
「千尋ちゃ~ん、思考と感情は切り離して」
早速抜刀しようとした後輩を止めるのも私の役目。踏み込むにしても、まだ生存者から近すぎる。できればバンド女子から少し離れてほしいんだけど…………これなら全員いない方が楽だったなぁ。
睨み合う中で、私の代わりに仙ちゃんが金髪の吸血鬼に言葉を投げる。
「人質を解放しろ」
「人質……? ククク、オレが人質を取るとでも? こいつらはお前たち巫女が来るまでの『つまみ』だ」
女子高生をつまむって発言はどうかと思う。吸血鬼じゃなけりゃ普通に通報案件だよ…………さてと、一瞬でいいから距離取らせたいな。そうすれば仙ちゃんと千尋ちゃんで生存者はなんとかなる。
「じゃあ先に血を吸った人たちは前菜ってこと?」
「ククク……おかしな巫女もいたものだな、同じ人間を食い物扱いか」
会話のレベルを合わせただけなんだけどなぁ。
巫女喰らいは最初から興味のない女の子たちから離れ、ステージを降りる。ちょうど正面から私達と対峙するような位置取り。向こうから来てくれれば好都合、そうでないなら――――
「──デザートは、最後に回すだろう?」
完全に意識がこっちに向いた瞬間、刀は鞘走る。
「仙果、千尋! 展開っ!」
二人は生存者の女の子の保護、私は戦闘。
片足の踏み込みは数メートルを滑り、巫女喰らいの間合いへ入る。金髪は構える素振りすらない。完っ全に舐めてる。
「ハハハハハ! 昨日倒した下僕のようには行かんぞ!」
「上等っ!」
首を狙って刺突。でも予想されてたようで巫女喰らいは最小限の動きで刃を躱す。
「首を刎ねて仕留める……単調で面白みのない攻撃だ」
「職人芸と言って!」
弱点が分かってるからこそ、長生きの吸血鬼ほど対策をしてる。今大事なのは攻め続けてさっさと生存者を避難させること! 首、心臓、首、刺突斬撃刺突斬撃斬撃斬撃刺突…………急所に向けた攻撃は全部避けられる。さすがに雑すぎる。
「健気だな、生きている者がいれば助けなければならないとは」
「仕事だからね」
ステージから女の子たちを回収して、千尋ちゃんが先導しつつ仙ちゃんたちは後退する。あとは暴れるだけかな。タイマンなら別に…………
「――ハンデがなくなったとでも思ったか?」
回避に専念していた巫女喰らいの服から、黒い靄が噴出した。千尋ちゃんの記憶で見たそれは、吸血鬼の顔になって伸びてくる。ふっつうに気持ち悪い!
「Vaaaaaa!」
二歩、三歩距離を取って一呼吸。靄から出ている吸血鬼の顔は老若男女バリエーション豊か。顔だけかと思えば、ご主人様の身体からにゅるっと吸血鬼たちが新たに三体現れた。これが記憶で見た靄の正体、それとこいつの能力!
「朝緋ッ!」
「おっと、お前たちを逃すつもりはない」
サドに満ちた歯茎むき出しの笑顔と同時に、巫女喰らいから生み出された(?)吸血鬼たちは一斉に仙ちゃんたちへ走る。このまま行かせると生存者を守りながらじゃ、ちょっとめんどいかも。
ほんの一瞬のアイコンタクト。クマの残る親友は、それだけで理解する。仙ちゃんは吸血鬼たちが迫る中で一度納刀し、居合い切りを放つ。渾身の抜刀は、ホールの出入り口の壁を崩して塞いだ。
「ナイス仙ちゃん」
『死ぬなよ』
通信機越しには短めのお別れ。仙ちゃんいっつも言うんだよね。死なないってば。ホントに心配性なんだから。
「美しい自己犠牲、か」
「余計な仕事増やすなってこと。ここの補償どうすんの」
「死ぬ小娘が考える事では――ない!」
巫女喰らい+あいつの眷属……っていうか手下三体が四方から襲い掛かる。 一転攻勢、今度はこっちが守り…………なワケないでしょ!
巫女喰らいを蹴り飛ばして反動を利用して手下の首を一気に刎ねる。二つ名持ちじゃなければ何体いたって変わらないってば。
「ほぅ、なかなかやるじゃないか。お前、名前は?」
「ビタミンKって覚えて帰ってよ」
「吸血鬼には不要だな」
これでようやく一対一。さっさと終わらせて、今日は日付変わる前に帰る!
「まさかオレの能力が僅かな手下のストックと思っていないか?」
「なに、ポケットからビスケットでも出すの?」
「その減らず口が続けばいいんだがな」
もう一回、巫女喰らいの服が膨張する。そして、吸血鬼の手下が数体現れると同時に、肥大化させた腕で襲い掛かってくる。特徴自体は昨日と同じように大したことないけどこれは…………
「また能力持ちぃっ⁉」
「何度でも出してやろう、お前は他の巫女よりタフそうだからな」
「そりゃどうも!」
あぁもう…………めんどくさい!
犠牲者ごと床を砕きながら、吸血鬼が迫る。膨張した腕を先に切り落としながら、回避を優先。巫女喰らいに全然近づけない、これなら仙ちゃんにアイコンタクトしなきゃよかった!
「Vaaaaaaaa!」
「そうだ踊れ! 無様に散って血を差し出せ、退魔の巫女!」
こっちが手下の腕を切り落とすと、巫女喰らいはさらに2体を追加で召喚。これじゃイタチごっこじゃん………こうなったらこっちも…………!
ギア、上げるしかないよね――!
負傷覚悟で、前方から迫る吸血鬼に刀を構えるその刹那、
いきなり壁がぶち破られて、後方でキモい笑いを浮かべていた巫女喰らいが蹴り飛ばされた。
「ぐあッ⁉」
最初に出会った時と同じく唐突に。舞台の灯りに照らされながら、あの人は現れた。
「血の匂いを追って来てみれば…………当たり、ですね」
「お、お姉さん⁉」
波旬アンナは白い細腕でステージのギターを拾い上げ、巫女喰らいの出した手下の首を殴って身体と分離させていく。せっかくこれから大立ち回りだったのに、気づけばお姉さんが一掃しちゃった。
「言った通りだったでしょう朝緋? そのうち会えるって」
「色々ツッコみたいことはあるけど…………ありがと」
ギア上げずに済んだし、お姉さんカッコ良かったから許します。
お姉さんの飛び蹴りをまともに受けた巫女喰らいは、よろよろと立ち上がってこっちを睨む。
「き、貴様ぁ……何者だ⁉」
「貴方に復讐する吸血鬼……鬼狩りです。そして彼女はわたしの伴侶となる存在……傷つけた罪は重いですよ」
「傷ついてないし、まだ告白は受け入れてないってば!」
「ふふ、考えてはくれているのですね」
臨戦状態で、お姉さんは無邪気に笑う。こんな時でも人の情緒を弄ってくるんだから困っちゃうよ。でも、正直心強いかな。
「貴様が鬼狩りだとぉ……⁉︎ 貴様もろとも八つ裂きにしてやる!」
巫女喰らいからさらに手下の追加される。まだあいつが昼間に活動してた謎は残ってるけど、早く倒そう。
油断せず、迅速に、的確に…………仙ちゃん戻ってくるかもしれないし、お姉さんが見つかる前に、さっさと終わらせないとね。
「おねーさん、デュオって得意?」
「えぇ、とっても」
「じゃあ……一曲付き合ってもらおっかな!」




