第6話 白神朝緋の日常(なんかのタイトルっぽい?)
二度寝から起きて朝支度。私も現役の高校生だから、もちろん学校に通ってるよ。
――私立碧海高等学校。
県内でもそこそこの規模を誇る共学の私立校で、退魔の巫女の活動にも協力的な場所。それもそのはず、経営者が元『退魔の巫女』なんだから。私以外にも、見習いの子とか現役の子も通ってて、緊急時の早退は免除されるんだよね。私たち現役の巫女たちにも理解があるのです。
…………理解があるのです。
「んでぇ? 昨日早く返してやったのに寝坊かました言い訳は?」
「やだなぁ真澄ちゃん、乙女の朝支度は時間がかかるんだよよよよああああああ!」
「銀嶺先生だろうがこのアホ!」
このやりとりが鉄板ネタ。まぁまぁウケる。
しかしさすが学舎パワー。職場の拳骨ではなくヘッドロックをかけられました。暴力反対っ! って、言いたいとこだけどいつもより優しめなんだよね、真澄ちゃんも素直じゃないんだから。
「ったく…………じゃ、2限目始めるぞ」
真澄ちゃんから解放され、英語の授業が始まった。そう、真澄ちゃん警察関係者でありながらこの学校の英語教師なのだ!
「突っ立ってないではよ座れ」
「大事な説明なのにぃ」
ねぇ?
真澄ちゃん、今は半分退魔の巫女で半分警察みたいな立ち位置なんだけど、ベテランの巫女って貴重だから、あんまり前線に立たせて失いたくないってのが偉い人の判断とか。若い子酷使するのはどうなのって思うけどね(真澄ちゃんも若いよ⁉︎ ピチピチだよ⁉︎)。真澄ちゃんはホントなら吸血鬼系の仕事だけで十分だけど、学校で巫女がサボってないか監視する為にわざわざ教師までやってるわけ。おかげでズル休みすると部屋から引き摺り出されちゃうんだよ? 参っちゃうよね。仕事してないところ見たことないよ。
「ぶつぶつ言ってないでこの英文解きな」
「へぁ? 『ジョンは興奮して告白しなきゃ良かったのに』」
「……正解」
こうして授業にはついていけるから問題ないけどね。学業と対魔の巫女の両立ってめんどい! でも……真澄ちゃんが心配するからやんなきゃなんだよね。
◇ ◇ ◇
「いぇーい、お昼だ〜」
「朝緋ちゃんそんなに食べて大丈夫……?」
「乙女の胃袋は無限大」
対面にいるのはお友達の綾ちゃん。ボブカットに眼鏡が似合う女の子だよ。早退した時なんかに授業のこと聞いてたら仲良くなったんだ。今日もナイス眼鏡。やっぱり眼鏡っ子はいつの時代も必要だよね。学校パートで出てくるから覚えておくように。
……で、お弁当を開けた綾ちゃんが私の方を見てちょっと顔を引きつらせてたんだよね。
コンビニで買ってたいっぱいのパンを机に広げてみたんだけど。ハムタマゴサンドにカツサンド、トマトサンドに焼きそばパン、あとデザートにメロンパン…………カロリーは、う~~~ん…………まぁ、パンって軽いからカロリーないよきっと。手始めにハムタマゴのサンドイッチをぱくり。うん、普通にサンドイッチ…………普通だ。
「どうかしたの?」
「うん? う~ん…………」
無意識だったのかな? 比べるために買ったのかもだけど、お姉さんが作ってくれた方が美味しかったなぁ…………あれなら毎日食べたいかも。毎日…………毎日…………ま?
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「あ、朝緋ちゃんどうしたの⁉」
思い出したら急激に恥ずかしくなってきたぞぅ! 毎日食べたいって惚気か! 付き合ってもないんだぞぅ!
『どうしました? お好きにどうぞ?』
うぅ…………今度会ったらキャン言わせよう、うん。最初に会った時みたいな、もじもじっとした姿を見るんだぃ。
「大丈夫?」
「ねぇ綾ちゃん」
「ん?」
「女の子同士の恋愛ってアリだと思う?」
「ぶふっ⁉」
ありゃま、綾ちゃんむせちゃった。
「大丈夫ぅ?」
「もう……いきなり変な質問しないでよぉ」
「いやぁ色々ありましてなぁ~あはは…………」
気恥ずかしくなって誤魔化すようにパンを口に放り込んでカロリー補給です。今日は20キロくらい走った方がいいかもしれない。
駆け足気味の昼食も、残りは大きめのメロンパンだけになったところで、今は会いたくない仕事熱心な真澄ちゃんが教室の入り口に立っていた。
「朝緋ィ、仕事だ」
「えー……いまランチ中」
「何発欲しい?」
…………この姉御は私を叩けば動くテレビと勘違いしてませんかね? 姉御もそのテレビ世代じゃないでしょうに。さすがに教育者として殴る気はないだろうけど、真澄ちゃんの右手が光りそうだからメロンパンは潰して一口で食べ切る。絶対太るね、これは。
「しょうがないなぁ〜」
「場所は翠山緑地公園だ。おそらく『巫女喰らい』関連だから気ぃ付けろよ」
「車は?」
「走れ。食いすぎだ」
「うへぇ、りょーかい。じゃね、綾ちゃん」
綾ちゃんに手を振りながら、刀と鞄を携えて学校を後にする。昼過ぎまでいられるのが珍しい……それが白神朝緋の日常なのである。南無。
夏はまだ先の外気はほどよく暖かい空気。汗をかかないように、けれど一般人よりも速く道路を駆け抜ける。ケーキ屋のウインドウに視線を奪われつつ30分ほど走って到着したのは、件の現場……翠山緑地公園。
『山』ってついてるけど、普通の平地。遊具があって、草野球ができるくらい広い場所があって、あとは散歩の周回コースがぐるっとある。目的の場所は公園内にある樹林地の奥、そこに見慣れた警察の規制線が張られて巫女の見習いの女の子も何人かいた。胃の中が落ち着かないけど、とりあえずお巡りさんに挨拶。
「どもー」
「おぉ、朝緋君。君も来てくれたのかい?」
「まぁね。他に見習いのほかに巫女いるの?」
「篠宮君が先に現場を確認中だよ」
あらま、仙ちゃん来てんだ。じゃあ私やることなくない?
黄色の規制線をくぐった先にいたのは、刑事さんとお話し中のポニテの女の子。セーラー服に腰には日本刀。私にはお馴染みのマブってやつ。相っ変わらず校則厳守の膝丈スカートなんてやめたらいいのに。真面目が服着てるみたいなお堅い仏頂面で、目の下にはうっすらクマが浮かんでる。
私の隠しきれない存在感に気づいたのか、こっちを向いたので手を振ると、眉間に皺を寄せた。もぅ、可愛いが台無しだぞ。
「やっほー仙ちゃん」
「……現場で『ちゃん』付けはやめてって言ってるでしょ、朝緋」
仙ちゃん、本名は篠宮仙果。
私と同じ限界OL……じゃなくて、限界退魔の巫女だ。いいや、私より限界してるかも? お疲れ様です。




