第5話 お姉さんと朝チュン(すごかったですよ、何がとはいいませんケド)
横になったお姉さん、ハリのある胸が主張だけ残してますよ。なんてデッッッ……
「どうしました? お好きにどうぞ?」
「え~~~~~~~~~っとぉぅ……」
凝視しているのがバレたのか、お姉さんが笑う。
お姉さん慣れてません? これが大人の余裕か? 落ち着けぇ白神朝緋ぃ~、とにかく落ち着けぇ! 深呼吸、こういう時は深呼吸をするんだ。Be Cool…………!
吸っては吐いてを繰り返し、必死に胸のドキドキを抑えてるのに、お姉さんは私を見てクスッと笑う。
「初心なこと……可愛い」
「なっ!」
「冗談です。婚前交渉にしても、まだお返事も聞いていませんし」
「む、むぅ…………!」
もしかしなくても、からかわれただけーっ⁉︎
くぅ〜! 乙女心を弄びやがってぇ。揉めばいいのか? そのデッ! なふたつを揉めばいいのか⁉︎
「さすがに逸ってしまいましたね、ふふ」
「ぬぅ〜〜〜ぉぅ?」
歯軋りする私へ、お姉さんはゆっくりと腕を回して抱きしめちゃった。ちょうど胸元辺りで受け止められちゃったんですケド、ええまぁすごいですヨ。
「相性が良すぎると酩酊したようになるなんてこともありますが……まさか、ここまでとは。ごめんなさい」
「むごごごご」
すっごく自然に噛み跡を撫でられてるんだけど、思考が回らない。フワフワした感じでぼやぼやしてる。
「大丈夫、すぐに慣れます」
「んっ〜〜〜ッ!」
割と強めに抱きしめられたまま、弱点を作った張本人にいいように可愛がられてる内に、私の意識は次第に落ちていきました。めでたしめでた……くない!
◇ ◇ ◇
次に起きた時には、午前四時。何かずっと掴んでいた気がするけど、ベッドには私だけ残ってた。
「…………………………………………………………は」
うぉっー恥ずかしいィッ!! 今までこんな扱われ方してこなかったからなすがままだったー! なんだよあの撫で方ぁっ! 反則だろうがぁっーーーーー!
「あぁ、穴があったら入りたい……」
「わたしも同席よろしいかしら?」
「ぬわぁ⁉︎」
暗い部屋の中で、くつろぐ影が一人。普段なら気配くらいすぐ分かるけど、お姉さんの存在は独特過ぎる。
「シャワー、お借りしました」
「ま、まだいたんだ……てっきり帰っちゃったのかと」
「あのまま一緒に寝ても良かったのですけど、朝緋の求め方があまりにも強過ぎて……」
わざとらしくお姉さんは悶えてみせる。特に、胸のあたりを両手で抱えて。どうやら気のせいじゃなかったらしいね、夢の中の私。ちょっとうらやましい……!
「あ、あはは……そりゃどうも」
改めて首筋に触れると、噛み跡は治っていた。さすがの回復力だ、妙な感じもない。お姉さんの能力なのかな? …………吸血鬼なのに、ひと晩何もしないなんて……やっぱり変なの。まぁその前にがっつり吸われましたけど。
ふと、意識は嗅覚に集中される。およそ自分の部屋では絶対にしない食べ物のいい匂い……プロテインバー一本しか食べてなかったからお腹にくるぅ!
「ふふ、可愛いお腹の虫ね。すぐ食べられるかしら?」
「そりゃもう! ……って、お姉さんが作ったの?」
「えぇ。吸血鬼でも人間の食事は作れるの」
薄暗い中をお姉さんはコンロの方へ向かう。ほんっとに変わった吸血鬼だなぁ……人間のこと生でいっちゃう奴が多いのに。こういう生活長いのかな?
「口に合うといいのだけど……」
あくまで電気はつけないようなのでお姉さんに合わせることに。夜目が利いてきたのか、薄暗い中で目視したのはサンドイッチだった。厚めの焼いたベーコンにオムレツ、それにトマトが挟まっているボリューミーな内容。食べ盛りのお腹にはクリティカル……我慢できるわけないよね!
「いっただきまーす!」
ひとくちガブリ。余計に味をつけてないのか、シンプルなおいしさ。思ったほど脂っぽい感じもなくあっという間に食べっちゃった。
「あ、なくなっちゃった」
「おかわり、食べられるかしら?」
「もちろんっ!」
どうやら想定内だったらしく、三人前用意されていて……全部食べちゃうよね。早朝からとんでもないカロリーな気もするけど…………女子高生だから大丈夫だよね。女子高生は無敵だから実質カロリーゼロだ。
「お姉さんの分は?」
「わたしは朝緋の血でお腹いっぱいだから大丈夫。それに、特定の血液以外は基本的に受け付けないので」
「そこは他の吸血鬼と変わらないんだね」
そうね、とティーパックの紅茶が入ったマグカップを差し出される。お姉さんも併せて紅茶だけ啜る。…………お茶は大丈夫なんだ。
「それにわたしは、好きな人が美味しそうに食べているところを見るのが好きなの」
「好きって……私の血でしょ?」
「あら、理由はどうあれ朝緋が好きになったことは本当よ」
真っすぐ見つめてくるその赤い瞳に揺らぎはなくて…………こんなどストレートに伝えられたらこっちが恥ずかしいんだけど! まーたお姉さんのペースに流されるのは癪だから話題を変えよう。
「朝ごはんのお金いくら? 払うよ」
「気にしないで。わたしがしたくてしたことだから」
うーむ、このお姉さんできる…………至れり尽くせり過ぎて逆に怪しくもある。何か企んでるんじゃない? と思ったけど、吸血鬼でした。企むどころか昨日の夜はお楽しみ…………
「うわぁぁぁぁぁぁぁ恥ずかしいぃっ!」
「朝緋?」
「忘れて! お姉さん昨日のことは忘れて!」
「それはちょっと……あんな情熱的な夜は…………」
「だぁっー! だからそれを言わないでってば!」
あぁ、さらば普通の恋。私はちょっと大人の階段を登ったよ。しばらく思い出して悶えそうだよ。なんなの。どうしちゃったの私。
変わった夜明けを過ごしていると、お姉さんが窓の外を一瞥して、それから立ち上がった。
「……そろそろお暇します」
「やっぱり朝日はダメなんだ?」
「あなたなら大歓迎なのですけど」
さらっととんでもないことを言うよこの人。ダメだ、結局相手に主導権を握られちゃってる! 手ごわい!
「そういえば返事って今した方がいいの?」
「いえ……また今度にしましょう。今晩はわたしが我慢できなくて来ただけですし。それに言ったでしょう? 同じ獲物を追っていれば――」
「そのうち会える…………」
「そういうこと。わたしにはやるべきことがあるので……ではまた、いずれ」
ものすっごく自然に、お姉さんは私の頬にキスをして部屋から消えていった…………
「もぉ……なんなのぉ。不意打ちじゃん………………」
今まで、戦いの中で吸血鬼に遅れをとったことはなかった。お姉さんにだって最初はリードしてた感じだったのに、いつの間にか相手のペースに飲まれてる。朝緋、一生の不覚っ! このままで終わると思うなよぉ!
「はぁ………………寝よ」
色々ありすぎた……学校行くまでまだ時間あるし、寝て落ち着こ。
…………もう変な感じもしないし!




