第4話 早めの再会(ザ・不法侵入)
その夜は帰らされてお仕事終了。鬼狩りのお姉さんのことはうまーく隠してたから怒られることは回避したぜぃ! さすが私、ナイス私。
で、さすがに疲れたもんだから誰もいないマンションに帰ってばたんきゅー……ばたんきゅーって古い?
「ただいまぁーっと」
……誰もいないけどね。
電灯のスイッチを点けると、まぁ女子高生に似つかわしくないつまんないワンルームがお出まし。いい匂いとかはしない。大して使ってないデスクと、小さなテーブルにベッド、テレビに着替えの入ったチェスト。スペアの刀が数振りとナイフもいくらか……後半はいらないか。あとは妹と最後に撮った写真くらいが置いてある。
「んぁ〜っ、疲れたっ! シャワーだシャワー」
服を雑に脱ぎ捨てて洗濯機へシュゥゥゥ!
一日終わった後のシャワーは格別ですよ。ホントはお風呂入りたいんだけど、お湯張るのと掃除が面倒なんだよね。近くの銭湯も最近行ってないなぁ〜。全ては対魔の巫女なんつーブラック労働のせいだ。
「ふぃ〜サッパリ」
これまた適当に着替えてまとめ買いしたシリアルバーを取って齧る。微妙にパサいついてるのがイヤなんだけど、箱で買っちゃったからね、食べないといけませんのよ。
「あ、もう治ってる」
気づけば足の負傷は元通り。一眠りの手間もない。まったく便利な身体です。対魔の巫女さまさまだ。こんな身体じゃなければとっくに辞められるのにねぇー?
「さてと、明日の授業は──っ!」
少し湯冷めしたのか、冷えた首筋に触れると奇妙な感覚に襲われた。鏡で確認するのも面倒だから首の右側に指を這わせてみると……まだ牙の痕がある。
「うぉ……がっつり」
油断して噛まれたことはある。でも大抵はすぐ治ってた。他の巫女が手に負えない吸血鬼の時も同じ。あのおねーさん……アンナさん、もしかして相当強い?
確認のために軽く押してみると、静電気に当てられたような感覚が走る。痛くはない……けどなんだろう、癖になりそうな……
「んっ…………」
いつ吸血されても、残るのは虚脱感と不愉快な痛みだけ。苦痛に悶えながら治るまでの時間、ずっとイライラしなきゃいけなかった。でも、今回のは変。触るまで全然気づかなかったし、触ると変な気分。やめないといけないと思いつつ、手は首から離れない。身体は冷めるどころか熱を帯びて、息を荒くさせる。
『助けた分、お礼は頂きますわね』
「ん…………はぁ…………はぁ……………………」
うーわ、クラクラする。オフィスチェアでぐるぐる何十回転した時より目が回る感じ。吐き気はないけど、頭がぼーっとしてはっきりしない。お酒飲んだらみんなこうなってるのかな? あ~まずい、これは非っ常にマズいよぉ……世界が回ってるぅ…………
意識は薄れながらも、かろうじてベッドにダイブ。これなら多分大丈夫。多分。明日のことはぜーんぶ放り出して、枕に突っ伏した私なのだった……
時間が経っても症状は変わらなかった。
久々に熟睡できるかも……なんて思ってたけど、やっぱりお姉さんに吸血されたせいなのか、ほんのわずかに意識を失っただけで、身体は火照ったまま。なかなか眠れないまま頭はぐわんぐわんと回り続けた。美人に噛まれたなんてちっとも良くないよ。
「あぁ~目が回るぅ」
いつの間にか暗くなっていた部屋で、ずっと唸り続ける。そうでもしてないと白目を剥いて女子高生にあるまじき顔面を披露してしまいそうなのだ!
「誰かぁ~水持ってきてぇ」
「水道水でよろしい?」
「いやぁ、冷蔵庫にボトルあるから……」
「分かりましたわ」
ん? 私もようやくおかしくなったのかな。誰もいない部屋でイマジネーションお姉様とお話してる? ぐぇ、吸血されてパーですよパー。明日は病院からか……診察券どこだっけ…………
「って、そんなわけないでしょッ!」
枕下のナイフを取り出し、身体を無理矢理叩き起こして飛び上がる。女の子の部屋に入る不届き物は誰じゃーっ⁉
寝起きで夜目が利かないまま、ぼんやりと見える輪郭の相手へ詰める。寸止めで終わらせるように刃を突き出すと、予想外に腕をがっちり握られてしまう。
「落ち着いて、わたしです。わたし」
「不法侵入者に友達はいないってば」
「よーく見て、朝緋」
「…………んぁ?」
ひんやりとした手が拘束を解いてナイフを取り上げる。でも反撃するでもなく、窓の光に当たるようにゆっくりと歩み寄った。それでもまだ、私にはぼんやりとしか分かんない。
「また会えます、なんて言いましたけれど……我慢できなくて」
三日月に照らされて、私がちゃんとわかるように顔を近づけてくれてようやくピントが合う。花と血の匂い……数時間前に覚えたそれは、私の意識を臨戦体制へ切り替えた、のだが。人間離れした容姿が目に入ってクールダウン。
「…………アンナさん⁉」
緊張状態が解けた私を見て、超美人のその人は子供みたいに笑う。表情のギャップがまた……これは見惚れちゃいそうなくらい。退魔の巫女なのにちょっと悔しいぞぅ。
「来ちゃいました」
「……積極的過ぎない?」
冷静になったらまたクラっとしたところを、お姉さんが抱きかかえてくれた。てっきりそのまままた噛まれるかと思ったら、お姉さんはゆっくりとベッドに座らせてくれる。
「あ、ありがと」
「はい、お水です」
キャップを開けて私にペットボトルを渡して、お姉さんも隣に座った。なんだか見るのが恥ずかしいから窓の方を見ながら水をゴクリ。落ち着け、私は告白された方だぞぅ!
「刀」
「え?」
「傍にあるのに、取らないのですか? ナイフもシーツの下にまだ一本」
「あー……まだいいかなって」
「なぜ?」
「いまお姉さん切るつもりないし」
「吸血鬼なのに?」
「助けてくれたじゃん?」
「ふふ……変わった退魔の巫女ですわね、あなた」
「お姉さんもね」
あの場は仕事だから切ろうとしただけで、今はオフだしね。聞きたいことはあるんだけど、ちょっと疲れてそれどころじゃないかも。それに、お姉さんが隣にいると変に意識しちゃう。
「やっぱり、良い…………」
「へぁ⁉」
不意に……お姉さんに首筋を撫でられると、また身体に電流が走ったように痺れる。せっかく火照りが収まって来てたのにぃっ! こっちだってやられてるだけじゃないよ!
「お姉さんヤバいね……私が男の子なら押し倒してるよ」
「あら、女の子でも押し倒して構いませんのよ?」
「うぇっ⁉︎」
返す刀でさぁ来てくださいと言わんばかり。無防備に、お姉さんはベッドに背を預けた。そして私を見るその瞳は、何かを期待しているようで……
「どうぞ?」
「ぇ……うぇ〜っと……ぉ?」
こういう時どうすればいいかなんて知らないんですけどぉ〜っ⁉︎




