第3話 『鬼狩り』波旬アンナ(超美人だよ)
ってことがあったの。そしたらあら不思議! なんだか気に入られちゃってプロポーズされちゃったよ。はい、回想終わり!
「妻? え、どゆこと? 告白?」
「あ、え⁉ えーっと…………」
さっきまでのミステリアスな雰囲気が完全になくなって、しどろもどろになるお姉さんは両手をあわあわさせて言葉が出ない。ちょっと面白いよこのお姉さん。
『朝緋ィッ! どこにいるんだッ⁉︎』
「う゛ぇっ?」
お姉さんの声で調整されてたのに、耳の中が先輩の爆音で痛い。めっちゃ怒ってるし。
「さっきの交差点から離れた路地にいるよ。もう終わった~」
『だったらさっさと報告するのが巫女だろぃ!』
「うるっさいなぁ」
『あんッ⁉︎」
「なんでもないで〜す。回収よろしくぅ」
ま、標的は倒したしいいんじゃない? 結果オーライってことで。あとは……
「どうしよっか。もうすぐ警察来るけど?」
「そ、それは困りますわ!」
……なんかお嬢様っぽい喋り方。私も真似したらお嬢様になれるのかしら⁉︎
「お返事はまた今度聞くということで!」
「また会えるの?」
めんどいから倒しときたいんだけどなぁー。
なーんて考えてたらお姉さん、あっという間に私から離れていっちゃう。
「ちょっと、告白して逃げないでーっ!」
「同じ獲物を探していればそのうち会えます!」
「せめて名前だけでもーっ!」
あれ? これじゃ私がお姉さんのこと追っかけるキャラみたいじゃん。
「アンナ! 波旬アンナです! また会いましょう、朝緋!」
呼び捨て……いきなりフレンドリーかよぉ。
ビルとビルを交互に蹴って、お姉さん──アンナさんは消えていっちゃった。アンナさんっていうんだね、吸血鬼から朗らかに名前言ってもらったのは初めてかも。いつも対峙してる吸血鬼と全然違う気がする…………なんというかこう、人間に近いような。それにしても……
「告られちゃった……」
最後に告白されたのは一週間前だっけ。そっちはちゃんと人間だけど。今回は私達の切る存在の吸血鬼ときた。しかも交際飛んで求婚だよ? どんだけ私のこと気に入っちゃったの。自分の魅力が怖いわ~。
「あ、私じゃなくて私の血かな? ……って」
身体目当てってコトっ⁉︎ 失礼しちゃう!
◇ ◇ ◇
パトカーに回収されて拠点に戻ってすぐ、心配する言葉じゃなくて拳骨をくれる職場はやっぱりおかしいと思いまーす。元気よく帰還報告をしたのも束の間、愛の鞭もとい拳炸裂。
「ったぁ〜ぃ」
「ぶりっ子みたいな声出すんじゃないよ、気色悪ィ」
「真澄ちゃんにも乙女の頃があったくせにぃ──あだぁっ⁉︎」
もっかい拳骨は照れ隠し? 素直じゃないんだから〜。いつか綺麗な頭の形が凹みそうだよ。
「まったく、その減らず口は治らないのかねェアサヒナちゃんは」
「昔っからこれが私のキャラじゃ〜ん。ピヨピヨピヨ」
この肉体言語大好きなアネゴは私の先輩で師匠の銀嶺真澄。回想で通信してた真澄ちゃんのことね。褐色肌に銀髪なんて日本の社会人にはいなそうな見た目なんだけど、れっきとした公務員なんだよね。元退魔の巫女って表現がわかりやすいかも。退魔の巫女と警察の橋渡し役……的な? 一応『異形対策課』って部署の所属。私たち巫女はそこと協力関係。
「最近は余計にやかましさが増してんだよ!」
「喋ってないと暇じゃん?」
「吸血鬼と戦闘中にもペラペラ口動いてんのはお前くらいだよ」
「口が回ってる間は余裕の証拠なのですよ姉御〜」
巫女って真面目ちゃんが多いからねぇ。抜刀したら急にシリアスになっちゃうから温度差で風邪引きそ。
いつ死ぬか分かんないんだから、最後まで喋ってた方がいいのにね?
「能力持ちの吸血鬼相手にしてそれだけ元気なら明日も仕事できるよな?」
「労働者に正当な休みは?」
「退魔の巫女にンなモンないよ。ったく、最近巫女の負傷者も多いってのに次から次へと……」
福利厚生とは無縁の場所、有給申請は毎回破り捨てられるのが職場の流儀だ。南無南無。公休? なにそれおいしいの?
「他のコがやられたの?」
「あぁ……隣町に行ってた巫女がな、血ィ吸われて死んだよ」
「それなら私も吸われたよ」
拳骨三発目。真澄ちゃんの辞書には『諭す』とか『傾聴』って言葉がないんだろう。落丁だらけの訳アリ品だ。私は『淑女』って言葉を書き加えてあげたいね。
「ンな大事な報告を今すんなッ!」
「あたたた……もぅ、アホになったらどうするんだよぅ」
「心配すんなアホ」
ひとしきりコントを終えると、真澄ちゃんはタバコに火をつける。未成年の前でぷかぷか吸う大人にはなりたくないものですよ。
「……で、大丈夫なのか?」
「ん? うん、別になんとも……っていうか、真澄ちゃん私が吸血されても問題ないって知ってるでしょ」
「そりゃそうだけど、念のためさ……ま、お前は倒して帰って来たんだから問題ないか。ハッハッハ!」
人使いの荒い原因でもあるんだよね。言わなきゃよかった。
…………あれ? もしかして私が倒したと思ってる? 吸血鬼のおねーさんが倒したんだけどな、嘘吐いちゃった。ま、いいや。バレたらヤバいけど。告白されちゃったからね、面白そうだから隠しちゃうのはしょうがないよ。ヤバいけど。
「ま、お前のことは置いといて」
「もっと過保護にしてよぉ~」
「黙れ。話を戻すと、出動した退魔の巫女が吸血されて死亡する事件が各地で発生してんだよ、ほれ」
デスクの上にあった書類を無造作に突き出される。受け取って確認してみると、そこに書いてあったのは『巫女喰らい』という単語。ピントのズレた写真で、金髪の男の人っぽい姿が映っていた。いわゆる二つ名持ちの存在だね。
「……ロリコン?」
「吸血鬼の中でも最低にクソみたいな奴さ。神出鬼没で現れた地域の巫女は悉く被害に遭ってる。で、しばらく食い散らかしたらまた移動……それが今回はここに来ちまったってわけだ」
「お前が仕留めた個体もこいつに吸血されて眷属になっちまった人間だったらしい」
『退魔の巫女……前からその味に興味がありましたの』
う~ん、あのお姉さんは私に吸血したけど「興味があった」ってことは、まだ飲んだことなかったみたいだし、違うのかな? それに私と戦ってた吸血鬼の頭潰してたし…………何より、お姉さんが名乗ってたのって、
「鬼狩り……」
「おい朝緋ィ、なんでその名前知ってんだ?」
「え? あ、なんでだっけかな? 噂で聞いたのかも。知ってるの?」
「吸血鬼を狩る吸血鬼で知られてるが目的や拠点は一切不明の奴だ。過去に退魔の巫女の仕事を何度も邪魔されてる。アタシが前線出てた時も噂されてた二つ名持ちだよ。巫女喰らいも狩ってもらえりゃ楽なんだがね」
それお姉さんじゃん! 鬼狩りって名乗ってたし! へぇ~有名人だったんだぁ~!
「へぇ……鬼狩りってそういうこと」
「なんだ、何か知ってるのか?」
「いーや。ぜーんぜん知らない! 初耳~」
告白されましたよ〜ぅ。もしかして私、超すごいコトになってませんか⁉
「まぁ、鬼狩りは置いといて……巫女喰らいに会っても、絶対一人で挑むなよ? いくらお前が単独行動許されてるからって――」
「はーいはいわかってますって! 『油断せず、迅速に、的確に』でしょ。耳タコすぎるよ私はそこまでボケてませんってあだだだだだだ⁉︎」
「足怪我して帰ってきた癖にナマ言ってんじゃないよこのアホゥ!」
どーして真澄ちゃんはこう耳を引っ張りたがるかなぁっ! 伸びすぎてエルフになっちゃうよ。
「ともかく! しばらくアタシ達のメインの仕事は巫女喰らいの捜索だ。いつでも出撃できるようにすんだよ」
「えぇ〜めんど……」
他の人が弱いからって人使い荒いんだよなぁこの職場。退職代行使えないかな。
とか考えてたら拳骨をプレゼントされました。いつか訴えよう。




