第24話 白神夕緋(シスコンだよ、今でも)
写真を手に取って、月明りに照らしながらお姉さんに見せてあげる。カメラを向けられて緊張してる夕緋と、その超可愛い妹に抱きつく私の思い出の1枚だ。
「私の妹……夕緋っていうんだ。白神夕緋」
「可愛い妹さんね」
「でしょ〜? もう可愛くて可愛くて…………私と違って落ち着いてて、芯がある強い子だったんだ」
「…………だった?」
「四年前にね、吸血鬼に殺されちゃったの」
「……………………」
なんてことはない、ほかの人が吸血鬼に噛まれて死んじゃう事件と同じ。よくあること。それがただ……夕緋が犠牲になっただけの話。私はお姉さんに肩を寄せて、思い出を語り始めた。
「二つ名持ちの吸血鬼でね、『童喰い・エリザベート』……って奴だったんだけど。子供ばっかり狙って襲う最っ悪な吸血鬼だったんだ」
今でも覚えてる。
退魔の巫女として独り立ちしてすぐのこと……仕事中に電話で夕緋の死を聞いた。両親と夕緋で出かけた夜に襲われたって。
吸血鬼の嗜好のおかげ……っていうと変だけど、両親の血は最初から興味がなかったらしくて、重傷を負わせるだけで助かった。でも妹は……夕緋だけが、全身の血を吸われて死んだ。
「当時の私ってさ、まだ仙ちゃん……仲間と組んで退魔の巫女として仕事してたんだけど、夕緋が犠牲になって頭に血が昇っちゃって……そっからはお姉さんみたいに復讐の為に戦ったよ」
「…………………………」
そこからは少し記憶は曖昧で……覚えてることは視界に捉えた吸血鬼を、とにかく切った。切って、切って、切って切って切って……ひたすら切って。
事件を追って、気づいた時には童喰いの前に立っていた。ゴスロリ姿の、銀髪の女吸血鬼。私が発見した時も、どこからか攫った小さな女の子を吸い尽くしていた。
『食事中に何か用?』
『私に似た超可愛い女の子、血ィ吸って殺したよね? なんで?』
『はァ? バカなの? …………小さい子の方が血が美味しいからに決まってるでしょォッ⁉︎』
無策だったし、無謀だった。童喰いは当時、県内でも対応が急務で、それでも巫女が何人もやられた。本来なら真澄ちゃんが任務につく予定だった程の凶悪な吸血鬼だったって、後で怒られた。
でも当時から巫女刃術は使えたし、夕緋の仇が取れれば死んでもいいって思ってたから……相打ち覚悟で挑んだよ。当時の自分からすれば、仙果がいて何とか勝てるような相手だったからね。ま、結局隙を突かれて噛まれたんだけど。
その時に初めて気づいたんだ……私は吸血されても死ねない体質だって。たまーにいるらしいんだよね、吸血耐性のある巫女って。
そこからは戦いなんて表現するには泥臭くて、噛まれながら相手の身体に刃を突き刺す獣みたいな争いだった。飲まれた血を取り込まれないように首を搔っ切って、全身の内臓に穴を開けて、自己再生なんて出来ないよう切り刻んでたら……朝になった。
『悪かったッ! 悪かった、謝る! 謝るから太陽だけはやめて!』
『だったら返してよ……私の妹を、夕緋を』
『なんで⁉︎ 人間なんていくらでもいるじゃない⁉︎ 何人か食べたくらいで、人間の子供なんてまた作れば────』
笑っちゃった……復讐相手にそんなこと言っても、夕緋は帰ってこないのにね。そのうえ想像以上の台詞が返って来てもう爆笑。残った首と胴体を朝日に晒してあげたよ。日光に照らされて断末魔をあげた時には、胸のつかえが取れた気がした。
『やった…………やったよ……夕緋。仇、取ったからね』
燃えて灰になっていく童喰いを眺めながら、いっぱい泣いた。涙腺が壊れたんじゃないかってくらい、いっぱい、たくさん、たくさん泣いた。人生で初めて声が枯れるまで泣いて…………それで私の復讐は終わり。
「もっと時間が掛かるかと思ったんだけどね。その童喰いって吸血鬼は子供なら見境なく食べる奴だったから、あっさり。それで──」
「へくちっ」
思い出に浸っていたら、隣のお姉さんから可愛い声。そうだった、お姉さん川にダイブして濡れてたんだ。というか、吸血鬼もくしゃみってするんだね…………可愛い。
「ごめんなさい、大事な話の途中で」
「ううん、気にしないで。それよりお風呂入ったら?」
「そうね……お話の続きは、温まりながらにしましょうか」
「うんうん。あっついお風呂で…………え?」
お姉さん、何か変なこと言わなかった? いやいや、このシリアスな雰囲気でそんなこというわけ…………
「朝緋もまだ入っていないでしょう?」
「そりゃさっきまで寝てたし入ってないけどぉ……」
「わたしはずぶ濡れ、朝緋はまだ。なら、二人で入った方が合理的でしょう?」
血を飲んで少し回復したお姉さんは、力強めに私をお風呂へ連れて行くのでした。




