第23話 半不死身の巫女は何を想う(また、生き延びちゃった)
二章までのあらすじ。
お姉さんとイイ感じに仲を深めてたら新しい巫女喰らい(おじいちゃん)登場。
対吸血鬼への剣技、巫女刃術を披露して見事撃破! ……かと思ったら、めちゃ強のおじいちゃんも分身で、本物の巫女喰らいに不意打ちくらいました。最っ低。
そんでお姉さんが日の出で灰になるのを庇うために独り残ったら、ボロボロになって意識を失いましたとさ。次回朝緋ちゃん、死す。はい、三章スタート!
◇ ◇ ◇
意識を失った主人公ってさ、普通精神空間に行くもんじゃない?
夢の中で過去編始まったりとかさ。なんかトラウマ呼び起されてうなされるとか。お腹と胸刺されたんだよ? めちゃシリアスな展開にするのが筋ってもんでしょ。
……ふっつうに起きたんですけど。
「知らない天井だ……」
「いつもの病院よ、馬鹿」
迅速なツッコミ感謝。ベッドの傍から仙ちゃんが見下ろしていた。
「気絶した主人公になりたいじゃーん。一週間くらい寝ててさぁ『俺……どんくらい寝てたんだ……?』みたいな」
「それだけ無駄口叩けるなら大丈夫ね。先生呼んでくるわ」
安心したように、仙ちゃんは部屋を出ていく。個室に運んでくれるなんて巫女は待遇が良いことで。この調子で豪華朝食セットとかない? 傍らの机に置いてあった自分のスマホを点けてみると、時刻は同日の午後五時……ディナーの方だった。
「まーた生き延びちゃった。自分の悪運がおっそろしいねぇ…………」
ごめんよ妹、そしてごめんねお姉さん。私に死亡フラグは無効なんだ。
なかなか死ねない、死なない。病衣を開けると、確かに胸とお腹の傷は塞がっていた。現代医療の賜物……じゃなくて、白神家の呪いみたいなものだね。ありがたいのか面倒なのか……勝手に妬まれるから面倒九割九分かな。打者なら最強だね。やわらかい枕に頭を預けて、もう一度天井と睨み合い。
「…………ほんっと、死なないもんだ」
ま、いっか…………お姉さんの復讐は手伝ってあげないとだしね。
◇ ◇ ◇
午後七時。場所は警察署内、異形対策課に移ったけどボロッボロの制服はちょっと恥ずかしい。真澄ちゃんのデスクには前にも増して吸い殻山盛りの灰皿。仙ちゃんが顔を顰めながら報告を済ませると、真澄ちゃんも眉間に皺寄せ。怖い顔がもっと怖くなっちゃった。
「巫女刃術に日光の効かない能力…………想像以上に厄介だな」
「どうして吸血鬼が巫女刃術を使えるのでしょうか?」
「全身に退魔の巫女の血が流れてんじゃない? 巫女喰らいなんだし。乙女になりたいお年頃なのかもね」
「ンでお前が異形対策課に来てんだよ……………………⁉︎」
「さっき退院したし」
いつものお医者さんがまたびっくりしてたよ。「なんで歩いてるの」ってさ。病院食って味気ないからヤなんだよねぇ~……お姉さんの料理食べたーい。
「それよりなんで二人とも巫女喰らいの能力知ってるのさ」
「あんたが寝てる間に記憶を見たに決まってるでしょ」
「きゃー、プライバシーの侵害~。同僚と上司が弱味を握ろうと強引に迫りますぅ~」
「お前ン中の記憶見ると酔うんだよ…………ったく。仙果、他の巫女と警戒強化。別の吸血鬼の報告も出てるから、『巫女喰らい』以外にも気をつけろよ」
「了解です、失礼します」
課の中は他の署員も出払って、室内には私と真澄ちゃんだけが残った。窓の外からは車が走り去る音が聞こえる。
「…………傷はいいのか?」
「え? うん、もう平気。すぐにでも動けるよ」
「いや、いい…………今回のはアタシのミスだ。しばらく出なくていい」
あれ、思ってたリアクションと違う。調子狂うなぁ…………
「お前に頼りっぱなしで、お前のことを見てやれてなかった…………悪い」
「らしくないなぁ~、私は気にしてないよ」
これでも労災なんて下りないんだから、巫女ってすごいよね。その分通常のお給料が良いから我慢してるけど。
「無理な時は無理って言ってくれ。お前だってまだ…………」
「はーいはい、辛気臭いのはヤメヤメ。報告書は真澄ちゃんたちで書いといてよ」
気性の激しさが取り柄なんだから拳骨くれなきゃ安心できないや。誰も彼も心配性で困っちゃうね。私は、無理なんて絶対言わないよ。
「おい、朝緋…………!」
「誰かが率先して戦わなきゃ、巫女が減っちゃうでしょ」
「だからって……今朝瀕死状態だったお前が出る必要はねぇんだぞ」
「治ったからいいじゃん。それに真澄ちゃん知ってるでしょ~? 私、負けず嫌いだから……やるよ」
自分の為にも、お姉さんの為にも……ね。
「大丈夫――私は死なないから」
笑って見せると、真澄ちゃんがそれ以上何か言うことはなかった。
◇ ◇ ◇
午後八時。気を遣ってくれた真澄ちゃんのおかげで、車の送迎で帰宅。やっぱり車は楽だね。早く免許取りたいよ。
「あー、疲れた…………ん?」
誰もいないはずの自宅。本来なら閉まっているはずの扉が開いてる。盗るものなんてないんだけど…………ゆっくりと中に入ると、ヒトの気配が確かにある。暗闇でわずかに見えるシルエットは長い髪。ベッドの下で倒れていたのは……
「お姉さんっ⁉︎」
「あ……朝緋」
良かった、生きてた。でも、すごい消耗してる……?
抱きかかえたお姉さんの身体は、濡れたままでひんやりとしていた。川に飛び込んで、太陽の光を避けてずっとどこかに隠れていたのかも。とにかく、このままじゃ危ない。
「お姉さん、血飲める?」
「だ……だめ…………朝緋の方が重傷のはず…………!」
「そりゃかなり血液なくなったけどさ」
本調子じゃないのは確かだよ。でも、それがお姉さんに血を分けない理由にはならないんだよね。制服をはだけさせて、首から肩までをお姉さんへ向ける。まだ噛み傷は残ってるけど、多分大丈夫。たぶん。
「今のわたしでは……加減ができません」
「やだぁ、もしかして今日は眠れない?」
「冗談じゃ、ないの…………!」
息も荒くて、きっと襲わないように抑えてるんだと思う。すごいよね、もう吸血鬼じゃなくて気遣いの鬼だ。そんなお姉さんだから血をあげたいんだよ、私は。
「大丈夫。大丈夫だから……飲も?」
「――――ッ!」
私の一言で、お姉さんはタガが外れた。暗闇で煌めく赤い瞳から、優しさが消えて……私の首元を思いっきり噛みつく。
「ぁ…………ぅ………………」
「ハァ…………ハァ………………ぐっ…………」
「大丈夫……だいじょ、う、ぶ…………」
抜けていく血と一緒に、意識はぼんやりとしていく。
同じように思えたけど……お姉さんの吸血は戦って血を失うのとは違ってた。だってお姉さん、また気を遣ってるだもん。自分の方が大変なのに、私に影響がない程度に吸血を抑えてる。昂りを鎮めながら、お姉さんはしっとりした表情で私を見つめた。
「どう、して……」
「もぅ~ほんとにお腹いっぱいになったのぉ?」
遠慮した後でもっと食べたいって言われても困るんですけどー。
「何度も……何度も疑問に感じていました。退魔の巫女でありながら、わたしへ協力することに何の忌避感すらない……そのうえ貴重な血まで分け与えてくれる。戦いでも前を張って、血を流すことに躊躇いがない…………朝緋、あなたは何を考えているの?」
「えぇ…………分け隔てなく接する善良な退魔の巫女ってだけじゃダメ~?」
「朝緋」
あ……お姉さんの眼、マジだ。冗談言っていい雰囲気じゃないね。
「分かった、分かりました。お姉さんは、まぁ……変わった吸血鬼なんだなって思ってるだけ。私は吸血鬼全部を憎んでるわけじゃないし…………私がお姉さんに協力するのはさ、復讐に苦しむのはバカらしいってことなんだ。あ、勘違いしないでね? 復讐は何も生まないとかじゃなくて、終わらせられるなら、さっさと終わらせた方がいいってこと」
「…………それは、まるで復讐したことがあるような言い方」
「うん。あるよ」
視線はテレビの前に立てられたフォトフレームに写る二人の女の子へ。数年前に姉妹で撮った思い出の写真だ。
白神朝緋と白神夕緋。
今はもういない、私の妹との写真。
吸血鬼に殺された、私の妹だ。




