第21話 巫女刃術・桜ノ舞(復讐完了……?)
雨が止む。けど曇天は変わらない。
逃走、戦闘開始から何分経過したっけ? カウントなんてしないからなぁ。今度腕時計でも買おっかな。
「見飽きたぁ……? ハ……ハッ、ハッハッハッハッハ! 劣勢の分際で見飽きたとは、退魔の巫女も笑わせてくれるじゃぁないか!」
「もっとないの? こう……色々合体して龍っぽくなるとかさ。あ、龍ってのはドラゴンじゃなくて龍ね、龍。ぷかぷか浮かんでるやつ」
「生憎曲芸の類は苦手でね、実用性が大事なんだ」
「長生きしてそうな割につまんないね」
「鬼狩りの小娘も少々長く生きているようだが退屈だがねェッ⁉︎」
「これからだよ、お姉さんは」
会話の間にも私は進む。切って血を塗って、また切って。植物が分岐するよりも早く、茎が伸びるよりも速く、種が芽を出すよりも疾く!
早く、速く、疾く!
血の一滴がコンクリートの地面に吸い込まれるよりも先に、巫女喰らいの前に立ち塞がる草花をすべて切り裂き突き進む!
「な、なぜだ……! なぜ追いつけないッ⁉︎」
「巫女刃術は普通使えば死と隣り合わせの技。安全圏からガーデニングしてるおじいちゃんに負けるわけないよ」
顔を掠める攻撃すらも気にしない。最速最短で吸血鬼の間合いへ詰めるために、全神経は両手の刀に集中してる。いま多分、女の子が普通出さない叫びしてると思う。アフレコさせて欲しいなー!
「能力を攻略して勝ったつもりかね、お嬢さんッ⁉︎」
「はははっ、押されてるって自覚はあるんだッ?」
いまどんな気持ち? 原稿用紙一枚でまとめてみてよ。
巫女喰らいまでの5メートルのところで、帽子を投げ捨てたヴァルクが能力を止めてこっちへ迫る。待ってたよ…………この時を!
「その刀ごとへし折ってくれるゥッ」
「巫女を、なめんなっ!」
身体に植物を巻き付けたヴァルクが拳を振り上げる。なるほど……お姉さんの打撃が効かないのは律儀に守ってたんだね。だったらそれごと全部ぶった切る!
「第二刃──」
左手から血液を走らせながら、白髪の巫女喰らいを迎え撃つ。必ず殺める為の技にはその先がある。普通はこうならないように何人かで組むんだけどね。
血の刺突と斬撃は植物による守りを切り裂き、巫女喰らいの四肢を捥ぎ取る。
巫女刃術・血炎からの超高速連撃。刃から飛び散る血の様が、徒桜に見えたことからこう呼ばれてる。
──巫女刃術・桜ノ舞。
「なぜなぜなぜなぜなぜなぜェッ──」
「お姉さんっ」
「ありがとう、朝緋ッ!」
オイシイとこは持ってってよね。
切り開いた道を、後ろから鬼狩りのお姉さんが全力で駆ける。濡れた足元を水を跳ねさせて、私の頭上を飛び越えていく。
「終わりです……ヴァルク!」
「こんな、は……………………」
お姉さん渾身の飛び蹴りは、白髭と白髪だらけの吸血鬼の顔を吹き飛ばした。骨は砕けて脳は吹き飛び、橋に転がった巫女喰らいは、完全に止まった。
「…………倒した、のでしょうか」
「みたいだね。どう? 分身か分かる?」
お姉さんがヴァルクの胴体の匂いを確認する。ゆっくりと、足元で倒れている吸血鬼を嗅いでから……ひと呼吸おいて、お姉さんは頷いた。
「おそらく。栞の身体に残っていた匂いと同じ濃さのものです」
「はは、ビンゴだ。やったねお姉さん。復讐完了ぉ~!」
右手でハイタッチ。力の入ってない手で受け止めたお姉さんは、どこか複雑な表情。
「朝緋がいなければ……今頃死んでいたかもしれません」
「大げさだなぁ~、むしろ私の方がめちゃくちゃ暴れたんだけど良かった?」
「…………えぇ。とても、とっても格好良かったです」
次第にお姉さんの顔が晴れていく。
照れるなぁ。もっと褒めてくれてもいいけど……お姉さん全力でほめちぎって来そうだからやめとこ。っていうか疲れた! 真面目に働くと血まみれだからヤなんですけどー。
ひと仕事終えて空を見上げると、雲間から光が差し込み始めた。
それは吸血鬼にとって活動の終わりを告げる時間。結局、巫女喰らいが日中動いてた謎、わかんなかったなぁ。とにかく真澄ちゃんにも連絡もしなくちゃ。
「お姉さん早く避難しなきゃ」
「そうね。告白の返事は、また夜にでも」
「そ……ソウデスネ」
私には短い期間だったけど、お姉さんにとっては長い復讐が終わってよかったよ。これでお姉さんもゲームクリア、だね。そうなると……本格的なお付き合いか…………とりあえずマグカップ揃えちゃう?
「あら、照れてくれてる?」
「お姉さんが積極的過ぎるんですぅ~」
「ふふ……これからはもっと迫るから」
遠慮ないよこのお姉さんぅ~。
それよりさっさと逃げないと太陽で灰に────
「ん……………………?」
『誰か』に引き留められて、足が止まった。というより、止められた。後ろには誰もいない、倒した吸血鬼・巫女喰らいヴァルクがいるだけ。
「…………………………………………ぇ?」
目を落とすと、お腹に何か刺さってる。
赤くて、尖ってて……あ、やば……完っ全な不意打ち……
「朝緋ッ⁉︎」
「爺の素体は、中々手に入らない貴重なものだったんだがな……実に残念だ」
赤い何かは無造作に引き抜かれて、解放される。
振り返った先────地面のヴァルクだった存在は太陽に焼かれ消え始めている。そしてその傍に……黒髪で赤い瞳…………男の吸血鬼が朝日に雲間の光に照らされていた。




